第3話 救出

◆◆◆


回収ではなく、救い出すこと。それは俺が少しだけ誇れる仕事だ。


◆◆◆


 浅層に戻ったところ、テレサから緊急の通信があった。

『要救助者は二名です』

 ロングダガーを手に取ると、状況を確認する。

『ライセンス戦士≪ファイター≫の少年と魔術士≪マージ≫の少女』

「特徴は?」

「二人ともド新人です」

「あい分かった」

 おそらく、片方は今朝見た奴だろう。

 

 急ぎ、指定された座標まで移動する。

 道中、いくつか死体があった。

 一つは剣で切り殺された魔犬。胴体に無駄な遊び傷があるところを見ると、慣れない戦意が苦戦したのだろう。


 指定された小さな部屋だった。要救助者はすぐに分かった。部屋の隅に、震える少女とそれを守る様に立つ少年が居たからだ。

「大丈夫か?」

「は、はい!!」

 少年はすぐに答える。半面、後ろに隠れている少女は怯えている。

「その子は?」

「分かりません。小鬼に襲われていたのを助けたんですが……」

 そう言うと、鞘から剣を抜き放つ。それは、真っ二つで折れていた。

「剣も折れてしまい、逃げ出すだけで精いっぱいでした」

「いや、上出来だ」

 これ以上戦えないと判断して撤退をする。判断力は十分にある。

「行こう」

 なるべく優しく話しかけたが、少女は沈黙したままだ。

「キミ――」

 少年は、そんな少女の手を優しくとる。

「一緒に、頑張ろう」

「――うん」

 ようやく、少女の声が聞こえた。

「ははっ、やるじゃないか、色男」

「からかわないでくださいよ」

「いや、褒めてるんだよ」

 本当に、嘘偽りなくそう思う。こいつだって武器を失って精一杯だってのに、他人を気遣ってるんだから。

「いくぞ、少年」

 二人をエスコートしながら帰路立つ。


 しかし、状況は芳しくなかった。


『魔物の反応が近づいています』

 テレサから切迫した声が通信が入った。

「ああ、足音が聞こえる」

 おそらくは小鬼ゴブリン。それも、十匹は居る。

 後ろを走る二人を確認する。息は上がっている、これ以上の加速は無理だろう。

 なら、仕方ない。

「少年、名前は」

「ガルス――セボック村のガルスだよ」

「ガルス、この魔術士≪マージ≫を連れて先に行け。

 後ろを見る、魔力の灯りの先に、うっすらと小鬼の緑色の醜悪な顔が浮かんでいる。

「俺はあいつらを倒してから行く」

 二本のロングダガーを抜き放つと、わざとらしく高く掲げる。

 刃の輝きは不安になるくらい鋭いけれど、この上なく頼りになる。

「俺が助けてやれるのはここまでだ。後はお前が助けろ。いけっ」

「……はいっ」

 ガルスはそう言うと、振り返らず走り出した。少女の手を引きながら、力強く進んでいく。

「将来有望、だな」

 決めたことをやり遂げられる奴は、絶対に強くなる。

『後のナビは任せてください」

「言われなくても、お前の腕は信頼してるよ」

 じゃなきゃ、命を貼れるわけがない。

「さて、やるとしますか」

 改めてロングダガーを構えなおす。

 不確かな魔力の灯りが、蒼白い刃を照らす。妖刀、魔刀、そんなものではないが、抜身の刃の鋭さに酔いそうになる。

「やりますか」

 一回転させると両の手に逆手に持つ。

 床を蹴り、小鬼の群れへと突っ込んだ。


「ガ!?」

 刃を一閃、斥候と思わしき小鬼の喉を裂く。続く返す刃を突き刺し、二体目の頭を割る。

 そのまま床を蹴って宙に舞う。呆気にとられる小鬼の頭上を奪い、壁を蹴って軌道を変える。

「数は――10か!」

 予想した通りだ。なら、やれる。


 着地と同時に数匹の小鬼が武器を構えて突っ込んでくる。斬り合う――そんな必要はない。

 重鉄塊を腰から引き抜くと、抜き放つ。

 一本が小鬼の頭を割る。もう一つが棍棒ごと腕を砕く。

「っ!」

 一気に石畳を蹴る。疾風の如く駆け抜けながら刃で切ると、小鬼の死体が当たりに散らばった。

「さて、と」

 浅層ならこんなものだ。恐れ戦く小鬼の群れに、再び刃を突きつける。

「悪いが、死んでもらう」

 小鬼たちの顔が歪む。怒り、恐怖、どれからは分からない。気にしている余裕もない。


◆◆◆


 その後、テレサから通信があった。二人は無事、ギルドに戻ったそうだ。

 俺も、素材を回収するとさっさと地上へ戻る。


「あ、無事だったんですね」

 ギルドに戻ると、ガルスが迎えてくれた。傍らには魔術士≪マージ≫の少女も立っている。

「あの、ありがとございました」

 小さな声で少女はお礼を言う。礼儀正しい女の子のようだ。

「気にするな……それより、二人とも大丈夫だったのか?」

「ええ、剣が折れて、この子はちょっと怪我をしていましたけど」

「それでも、無理しないで生きて帰ってこれたんだ。お前ら、いい冒険者になるよ」

 心の底から、そう思う。


「――やあ、なんだか楽しそうだね」

 そんなことをやっていると、馴染みの声が聞こえた。

 金色の髪の美丈夫――勇者が逆光を背に、ギルドの入り口に立っていた。


 全裸で。


「今度はどうした? また全裸か?」

「ああ、スライムに溶かされた」

 いや、平然とそう言われても困るんだが。ほら、ガルスはどんな顔をしていいか分からないで立ち尽くしているし、魔術士≪マージ≫は真っ赤な顔で俯いている。


「勇者ーー!!」

 テレサが服を持って飛び込んでくると、無理やり股間を隠して連行していった。


「あの、あの人は」

「勇者だ、何度も顔を合わせるだろうから、覚えておけ」

「は、はあ……あの人が勇者……勇者かあ……」

 うん、なんと言っていいか分からないのは、よく分かる。

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