第4話愛なんてくれなかったのに。
目が覚めた。やけに明るい部屋だ。私はどこにいるんだろうか。何故私は目をあけたのだろうか。そんなことを思っていたのかな。あの時の私は。絶望だ。目が覚めたということは死ねていない。死ねていないんだ。私は。
この世界はまだ私を飼い慣らしていたいみたいだ。あと、どれだけ苦しめばいい。あと、どれだけ殺せばいい。あと、どれだけ普通に憧れればいい。答えのない。行き場もない。空虚なこの命に、私はなんど希望をみつければいい。答えてほしい。神様。私は
あと何度死ねば人間に戻れますか
私が病院にいる中 私の父と母は一度も病院に来なかった。当然だろう。私は家族ではないのだから。他人が死のうが関係ない。私たち人間はそうやって沢山の命を奪ってきたではないか。私自身、父や母がお見舞いに来て欲しいなんて思わなかった。
そんな中 私を一生懸命看病してくれる人がいた。看護師さんだ。まだ若いと思った。私は八歳という幼さで大人が怖かった。無差別に。近づいてくる大人が怖くて身体がよく震えた。看護師さんもそれを分かってくれていた。だから私に近づく時いつも言う。
「怖がらないで」と。
いや、無理な話だ。私が好きで怖がってるわけじゃない。どちらかと言うともう身体がそういうふうにできてしまっていた。だから震える。毎回毎回。看護師さんには申し訳ないと思った。私の看病をしてるのに私は看護師さんを拒絶するしか出来ない。だから私は
「ごめんなさい」と毎回言っていた。謝ることしか出来ない。『ごめんなさい』と言う言葉が私の意志とは関係なく口から出る。口癖なのか。別のものなのか。私はそんなことは知らない。看護師さんは毎回怖がる私に少し遠いところからこう言った
「私は夜月君の味方だよ。」って。
聞き飽きた。その言葉は。どれだけの大人が私に言ってきたと思ってるんだろう。味方とはなんだろう。味方なら救ってくれ。私は今の一度も救われてはいない。味方だと言う大人は皆私を救ってくれない。この世界には味方なんていないんだ。だから私にそういうことを言わないでほしい。そう頭の中で思いながら
「私に近づく大人はみんなそう言います」
と言った。
あの時の看護師さんの顔を覚えている。
困ったような。でも、泣いていた。どうして泣いていたのか私には分からない。私には涙なんてものはもう、とっくに無かったのだから。
看護師さんは1歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。私の身体も震え始める。それでも近づいてくる。だから私は
「それ以上は来ないでください。私を苦しめないでください」と言った。
「大丈夫だよ。怖がってもいいよ。私は他の大人とは違うよ。だから、ね。私を許して」と。
今まで大人が言ってこなかった。『許して』と言う言葉を耳にするとは思わなかった。許してってなんだ。何をしたんだ。許すも何も貴方は私に何もしてないだろう。そんなことを思う。
「私は無意識に震えちゃうんです。だからお願いです。それ以上は来ないでください。」と。
分かってるはずだ。そう言われることを。なのに。なのになんで私に近づこうとする。なんなんだ。どうして私の近くに来ようと 怖がる私に優しい目で見つめるんだ。やめてくれ。そんな目で見ないでくれ。私は優しさなんて嘘だと思ってる。だから嘘だと、そういう目で私を見てくれ。私に安心を与えないでくれ。私は死にたいんだ。そんな目で。私を見つめないで。
看護師さんは私が寝転ぶベッドまで来た。ベッドに座り看護師さんは安堵の息を吐く。そして私の手を触る。
「大丈夫だよ。何もしないよ。信じなくていいよ。疑ってもいい。きっと夜月君のまわりの大人は夜月君を沢山傷つけてきた。でも私は夜月君を傷つけないよ。今まで苦しんだ分 夜月君が私を苦しめてもいい。それでも私は夜月君から離れたりしないよ」と。
そう言って私の手を優しく 温かく握ってくれた。その時の私は真っ白だったろう。初めて握られた手。温かい手。優しい手。私が知らないものが、私を包む。不思議と止まる震え。そうか。この人は違うんだ。この人は私の味方なんだ。この人だけは。
「助けて」
私の口から出た言葉で間違いはない。初めて言えた言葉。ずっと怖かった言葉。看護師さんは私を抱きしめてくれた。
「頑張ったね。死にたかったね。苦しかったね。ずっと言えなかったね。助けて欲しかったよね。ごめんね。遅くなっちゃって。」と。
私にくれた。覚えている。私を抱きしめながら。震えながら。泣きながら私に言ってくれたのを──。
私は八歳という若さで一回目の自殺をした。結果は失敗だった。そしてこれからあと数十回自殺をする。この先の物語を。私と一緒にみなさんも読んで欲しい。私がこの世界を愛せない理由を。
「お前の本当の親は私たちじゃない。本当の親はお前だけ捨ててどこかへ行ったよ。」
「お前は誰からも望まれなかったんだ。愛されることはないんだ。だから大人しく私たちの玩具でいた方が幸せだ」
「なんだ。死んでなかったのか。」
「早く死ねばいいのに」
「じゃあ殺してよ」
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