大きく跳び上がる前には、膝をたわめなければならない

 俺は自覚的に、楽なものを書かなければならないのかも知れない。

 どうも、俺には結論にすぐ飛びつく癖があり、それをせぬよう日々自分に戒めているのだが、気にしなくても良いのかも知れない。


 そもそも、自分が楽に書けるものを書こう!

 手癖で書けるやつ!

 なぜなら、今回はクオリティより生産量を優先する戦略を取りたいから!


 という強い意気込みで始めたはずの、今回の桃源水滸伝。

 書き始めてからすでに八カ月が過ぎようとしている。


 ついつい、手癖が出ると修正しなきゃ!

 と、あれこれ直してしまい、一向に進まない。



 あーーーーほーーーーー



 例えば、没案では、二章以降は、ほぼ王子とオッサンの口喧嘩で状況説明に徹していて、どこかへ冒険に行ったりすることはなかった。

 王子がオッサンと喧嘩して、何やら心配事があるみたいだぞ、と主人公は知る。

 で、その心配事が三章以降で起こることになる。


 ……予定だったんだけど。


 これ、恋愛ジャンルじゃよな?

 もっと王子とじっくり距離つめるあれやこれやがあった方がいいんでない?

 心配事が的中するのだって、もっとなんかこう、じわじわと不穏な空気を演出して、何か起こる、起こるぞと思わせておいてからの、どーんっ!

 にすべきじゃない?


 また手癖で、結論に急いでしまったか……

 修正しなきゃ


 とまぁ、あれこれ事件を起こしたり、冒険に出かけさせたり(当初の目的消失)


 んで、何かつまらん!

 何かうまくない!

 これなら、王子がいきなり心配事を吐露しはじめて、さっさと次の事件が起きた方がマシだったような気もする……!

 となる。

 まぁ、うまくないのは今に始まったことではないので、今さらどうにかしようとしてもしようがないんじゃけど。



【読んで応援!】

『桃源水滸伝』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893542939



 最近、物語に『溜め』って必要なのか? という疑念がある。


 人は大きく跳び上がる前には膝をたわめなければならない。

 みたいな、そら、うまいこと言ったぞバズれ語がありますけど。


 じゃ、物語も膝をたわめるべきなのだろうか。


 でも、最近の傾向として、『溜め』って少なくなってない?

 書いてる方だって、わざわざ「うーん、ここのところ、ちょっとつまらないんだよなぁ。でも、ここは後で大きく跳び上がる為の溜めだから……つまらないけど書くか」なんて思って書いているわけですよね。

 そんなん書いてる間に読者も離れていくし、離れていった読者は戻って来ないわけですよね。


 だったら、つまらない溜めより、溜めないでぽんぽんジャンプ繰り返したほうが良いのではないかと思うわけです。

 特に今みたいにエンタメが身の回りに溢れている時代においては。



 溜めを面白く書ける天才の話は今はするな。



 俺、結論にすぐ飛びつく癖があるんですよ。

 もう、早く

「実は今回の物語の黒幕はこんな計画を練っていて、それを主人公サイドの天才キャラも気づいていて、互いに策を巡らせているのだ! それを主人公の少女にだけは打ち明けてくれるのだ! 次は心配事が的中するシーンから」

 みたいに、アイデアを吐き出したいわけです。


 なのに、

「なに、こんな田舎村でこんな事件が!?」

「誰かが何か、良からぬことを企んでいる気配がする」

「一体何が起きているというのだ……!?」

「田舎村の事件は解決したが、この事件の背後には何やら大きな事件が蠢いている気がするぜ」

「そういえば、天才キャラが何やら気づいていたようだ」

「よし、天才キャラに話を聞いてみよう」

「ダメだ、話してはくれないようだ、まずは彼の信頼を得なければ」

 みたいに、遠回りしなきゃいけない、いや、するべき、みたいな思い込みがずっとあったんですよね。


 いきなり、「こいつは実はこんな策をめぐらせているんだ! それに対し、天才キャラのほうはこうだ!」みたいな説明されても、両方とも知らない人なんだから分っかんないよ!

 それより、どんなキャラなのか少しずつ知っていって、話はそれからでしょ!?

 このオタク!


 って心のギャルが言ってて、それが正しいことだとずっと信じてた。



 んだけど……、


 最近のあれとかーーーこれとかーーー、いきなりキャラの説明始めても読者ついてきとるじゃんけ!!!!


 みたいなのいっぱいあるんだよなーーー。


 日本のフィクション文化が円熟し、読者の方もハイコンテクストな設定を一瞬で理解するようになってきている感がある。


「はいはい、鬼滅でいう呼吸ね」

「オーケー。こいつは無惨様みたいに裏で糸引いてるのね。把握」みたいにさ。


 許されてる作品多いよね。


 今はむしろ、

「一体何が起きているというのだ……!?」

「この事件の背後には何やら大きな事件が蠢いている気がするぜ」

 みたいなのは敬遠される傾向なのかなぁ。


 じゃあ、俺がわざわざ遠回りしてたのはなんだったんじゃい、と。

 もしかしたら、その遠回りをこそ楽しんでくれてる人もいるかも知れないから、まだ一概には言えないが……。

 遠回りしないで結論にさっさと辿り着く方向に、時代は進んでってる気もする。



 まだまだ愚痴りたい事はあるけど、今日は終わり。

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