第32話 キュウの かいたくちの いちにち(ごぜん)
<<キュウ視点>>
へいしのひとにごはんによばれて、カエデはやっとロンをはなしてくれた。
ごはんのつくりかたは、ゆうごはんをつくるときにおしえてくれるみたい。
わたしたちがしょくどうにいくと、もうへいしのひとたちであふれそうだった。
きょうのあさごはんは、サラダと、ほしにく。
やさいサラダはみどりいろで、ほしくさとちがうにおい。なまやさい、たべたことないってひともいたけど、カエデがつくったっていったらみんなたべた。
わたしもたべたら、ほしくさよりもサラダのほうがおいしかった。いまは、たべるくさといったら、サラダ。
というか、ほしくさがおいしくなくなっちゃった。りゅうのころはおいしかったのに、なんでだろう。にんげんのからだはふしぎ。
「んー。少しは痛みが取れたか」
あさごはんをたべおわったロンが、じぶんのかたをなでてる。
カエデとくんれんしてたときに、いためたのかな。
なめてあげたいけど、いまはだめ。ロンが、ほかのひとにおこられる。
よるになってもいたそうにしてたら、へやにかえってからなめよう。
「キュウも食べ終わったか?」
わたしがおててをいっかいたたくと、ロンがうなずいて、たちあがった。
「俺は昼頃に届く補給物資の受け入れをして、その後は兵士たちと開拓地の外周の見回りだ。そっちには連れていけない。他の騎士の誰かと一緒にいてほしいけど、カエデとは夕方って言ってたな。それまでは誰のところに行く?」
わたしはちょっといきをすった。れんしゅうしたとおり、のどをいしきして、くちのあけかたをかえる。
「イアラ!」
「あー、リアラのとこか?」
わたしがうなずくと、ロンはうれしそうにわらって、わたしのあたまをなでてくれた。
わたしもうれしくなって、ロンのゆびをなめようとしちゃったけど、やめておく。
がまんがまん。なめるのは、ふたりきりのとき。
ひとまえでロンをなめるのは、はしたないからダメって、ノエルししょーもいってた。
およめさんへのみちは、けわしい。
「それじゃ、また後でな」
「あい。いーあっあい」
いってらっしゃい、っていいたかったけど、まだうまくいえない。
「ああ、行ってきます」
でも、ロンにはつうじたみたい。
ロンはちいさくてをふってから、そとにむかってあるいていった。
リアラさんのおうちは、ロンがいくところとは、はんたいほうこう。
おくすりになるくさの、つーんとするにおいがするほうだ。
くさがぬかれて、かためられた、つちのみちをあるいていく。
マクシムさんやジオールが、まほうでかためて、へいしのひとたちがととのえたみち。
りゅうだったころはきにしなかったけど、くさのうえより、つちのみちのほうがあるきやすいな。
リアラさんのおうちのまえは、とびらはあいていて、いろんなひとがではいりしてる。
なかにはいると、エプロンをつけたひとたちが、おくすりづくりをしてる。まんなかあたりにリアラさんもいた。
はいってすぐのところに、つぼがおいてある。そこから、おみずをくんで、おててをあらうのがここのきまり。
「おお、今日も来たのじゃな」
おててをあらっていたら、わたしにきづいたリアラさんが、こっちをみてにっこりわらった。
しろいてぶくろとエプロンに、みどりのくさがすこしくっついてる。
「手は洗い終わったのじゃな? 早速じゃが、そこの棚にある薬剤の加工を頼むのじゃ。いつもの乾燥した枝じゃの。粉になるまで、すりつぶしておくれ」
リアラさんがゆびさしたのは、くろい、きのえだ。
これを、にゅうばちっていうおさらにのせて、かたいぼうでぐりぐりおして、すりつぶす。だけど、きのえだはけっこうかたくて、じかんがかかる。
これを、こなになるまでつぶすのが、さいきんのわたしのおやくめ。
こなになったら、リアラさんにほかのくさとまぜてもらうと、くすりになる。そのくすりが、ロンをたすけることになるかもしれないって、リアラさんがいってた。
いすにすわって、きのえだをのせたにゅうばちを、ひだりてでおさえて、みぎてでもったぼうですりつぶす。
これは、にんげんになって、できるようになったこと。
りゅうだったころだと、こわさずにものをつかむのは、すごくむずかしかった。つめがささるし、ちょっとちからをいれたら、つかんだものがすぐにこわれちゃう。
だから、りゅうだったときに、ものをもちはこぶのは、いつもロンまかせ。ロンをけがさせたくないから、わたしからロンをさわるときは、おててはつかえなかった。
でも、いまのおててなら、ロンをおててでつかんでも、ロンはきずつかない。
だきついても、だいじょうぶ。ロンはうけとめてくれる。
ロンのことをかんがえながら、にゅうばちをぐりぐりしてたら、リアラさんがこっちにあるいてきた。
「キュウや。一度、見せてみるのじゃ」
おさらをわたすと、リアラさんはおめめをおさらにちかづけた。
むらさきいろのおめめのひかりが、にゅうばちのひょうめんにうつって、きらきらしてる。
「うむ。しっかりと粉になっておるのう。これはもう大丈夫じゃから、キュウは次の薬剤のすりつぶしを頼むのじゃ」
うなずいたリアラさんが、わたしのつぶしたえだのこなを、べつのおさらにうつして、もっていった。
きのえだは、まだまだいっぱい。
ほかのひとといっしょに、つぎからつぎへ、ぐりぐり、ごりごり。
そうしていると、はたけのほうから、おとがきこえてきた。
いつもマクシムさんがふく、つのぶえの、ぽえーっておと。
そのすぐあと、しょくどうのほうからも、ラッパのおとがきこえてくる。
どっちも、おひるのあいずだ。
「うむ、昼じゃな。みな手を止めて、食堂に行くのじゃ」
リアラさんがてをたたくと、くすりをつくってたひとたちが、かおをあげた。みんな、せをのばしたり、くびをまわしたりしてる。
おくすりをたくさんつくってると、かたとか、くびとか、かたくなるよね。リアラさんは、かたがこる、っていいかたをしてる。
りゅうも、にんげんも、ずっとうごかしてるばしょは、こったりつかれたりする。そういうのは、りゅうとにんげん、どっちもおんなじだ。
りゅうのときは、たくさんとんだあとの、はねのつけねが、こってた。とんでるときは、こまかいむきをしっぽでかえるから、しっぽのつけね、おしりのあたりも、こる。
かたがこったにんげんは、こうたいでかたをもんでる。りゅうのころは、ロンにせなかやおしりをもんでもらってたっけ。
そういえば、にんげんになってからは、もんでもらってないなあ。
「これキュウや。両手で自分のお尻をつかむのはやめるのじゃ。はしたない」
リアラさんにおこられた。自分でもむのは、はしたないのかな?
しゃべれるようになったら、ロンにおねがいしてみよう。
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