第33話 キュウの かいたくちの いちにち(ひる)
しょくどうのいりぐちにはいると、ひとのれつができてた。
すぐにれつにならんで、じゅんばんをまって、おしょくじがかりのひとから、おひるごはんをうけとる。
きょうのおひるごはんは、おいもをつぶしたマッシュポテトっていうのと、トウモロコシのスープ。どっちもおいしい。
「リアラ様、お食事中に失礼いたします」
「キュウちゃんもここにいたんだね。ちょうどよかった」
おしょくじしてると、ふたりのおんなのひとが、わたしたちにこえをかけてきた。
わたしがりゅうからにんげんになったひ、からだのあらいかたをおしえてくれた、なかよしふたりぐみだ。
「ん、どうしたのじゃ?」
「さきほど補給隊が到着したのですが、補給物資の中に女性騎士の皆様宛てのものがありました。会議室に運び込んでありますので、中身の確認をお願いしたいのです。キュウちゃん宛てや、マール様の使い魔の女の子たち宛ての荷物もありましたので、そちらも合わせて」
「ふーむ。キュウたちの荷物なら、主人のロンやマールは確認せんかったのか?」
「はい。宛名の横には男性開封厳禁と書いてありましたので、女性騎士の誰かに確認をお願いしたいとロン様が言われてました」
「なんじゃそれは。差出人は誰じゃ?」
「開拓本部付きの竜騎士の、ノエル様です」
ノエルししょーからのにもつ? なんだろう。
「あやつか。まあ身元がはっきりしておるし、危険なものは入っておらんじゃろう。キュウたちとは仲良くしていたようじゃしの」
スープをのみおわったリアラさんが、こっちをみてやさしくわらった。
「キュウも食べ終わったかの? なら、荷物確認に行くとするのじゃ」
しょっきをかかりのひとにかえして、しょくどうからでて、そのままかいぎしつにあるいていく。
とちゅうのろうかはひろくないから、リアラさんとおててをつないで、ひととぶつからないように、きをつけて。
そうしてかいぎしつのまえまでくると、そこにガウとクァオ、クォンがいた。
「ウ」
「くぁぅー?」
わたしたちにきづいたガウがこっちをむいて、きづいてないクァオがふしぎそうにガウをみあげてる。
ガウとクァオは、まだしゃべるのはにがて。
「ククッ、こんにちはー」
へやにはいろうとしてたクォンが、こっちをみてあいさつした。おおきなリスのしっぽで、ドアをささえてる。
「おぉんちあー」
わたしの「こんにちは」は、まだまだへたっぴ。
クォンは、ことばのれんしゅうをしてるわたしたちのなかでは、しゃべるのがにばんめにうまい。ときどきクックッってなきごえがまざるぐらいだ。
いちばんうまいのは、クー。もう、にんげんとおなじようにしゃべれる。かんしんしたときの、ホホウってこえだけは、フクロウっぽいけど。
「おや、来ましたね。こちらは荷物を宛て先別に分けていたところです」
「もうすぐ分け終わるとこだよー」
なかには、カエデとユニもいた。ふたりは、おおきいきばこから、にもつをとりだして、つくえのうえにならべてる。
「リアラさんの荷物は、こちらになります」
「ありがとうよ。さて、頼んだ道具はどれくらい届いたかの」
「キュウちゃんたちのは、そっちねー」
ユニがゆびさしたにもつは、おおきなぬののふくろ。いりぐちがひもでしばられてて、ひものさきには、きのいたもむすびつけられてる。
きのいたにかかれたあてさきは、わたしとガウ、クァオ、クォン。さしだしにんにノエルししょーのなまえがかいてあった。
はじめての、わたしたちあての、にもつ。
ちょっとうれしい。
「ククッ。早速、開けてみましょう。キュウ殿、お願いします。私たちでは、爪で中身を傷つけるかもしれませんから」
クォンにいわれて、わたしはふくろのひもをほどいた。
なかには、たくさんのぬのと、いちまいのうすいきのいたがはいってる。
きのいたには、ノエルししょーからのでんごんが、かかれてた。
『皆さんお元気ですか? ご主人様とは仲良くされているでしょうか。皆さんはご主人様のそばにいられるという、他の人たちよりも有利な立ち位置にありますが、油断は禁物です。横から泥棒猫が飛びかかってくるのも、よくあることなのです。ご主人様との触れ合いを欠かさないでください。今回は開拓本部の近くのお店で見つけた、皆さんが着られそうな服や小物をいくつか送ります。これを使って、ご主人様に皆さんの新しい魅力が伝わればいいなと思います。もし余ったら、身近な女性に使ってもらってください。そうやって味方や相談相手を増やすのも恋のテクニックのひとつです。皆さんの幸せを願って。ノエルより』
ふくろにはいってた、ぬのだとおもってたのは、ふくだったみたい。
いま、わたしがきてるのはロンのふく。ロンとおそろいで、ちょっぴりロンのにおいがのこってるけど、ぶかぶかで、たまにきのえだとかをひっかけたりする。
このふく、もらっていいのかな。きていいのかな。
きていいなら、きてみようかな?
「グー」
「ふくー?」
「ククッ、これはこれは」
ガウ、クァオ、クォンも、ならんでいっしょにふくをみてる。くびをかしげてたクァオに、クォンがせつめいしてあげてる。
「つまりは、ノエル様からのプレゼントです。しかもしかも」
クォンが、いちまいのふくを、つめでそっとつまみあげる。ふくのそでのところに、もじがぬいつけられてた。
「この刺繍、人気の服飾店『RAPAX』のものじゃないですか。クックックッ、さすがノエル様」
うれしそうにクォンがわらってる。らぱっくす、って、なんだろう。きいたことない。
「ラパックスー?」
クォンのこえをきいたユニが、こっちにきた。
ふわふわの、あかとむらさきのかみが、きらきらしてる。
「それって港町にある、あの有名なお店? この大陸に来た時に見たことあるけど、人がいっぱいだったなー」
「ククッ? ユニ様は『RAPAX』に入ったことがあるのですか?」
「ううんー。店の前を通っただけ。ちょっと興味あったんだけどねー。クォンちゃんこそ、よく知ってるね」
「ご主人と出会ったばかりのころ、ご主人と港町を歩いてたときに見かけたり噂を聞いたりしたのです」
「おー。よく見てるねー」
「クックックッ。前から人間の作るものには興味しんしんでしたので。まぁ、うちのご主人は服に興味が無くて店には行かなかったんですけどね」
ユニが、しろとくろのベルトがついたふくをもちあげて、クォンのまえにもっていく。
「おおー、かっこかわいい。クォンちゃんに似合いそう」
「ククッ、ありがとうございます。でもこれは、ちょっときつそうですね」
「あー。クォンちゃん胸が大きいもんねぇ。それじゃ、これなんかどう? こっちはキュウちゃん向けかな?」
ユニがいろんなふくを、わたしたちのまえにどんどんもってくる。
わたしも、きになったふくをちょっときてみた。
まちのひとがきてるような、ひらひらのついたふく。
でも、ロンのぶかぶかのふくとちがって、いまのからだにぴったりあってて、うごきやすい。
ふくって、ひとつひとつがけっこうちがうんだなぁ。
「ちょっとユニさん、みんなびっくりしてますよ。ほどほどにしてあげてはどうですか」
じぶんのにもつをかたづけたカエデが、こっちにきた。
「えー。いいじゃなーい。こんなたくさんの服を着せられるって、なかなかないよー。カエデってば、こういうの興味ないのー?」
「あまり興味はないですね」
「またまたー。さっきから髪留めをチラチラ見てるくせにー」
「うぐっ」
カエデが、はずかしそうにめをそらす。
きになるのがあったら、じっとみればいいのに。
「ククッ。遠慮なさらず、ご覧になってください。そこの伝言にも、余ったら他の人に渡すようにと書いてありますし」
「ほら、お許しもでたよー。もちろん、最初に選ぶのはキュウちゃんたちだけどね」
「しかしですね。さすがに無料でもらうというのは、気が引けるわけで。人気店なら、けっこういいお値段するんでしょう?」
「ああ、そこにちょっと書いてあるんだけどー」
きのいたのはじっこ、ユニのゆびさしたところに、でんごんがまだあった。
『追伸 服を選んだのは私ですが、代金を支払ったのはダイラ様です。皆さんに差し上げるということでしたが、さすがに申し訳ありませんので、ダイラ様へのお礼がわりになりそうな魔獣の素材や開拓地の産物など、余裕があればお送りください。ダイラ様にお渡しします』
おれいかー。せわになったらおれいをしようって、いつもロンがいってる。
まえにロンといっしょにしとめた、まじゅうのかわとか、まだのこってるかな。
「私はなにか魔道具でも作って送ろうかなーって」
「おや、ユニは今も魔道具を作れるのですか? その、失礼ですが、紫の光のせいで……」
「ああー、複雑なのは無理だよ? 設計とかまで考えてたら寝ちゃうし。でも簡単なのなら、ちょちょいちょーいってやれば作れるよー」
「そういうものなのですか?」
「練習とか実験とかで、いっぱい作ってるからねー。ちょっとしたのなら、頭を使わなくても組み上げられるの。指が覚えてるってやつ?」
「そこまでいくと職人芸ですね。しかしユニはそれでいいとしても、今の私の腕では魔獣なんて狩れないですし、どうしたものですかね。料理なんて作っても開拓本部まで運ぶ途中に腐ってしまいますし」
「それなら、今度おいしいものを作って私に食べさせてよー。そのかわり、カエデのぶんの魔道具も作っといてあげるからさー」
「……それでお願いできますか」
「なんじゃ、楽しそうじゃのう」
にもつとにらめっこしてたリアラさんも、こっちにきた。
「なにをそんなに騒いでおるのじゃ?」
「リアラ、荷物整理終わったー? ずいぶん時間かかってたけど」
「うむ。覚えのないものも混ざってたのじゃ。なんで楽器があんなに入ってたのかのう」
「ルスカが頼んだんじゃないのー? 簡単でいいから誰でも扱える楽器が欲しいとか言ってたし」
「あやつのせいか。わらわはそこまで楽器に詳しくないというに」
ためいきをついたリアラさんが、ふくにかおをちかづける。
「服か。最近の流行はわからんが、いろいろなものがあるんじゃのう」
いろんなふくをさわってたリアラさんのゆびが、ひもみたいなのをつかんだ。
「おや、これは飾り紐かの? 古風なものも揃えておるんじゃな。こういうのは好きじゃぞ」
ひもをめのまえにもってくるリアラさん。それをみて、クォンがおもしろそうにわらってる。
「しかし、中途半端な長さじゃな。む、この縫いつけられた三角の布はなんじゃ? 旗、にしては小さいのう」
「クックックッ。それ、下着ですね」
「へっ!?」
「店頭の人形に着せられていたのを見た覚えがありますよ。熱い夜をあなたに、なんて書いてありましたっけ。ククッ」
「ああ、あったねぇ……」
しっぽをゆらしてニヤニヤしてるクォンのよこで、ユニがかおをあかくしてる。
あれ、したぎなの? ぬの、わたしのてのひらぐらいちいさいけど。
たしかに、あれをきてれば、あついよるでもすずしそうなきがする。
「な、な、ぬなな……」
「そういうのがお好きですか。ククッ、リアラ様もなかなか隅に置けませんね」
「違うんじゃよ! なにを言っておるのじゃ! こんなのが下着なんて、その、おかしいじゃろう! 破廉恥なのじゃ!」
はれんちって、なんだろう。リアラさんはむずかしいことばをしってる。
「これは……。サラシとフンドシよりも過激ですね」
「比べ物にならんのじゃ! こんなの、ブドウ一粒ぐらいしか隠せないのじゃ!」
「ああいや、それはさすがにそれは大げさですよ。ミカン一個分くらいならギリギリなんとかなるのでは」
「クククッ、リアラ殿の胸の大きさはブドウかな? ミカンかな?」
「そういうことを言ってるのではないのじゃ! あとブドウよりは大きいのじゃ!」
「似たようなのがいくつかあるみたいだけどー、これなら少しはマシじゃなーい?」
「角度が斜めになっただけではないかー! やっぱり紐なのじゃー!」
リアラさんたちがおおさわぎしてる、そのよこで、ガウとクァオがのんびりふくをえらんでる。
わたしも、そっちにまざろう。あっちのみんなは、ひもにむちゅうみたいだし。
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