第5話 死ねるなら死んでいる。貴方たちの望み通り。

私に唯一大人の味方が出来た。大人と呼んでいいんだろうか。どちらかというと子どもみたいな大人だ。看護師さんと呼ぶのもやめよう。お姉さんと呼ぼう。

「私の名前はゆうきって言うの」

心を読んでいるのか?この人は。ゆうきさんか。ゆうき。ゆうって呼んだら怒られるかな。

「ゆうって呼んで」

いや、なんでだよ。なんで私が思ってることをそのまま言うんだ。何だこの人、気持ち悪い。私はそう思った。流石にそれは分からないだろう。心の中に閉まっておこう。

「軽傷で良かったね!ちょっと傷ができたくらいであとはなんともない」

そう。私は軽傷だった。結構高いところから飛び降りたつもりなのに。頭から落ちたつもりなのに。腕と顔に少し傷が付いただけであとはなんともない。どういう形で落ちたかは分からないが 死ねてないということだけは事実だ。私は今も生きている。ごめんなさい。

ゆうお姉さんはずっと私のことを看病してくれた。私が他の人に触れられると身体が震えるのを知っていたからだ。私は思った。なんで私の母はこの人ではないのだろうと。この人の子どもだったらどんなに幸せなんだろうと。空虚な妄想か。虚しいかな。でもそう思っちゃうんだ。だって。あまりにも優しいから。ごめんなさい。そんなことを思ってしまって。ゆうお姉さんが唐突に言う。

「身体を見せてもらってもいい?」と。

「なんで?何かあるの?」

「傷があるでしょ?見せてほしいの」

「嫌だ。見たってなにも変わらないから。」

「それでも見せて欲しいな。」

「分かった。」

私は服を脱いだ。私の身体はもう傷だらけだった。人に見せたのは初めてだ。どういう反応をされるのか怖かった。

「この傷は親にされたの?」

ゆうお姉さんが私の傷を見て言う。その顔はどこか悲しげな。少しだけ憎しみが混じってる目だった。その憎しみが誰に向けてなのかは知らない。知らなくていい。その目は私が大人に向ける目だから。

「うん。そうだよ。」

私は言う。

「そっか。頑張ったんだね。一生懸命我慢して。誰にも言えなくて。一人で傷ついて。」

と。私の傷を触りながら言う。

「ごめんね。私たち大人は最低だよね。罪もない子どもを傷つけて平気で生きている。我慢させてることも、傷つけてることも知らずに生きている。これがどれだけ酷いことか。」

泣きながら言う。私はこの時初めて知った。私のために泣いてくれる人がいると。私のために。私だけのために。それがどれだけ嬉しかったか。それにどれだけ救われたか。この世界が嫌いなのに。ゆうお姉さんが生きてる世界が好きになってしまった。優しい世界だった。一時でもいい。すぐ消えてもいい。私は忘れない。私だけの優しい世界だ。

「この先絶対君のことを分かってくれる人がいる。苦しみを背負ってくれる人がいる。だからもう死なないで。」

最後に言われたのはこの言葉だった。私のことを分かってくれる人。私の苦しみを背負ってくれる人。この世界にいるのだろうか。私に生きる意味をくれる人―。


私は出会う。奇跡と呼ぶには大袈裟な。運命と呼ぶにはあまりにも儚い。でも。この世界でたった一人の君に。私の全てを変えてくれた君に。私たちは言う。この出会いに名前を付けるならそれは

「ありがとう」

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