編集者は人間だし、出版業は商売

 最近、創作をしていなかったので創作のつらみが溜まっていなかったんですけど、また物を書き始めたので戻って来ました。


 〆切が一つ過ぎると、数週間は呆けて創作衝動が一切抜け落ちるところがある。

 今回もそれで、おもむろにケーキを作り始めたり、色んななろう系の小説・コミカライズを読み漁ったり、あと、俺のツイッターに行くと分かりますが、落書き熱が高じて十日ほど落書きばかりしたりしていました。


 リアル高熱でも一日寝こんだりね。

 流行りのコロナかどうかは分からない。

 一日寝たら治った。



 それで充電が済んだのか、実はまた性懲りもなく新作を書き始めてしまいまして。

 新作って序盤だけは書いていてとても楽しいもので、全然つらみとか溜まらんのですよね。


 この時だけは「創作って楽しいな、ウフフ」と笑っていられる。

 なので、書く事がないな……と思っていたんです。



 が!



 お前、何か忘れとりゃせんかと。

 桃源水滸伝、まだ完結してないじゃろうがい、と。


 実はですね、しばらく気づいてなかったんですが、俺の過去作に対するちょっと長めの感想を書いてくださった方がいたようでして……

 それがもう本当に、涙が出るほどありがたく。

 しかも、ありがたいことに続編も希望と書き添えてくださっておりまして。


 そこで思うのは俺のやってきた読者様への不義理の数々……

 いいところで放置している作品の多いこと多いこと。



 何かさ~、切れちゃうんだよね、糸。

 十万文字超えたぐらいで。


 以前も話したと思うのですが、俺はラノベ関連の文芸賞の受賞を目標としているワナビでして。

 賞の応募規定を満たすところまでがモチベの限界というか、ただ十万文字書くだけでもつらいというのに、それ以上なんて……「もし受賞して二巻が出せたらその時に書こう!」と考えてしまう傾向があり。


 十万文字、ラノベで言えば文庫一巻分。

 その辺りで「俺達の戦いはこれからだ!」みたいなオチでまとめて放り投げがちなんですよね、どれも。


 まだ十万文字辺りまでは「お金になる可能性がある」と思って頑張れるんですけど、そこから先は「ただでさえ確率千分の一というギャンブルを勝ち抜いて受賞しなければお金にはならないのに、これ以上は、仮に受賞したとしてもお金になる保証すらないんだぞ?! それでも書くのか!?」となってしまう。


 そもそもが千分の一のギャンブルに勝つつもりで書いてるんだから、それより確率が多少低かろうが大差ないんじゃと頭では思うんですが。


 まぁ、なんか切れてしまう。糸。



【読んで応援!】

『桃源水滸伝』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893542939



 お前、そんなに金金言うなら、もっと売れ線を研究して、ナーロッパを書けばいいだろう、と。


 そういう事も考えて、カクヨムに来なかった二年間はそういう作品も書いてみたりしていました。


 ただ……なぁーんか違うんだよなぁ。



 ずっと、誰かに許されたいと願って生きている。



 商業小説というのは言うなれば精神ポルノであって、この点に関しては、真面目にやっている人であればあるほど異論を差しはさむ人は減ると思う。


 ポルノであるからには、読む者を気持ち良くさせなければならない。


 最近の小説、特にラノベやなろう小説は努力も苦労もしないからつまらない、なんていう人がいる。

 主人公もすぐ惚れられる、大して魅力的な主人公でもないのに女の子がすぐにメロメロになる、と。


 けど、桃太郎の時代から、主人公は産まれた時点で最強である。

 きび団子一つでお供もメロメロである。

 努力して得たわけでもない能力で鬼を退治する。


 それでいいのである。


 で、ナーロッパを研究すればするほど、ガチでやるからにはそうした「読者を気持ちよくさせる展開」を極めなければならない、という事に気づいてくる。

 むろん、そうでないのに人気のある作品もある。

 ただ、そういったものはあくまで外れ値であって、戦略的に上位を狙う、となると参考にはあまりならない。



 つまり、サービス業なのだよな。



 商業小説というのは、気持ち良い展開というサービスを読者に提供し、対価をもらうビジネスである。

 金金言うのであれば、対価に見合うだけのサービスをすればいいのだ。当たり前のことだ。

 そこまでは分かる。

 頭では分かる。



 でも、許されたい。



 俺は対価が欲しいんじゃないんだ、肯定されたいんだ。

 承認を、許しを得たいんだ。

 俺が好きなように書いたものに対して、誰かから「才能」とか「可能性」みたいなあやふやなものを感じて投資してもらいたいんだ!



 ……この感情を何というか知っている。

「モテる為の努力は何もしたくない、けどモテたい」である。


 実に肌になじんだ感覚だ。

 伊達に長年、非モテ男子はやってない。


 女子だって人間なので、自分にとってメリットとなる相手と付き合いたいという、打算的な感情だって当然持っているだろう。

 自分の観測範囲内で一番多い恋愛開始のパターンは、褒め上手なヤローが女の子を褒めまくって、いつの間にか好かれて付き合っていた、というパターンだ。

 これは「一緒にいると褒めてもらえて気分良くなれる」というメリットへの対価として「付き合ってもらえる」というご褒美が発生した状態、といえる。

(女子が選ぶ立場だった場合の話だけど)


 でも、非モテにはそんなこと分からない。

 女性を過剰に神格化しているので、女性と付き合えるということはすなわち全人格的肯定を得ることだと思っている。

 だからこそ、彼女がいない=男としてダメなやつという烙印を押された状態だと思って過剰に悩んでしまう。


 そこには自分しかいない。

 女性だって人間だ、と思えていないので、恋愛を人間と人間との関わりだと認識できていない。

 自分がいて、次はいきなり世界とか、世間とか、何か大きなものからの承認みたいな話になる。



 編集者だって人間である。

 出版業は営利事業である。

 出版社は金になるサービスを提供できている作品だと思うから出版するのであり、これまでがんばって小説を書いてきたようだからご褒美で受賞させてあげようだとか、作者の人格を肯定してあげようという意識で受賞者を決めるわけではない。


 男女がそうであるように出版社と作家の関係は対等だから。

 肯定してもらう、ってことは自分を出版社の下位に置いているということだし、そんなふうに考える相手とはいい仕事もできないと思う。



 そこまで分かっている。

 分かっていて、なお、「モテる為の努力は何もしたくない、けどモテたい」と思ってしまう。「読者が気持ち良くなるサービスを追及したくない、けど受賞したい」と感じてしまう。(追及したくないだけで、決して提供したくないわけではないあたりがまた厄介なのだが)



 女子を褒めまくることで色んな子と付き合えている男を見て、非モテ男子は「そこまでしてモテたくない」と嘯くでしょう。


 めっちゃ負け惜しみ。


 めっちゃ負け惜しみ、なんだけど、でも本心でもある。


 メリットを提示して付き合えるという状態は、翻せば、自分がメリットを提示できなくなったら付き合えなくなる、ということで。

 今の例だと、仕事で疲れて気持ちがささくれだっていたら、彼女をうまく褒められなくなるかも知れない。

 それが何か月か続いたら、彼女は離れていくだろう。

 もともと、褒めてくれるし気分よくしてもらえる、というメリットがあるから付き合っていたんだから。



 それじゃ嫌なんだ。

 全人格的肯定を得たいんだ。

 どんなにひどい状態を続けても見捨てない相手が欲しいんだ。

 なんてことを恋愛相談の場でいうと、「全肯定は彼女以外から得てください」「彼女はあなたの母親ではありません」みたいなことを言われるやつだが!

 でも、そんな理屈が分かったところで、肯定されたいという気持ち自体が消えるわけじゃない。

 心理学的に言うと、幼児期に、自分は受け入れられているという安心感・自己肯定感が充分に育たなかった人は、穴の開いた瓶のように渇き続けるそうですが。




 だってさ、いるんだもん。

 特にメリットを提示しているわけじゃないっぽいのに、女性と付き合えている男性。打算とか損得じゃなくて、「何か分からんけど好き」と彼女から思ってもらえているやつ。

(イケメンは一緒にいるだけで眼福というメリットを生じさせるので何もしないでもいいらしいですが。それとは別にね)


 そういう人が無限に羨ましい。



 小説に置き換えるなら……

 ちらほら真偽の不明な噂として囁かれているでしょう、数字だけ見るとどうも売り上げ自体は振るっていなさそうなのに、編集者に気に入られているのか、なぜか本を出させてもらえている作家さんの話。


 そういう、PVが多いから、とか、売れ線だからとかって理由じゃなくて、作風とか、この作者の書く話が「何か分からんけど好き」「理由はないけど好き」みたいに思われている人。

 さらには、「私の好き、をもっと色んな人に届けたい」「多少売り上げが振るわなくても、きっとこの〝好き〟は多くの人に刺さるはず」と編集者が思ってくれている状態ですよ。



 そうなりたい。

 そう思ってくれる編集者と巡り合いたい……!!




 はぁはぁ。


 何の話だっけ。

 閑話がめちゃくちゃ長くなってしまった。



 そうそう、糸が切れてしまう話だ。

 俺はまだ小説賞を受賞したことがないので、受賞にばりばり幻想を抱いている。

 神格化している。

 受賞のことを「多少売り上げが振るわなくても広めたい」と思ってもらえた証明であるかのように、考えてしまっているふしがある。本当は「売れ線で手堅いから」みたいな理由で受賞した作品だっていっぱいあると思うんだけどね。


 で、受賞の為に書いている以上、受賞の為の要件、つまり応募規定を満たしてしまうとモチベが切れてしまうところは正直ある。

 あるんだけど……過去作に嬉しい感想をもらって心の栄養が補給されたので、桃源水滸伝、また続きを書いていこうかな、と。


 その方が続編を読みたいと言ってくれたのは桃源水滸伝じゃないんですが、桃源水滸伝が一番中途半端な状態なので、まずはね。


 過去作の続きに関しましては、出版社に書籍化するよう働きかけ、一巻が出たらば購入していただけると良いかと思います! 売り上げが良く二巻も出しましょうという話になれば、確実に続きも書きますので!



 と、何だか久しぶりなのでとりとめもなく長くなってしまいましたが。

 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

 ここまで読んでくれた方はきっとこう思われたことでしょう。


 こいつ、めんどくせぇーーー! と。


 では今日はこの辺で。

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