04
「いきなり何言ってるんですか! エッチなのはいけないと思います!」
「なにも裸になれなんて言ってないだろ。その割烹着を脱げという意味だよ」
和風カフェという言葉から受けるオシャレなイメージを刹那で破壊する割烹着姿の店員。この空間を異質なものにしている大きな要因のひとつがわかっていて排除しないわけがない。
「えっ、なんでですか? いいじゃないですか、割烹着」
「割烹着自体に罪はないが、どう見ても和風カフェには不釣り合いだろう。奇をてらうのは必ずしも注目を集めるためのセオリーじゃない。普通にエプロンを着るべきだ」
「んー、私は気に入ってるんですけど……。似合ってませんか?」
「似合ってないな」
「ひどい!」
本当に似合ってないのだから仕方ない。
「どう考えたって君にはエプロンのほうが似合うだろ」
なんだかナチュラルに恥ずかしいセリフを言ってしまった気がする。
「そう、ですかね」
リナは少し照れた様子でいる。
「わかりました、エプロンに変えます」
「それがいい。できれば緑色のエプロンにするともっといい」
「……緑ですか? わかりました」
某有名コーヒーショップのイメージカラーを真似たわけではない。単純に彼女の金髪は緑色に映えると思ったのだ。
さて、とりあえず「おかしな店員」を「普通の店員」にすることはできそうだ。
課題は多い。故にどのような順番で改善していくべきかという方針が必要だ。あまり難しく考えず、「かなりあ」に入店してから帰るまでの流れに沿って見直していこうと思う。
「そういえば暖簾があったな」
「はい、やっぱり暖簾をくぐり抜けてこその料亭だと思うんです!」
ここは料亭じゃないぞ?
「そ、そうか。だが、あのドアにして暖簾というのは違和感がありすぎないか?」
「ギャップ萌えってやつです」
いや、あれはギャップ萌えではない。
「あの、君の言うところのギャップ萌えについて教えてくれないか?」
「はい! 一見すると違和感しかないのにそれがなんだか愛おしく思えてくる現象のことです!」
「へぇ」
なにを言ってるんだ、こいつは?
「君はあれが愛おしく思えるってことかな?」
「もちろんです。暖簾を手の甲で払うと現れる洋風の木製ドア。ドアを開けるたびに感じる『なぜ暖簾をくぐる必要があったのだろうか』という疑問。それを思案しながら飲むコーヒー。最高です」
「全然わかんない……」
「何度も通えばわかるはずです!」
「そもそも暖簾の必要性について毎回疑念を抱いてるところで暖簾の不要性について気付いてるよね?」
「はい?」
「気付いてないんだね」
ここは深く考える必要はない。暖簾は排除しても問題なさそうだ。しかし、「かなりあ」が和風カフェというスタイルでいるためには、やはり玄関に和の要素を持たせるべきだという点は納得できる。
どうすべきだろうか。
「あの、暖簾はやっぱりおかしいですか?」
「……。おかしいと思う。思うんだが、なぜあそこまで違和感があるのかがわからないな……」
散々な否定的意見を繰り出しておいてなんだが、実は違和感の正体はよくわかっていない。初めは和と洋の組み合わせがまるで水と油のごとく異質なもの同士に見えて仕方なかった。これを調和させるためには何が必要なのだろうか。
「私は暖簾をくぐるっていう行為そのものが日本らしくて好きなんですけどね……」
「くぐるという行為そのものか……あっ、わかった」
「わかった?」
「ここの暖簾、くぐった感がなさすぎるんだ」
「あー、たしかにそうかも知れません!」
そうだ、これだ。
「暖簾とドアの距離が近すぎて暖簾の持つ空間の仕切りという存在意義が発揮できていないんだ。つまり、暖簾とドアの距離をせめてドア幅分以上空ければこの違和感は解消するかも知れない」
「な、なるほど~」
わかってるのかどうかよくわからない返事だが、そんなことは今はどうでもいい。
「じゃあドアまでの距離を伸ばせばいいんですね!」
「そうなんだが、そいつは無理なんだ」
「えっ?」
解決策を思いついたが、それの実行が不可能な理由もすぐに思いついた。
「距離を伸ばそうとするとここの敷地面積を超える。逆の発想でドアを店内に引っ込めるという案もあるが、それは店内の面積を減らす上に工事費がかなりかかるだろう」
「じゃ、じゃあ……」
「やはり暖簾は排除すべきだな」
「そんな~」
リナはわかりやすく落ち込んでしまった。
「あっ、忘れてました!」
落ち込んだのも束の間、急に何かを思い出したようだ。
「さっきお通しのクッキーをお出しするの忘れてました、ごめんなさい」
「お通し……なるほど、そうか」
「……?」
「居酒屋にヒントを得たんだ。暖簾という和の要素はあきらめるしかないが、これならいける」
「なんですか!?」
「『商い中』の札を下げるんだ」
うむ、これしかない。名案だ。
「えー、かっこ悪くないですか? うちはカフェなんですよ?」
……キレていいか?
わようげっちゅー! 無名 @kei304
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。わようげっちゅー!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます