ドミノ並べよ!

へろ。

ドミノ並べよ!

 真夏日、締め切った体育館から抜け出し、駆ける少女とそれを追う青年。


「ちょっと!待って!ねぇえみちゃん!えみちゃんって!ハァハァ。なんでだよ、どうして逃げるのって!」


 少年の呼び掛けに足を止め、少女は振り返る。


「だって私……だってもう堪えらんないッ。ねぇなんで? どうして私たちがドミノ並べなきゃなんないのッ?」


「それは……。だって校長が大々的に『私たちの学校はドミノ倒しで世界狙います!』って言っちゃたから……」


「だからって……。だからってなんでよッねぇッ私、緑化委員だよッ。意味分かんないよッ。急に放課後、文化部とか委員会の人全員集められて『今日から君たちにはドミノ倒しをしてもらいます!』って、バトルロワイヤルの北野武みたいな口調で校長に言われてもさッ。え、なんで?ってなるじゃん!なんで緑化委員の私がドミノ倒ししなきゃならないのッ?ってなるじゃん、普通!」


「それは……でも、しょうがないじゃないかッ」


「なにがしょうがないって言うのよッ」


「だって運動部の連中は途中で飽きてボール遊びとか始めてさ、全部お釈迦にするだろうし、それに帰宅部に至っては……あいつらぜってー来ねーだろッ」


「だからって……だからって私たちにやらすことないじゃんッ」


「それは、そうだけれど……。でも、やっぱりしょうがないよ」


「え? なに? ドミノ並べたいの?北阪くん、あなた吹奏楽部じゃないッ」


「銅鑼……なんだよ……。」


「はっ?」


「俺が担当してる楽器……銅鑼……なんだよ。」


「え……。」


「俺以外の皆は中学から吹奏楽部入ってた奴らばかりでさ、俺はといえば、太鼓クラブに中学終わりまで入ってただけだったんだ。それで先生にそのこと伝えたら……じゃあ今日からお前は銅鑼な。って……俺だって、俺だって心のどこかではドラムとかやらせてくれるもんだと思ってたよッ。でも、俺は銅鑼なんだよッ。ほとんどの曲で銅鑼のパートないんだよッ」


「そんなのって……。」


「皆がパート練習してる時、俺なにしてると思う?」


「……。」


「俺は一人学校近くにあるゲーセンに行って、太鼓の達人叩いてんだぜ。いや、それだけじゃないッ。ポップンミュージック、ギタドラ、ダンスエボリューション、あそこにあるゲーセンの音ゲー全てを制覇した俺は今、サラウンドグランドマスター北阪と呼ばれるほどにまでなっちまったんだ……」


「北阪くん……。そんなに時間余ってるんなら、他の楽器練習すればよかったんじゃ……」


 えみちゃんの心ない発言に、真顔となる小坂。


「――から、いらない」


「え? なに? 小坂くん」


「用務員のおじさんいるから、いらない」


「ちょ、小坂くん。なに言ってんの、やめてくれるマジで」


「うちの学校はちゃんと用務員のおじさん雇っているから、緑化委員とかいらない」


「やめてよッやめてッ正論言わないでッ」


「夏休み、お前等、ほとんど学校来ない」


「ちょ、やめろってマジで」


「用務員のおじさん、汗だくで一人草むしりしてた」


「それは……でも……。私たちにだって予定あるし……」


「言ってみろよッなんだよ予定ってッ。一番植物放置しちゃいけない夏場に緑化委員が言う他の予定ってなんだろうなぁッ」


「小坂くん……ドミノ……並べよ!」

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ドミノ並べよ! へろ。 @herookaherosuke

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