其の四

 数分後、俺はあの目つきの悪い男の運転する車の助手席に乗っていた。


 二人きり?


 後の連中はどうしたかって?


 いつものことだよ。


 やっつけた。


 大したことはないさ。


 仮にも探偵で碌を食んでいる身の上だ。


 あの程度の人間をあしらえないでどうする。


 男の運転で、俺は一軒の豪壮な邸宅に着いた。

 門柱には『大田原』という、筆文字で描かれた表札が掛かっている。

 男が運転席から降り、先ほどと違い、おどおどした目つきで俺を見ながらドアを開ける。


 悠々と外に出た俺は、奴が呼び鈴を押すと、俺は拳銃を抜いてシリンダーを確かめる仕草をして見せた。


『遅かったじゃないか。始末は着けたんだろうな?』


 玄関のドアを開けて中から出てきたのは、30代後半くらいの、背の高い、縁なし眼鏡をかけた、ガキがそのまま大人になったような顔をした男だった。


 彼は狐目男の後ろに立っている俺の姿を見て、全身をぶるっと震わせ、二~三歩後ろに退いた。


『始末って、俺の事かね?』


 俺はにやりと笑い、ポケットから認可証ライセンスとバッジを取り出して男に突き付けた。


『おあいにく様だったな。どうやらをつける相手を間違えたようだ』


『な、何を・・・・?』


『それを聞きたいのはこっちだよ。』


 男の手がポケットに突っ込まれ、その中でごそごそと動く。


『おっと、無駄な抵抗はしなさんな。あんたらの拳銃どうぐで、俺に太刀打ち

 出来ると思ったら、大きな間違いだぜ。最近は探偵だって、あんたらよりはましなもんを持ってるんだ。』


 俺はわざと大仰な仕草で脇のホルスターから、拳銃を抜いて見せた。


『邪魔するぜ』


 俺は拳銃の銃口で狐目の肩を小突き、室内に上がり込んだ。


 玄関を上がってすぐがリビングだったが、ド派手な内装で、お世辞にも趣味がいいとは言えない。


 俺は拳銃をしまい、ソファにどっかりと腰を下ろす。


 二人は怯えるような目つきをしながら、俺の前に並んで座った。


『まず、俺の依頼人からの言葉を伝えよう。依頼人は別にあんたらをどうにかしようと思っているわけじゃない。ただ「オニ」と呼ばれていたあの人の汚名をそそごうと・・・・』


『汚名?へっ!』


 俺がしゃべりかけた時、彼は如何にも不愉快そうな表情で顔を逸らした。


『あの女を「オニ」といって何が悪い?俺にとって正にあいつはオニだよ。』



『そりゃ、あんたにとってはオニだろうな。大田原君』



 大田原俊一、それが彼の名前だった。


 彼の家は親代々、この町の実力者で、町長や市長も何人か出している。現に彼の父親も現役のPTA会長にして、市会議長でもあるそうだ。


 俺は狐目の顔を睨みつけ、


『ここへ来る道々、彼に聞いたのさ。彼はあんたの昔からの子分だってな?あんたの言う”オニ”を階段から突き落とした時に一緒にいたのも・・・・』


 大田原のコメカミに、青筋が立つのがはっきりと分かった。


『あの女は・・・・俺がカンニングをしたのを咎めやがったんだ!だから復讐してやったんだよ!でもそれの何が悪い?俺は殺人をしたわけじゃないんだぜ?腹の中の子供が流産したのは俺のせいじゃない!』


『いう事はそれだけか?』


 俺はもう一度ポケットに手を突っ込むと、高性能のICレコーダーを取り出した。


『ここへ来るまで、そしてたった今君の言ったことは、全部録音させて貰ったぜ。俺はこいつを依頼人のところに持ってゆく。それが俺の仕事だからな』



 




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