其の三
『で、私に何をして欲しいとおっしゃるんですか?復讐を頼みたければ、
『勘違いをしないでください』
彼は苦笑いをして私を制し、
『別に私は今更物理的な復讐をしようなんて思っていません。そんなこと、母だって望んでいやしないでしょうからね。ただ私は何とかして彼女の汚名を
俺はシナモンスティックを咥え、暫く考えた。
しかしすぐに結論は出た。
『よろしい。引き受けましょう。探偵料については弁護士から伺っておられる通りです。後詳しくは契約書に記してありますから、お読みになって納得出来たらサインをお願い致します。』
彼は私が差し出した契約書を受け取ると、一通り読み、直ぐに万年筆でサインをして寄越した。
『結構、それでは直ぐに仕事にかかります』
彼女・・・・つまり神野薫子が教師をしていたのは、都内から少し外れた田舎町の中学校だった。
一見のどかな町だったが、彼女の話を聞きこんで回ると、ことはそう簡単ではないというのが分かった。
元教え子、そして元同僚の誰もがカキのように口を閉ざし、聞き込みにも応じてはくれない。
俺は半分絶望的な気分になり、あてどもなく町を歩き回ったが、希望というのは決してそう簡単に捨ててはならないものだ。
『神野先生が「オニ」?とんでもない。素晴らしい先生ですよ』
そう話してくれたのは、町はずれの小さな神社で宮司をしている人だった。
『私は中学時代、お世辞にもそれほど成績は良くありませんでした。でも神社の息子ですからね。宮司になるためには何とかして高校に行き、そして神職になるための大学に行かねばなりません。どの先生からも”お前の成績なんかで大学なんか行けると思っているのか?”って匙を投げられてましたよ。おまけにひ弱だったからいじめにも遭ってましたしね。でも、神野先生だけは違ってました。毎日私を残して、専門の教科でもない勉強迄、熱心に指導して下さいました。それだけじゃありません。私がいじめに遭っていると知ると、
”いじめに立ち向かえとはいいません。でも、心を鍛えて強くなりなさい。貴方は将来神主さんになるのでしょう?人を教え導く仕事は心が強くなければいけません。でも貴方にはそれが出来ます”そういって、私を励ましてくれただけじゃなく、いじめグループを呼びつけて、何度も説教をしてくれたんです。僕がめげずに学校に行き、その後志望校に合格し、今こうして父の後を継いでいられるのも、神野先生の存在があったればこそなんです』
俺は
この気持ちはずっと変わらないだろう。
しかし、中にはこんな教師もいたのだな。
俺は意外に思った。
話を一通り聞き終わって、俺が神社を出てきた時である。
『乾宗十郎って探偵はあんたか?』
狐みたいな目つきの男が俺に声をかけてきた。
一人だけじゃない。
他にも三人、俺の周りを取り囲んだ。
『ちょっと付き合ってくれないか?』
『いやだ。と言ったら?』
『それでも付き合ってもらうぜ』
パチン、と彼の手元で何かが鳴った。
飛び出しナイフである。
まるで昔の日活映画じゃないか?
俺は心の中で苦笑した。
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