第1話
夕陽が地平線に隠れ始めた頃。
教室の時計は六時半を示していた。ゆっくりと身を起こし、伸びをした。さいわい、広げていた参考書やノートにヨダレは付いてない。もっとも、バツ印は大量に付いているが。
それらを手早くしまい、席を立った。
そこでフッと違和感を感じた。
もう一度視線を戻すと、その違和感の正体に気付いた。
教室の隅にバニーガールが立っていたのだ。
小柄な体格に、控えめな胸と大方バニーガールには適していない女子がバニーガールの格好をしていた。
「......幻覚かな?」
熟考の末に、詩穂はそれを無視することにした。
「ちょい、ちょい、ちょい!」
しかし、バニーガールに回り込まれてしまった。
「......なんですか?」
詩穂は"それ"にうろんな目を向ける。
「......え? えっと......。あ、そう! 勉強! 分からないんでしょ? 教えようか? 私、推薦組だから!」
今の一言で、バニーガールが詩穂の一つ上、高校三年であることと、とても優秀なことが分かった。
「いえ......大丈夫です」
しかし、詩穂には変人に勉強を教えてもらう趣味はない。
「まぁ、まぁ、まぁ! そう言わずに! 一問だけ! 一問だけでいいから教えさせて!」
「えぇ......」
かくして、バニーガールによる講習会が始まった。ちなみに教科は数学である。
バニーガールは
彩夏の解説はとても分かりやすかった。ベクトルというものが自然と頭に入ってきた。
「......ありがとうございます」
「......フッフッフッ、お礼は無用だよ! ところでキミ! 部活は!?」
「今はやってませんが......」
「なら、ちょうどいい! 手芸部に入ってよ!」
「やですよ」
「どうして!?」
「裁縫出来ないですし、興味ありません」
それと、バニーガール姿で言われると、風俗みたいだからだ。
「ダイジョウブ! 手芸なんか出来なくてもダイジョウブ! 居てくれるだけでいいの!」
「ウチの学校、廃部とかありませんよ?」
「私が卒業して、部員ゼロ人だったら寂しいよぉ」
「わたしにメリットがありません」
「入ってくれたら、もっと勉強教えて上げるよ~」
「それは......」
それはとても魅力的な提案だった。
「それに私が衣装なんかも作っちゃうよ」
「それは要りません」
「え? そう......。じゃ、じゃあ......私がコスプレするよ」
しばらく考えて出てきた提案はそれだった。
「はぁ......分かりました。入りますよ」
「お? 私のコスプレ魅力的!?」
「そっちじゃないです」
「冗談だよ! はい、入部届け!」
彩夏は丁寧にクリアファイルに入れられた入部届けを詩穂に差し出した。
「今ですか?」
「善は急げだよ!」
「はあ......」
こうして、松本志穂は9月13日を以て、手芸部員になった。
あとがき
本日は、センター終わりと言うことで、いつもとは違う精神状態でお送りしています。
この作品は、受験に不必要な化学を取ってしまったために試験会場から出られず、一時間で書き上げた代物です。良ければ、感想、コメントよろしくお願いします。
ウサギになれたなら...... 葉乃ヒロミ(元・ハープ) @harp0
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