第1節4話
オープニングセレモニー、スタメン発表、僕が子供の頃から見てきた風景。
子供の頃から夢見た、プロ野球選手にはなれなかったが、遠い異世界でファンタズムボウルの選手としてグランドに立っている。
ワクワクと緊張感と恐怖が入り交じった、複雑な心境で試合開始をカズミは待っている
場内の陽気なアナウンスは、チームメイトの名前を次々と読み上げる。
「前の選手呼ばれたし、次は僕か」
「続きましては、本日入団したばかりで、即スタメンのスーパールーキー。カズミ・サワタリ!」
「カズミ・カズミ・カズミ・カズミ!」
僕の名前が呼ばれた瞬間、カズミコールが起こっときには、少しだけ、こそばゆくなった。
スタメン発表が終わり、最後の指示が、ゴルドから飛んだ。
「いいかお前ら!今日が今シーズン初の試合だ。
相手のアイアンマインズは、鉄壁の守備と、ビッグキャノンと呼ばれるエドウィン・マルチネスの60ヤードキックで、フィールドゴールを狙い成功させてくる。
去年のリーグチャンピョンのチームだが、今日はエースのリッカ・サカザキが欠場してる事。
暴風でビッグキャノンが使えないことを踏まえると、漬け込む余地は十分にある」
チーム一同「オッス‼」
「今日、警戒する選手は、ディフェンスライン[最前線で、敵とバトルするポジション]のエドウィン・マルチネスとサカザキ姉妹の妹、バトルアスリートの覇者、トウカ・サカザキ。
特にトウカ・サカザキは、ルーキーながら強力ディフェンス陣に入り込ん選手だ。
油断をするなよ。よし、お前ら!今日は勝つぞ!」
チーム一同「オッス!オッス!オッス‼」
「各ポジションに、散れ!」
一方、アイアンマインズベンチ。中年の、口髭を蓄えた男性が、選手たちに激を飛ばしていた。
「諸君。開幕戦は、最初の一試合にすぎないと言う者も居るが、そんなことはない!シーズンの行方を左右する、大事な試合だと、私は思っている」
選手たちは、レイトンヘッドコーチの激をに耳を傾けていた。
「エドウィン、トウカは初めての試合だ。
彼女が突出しないよう、サポートをしてほしい」
エドウィンと呼ばれた、伊達男は頷いた。
「OK、任せてくれ。よろしく頼むぜ、トウカ」
エドウィンは、トウカに目線を送る。
黒髪で、腰まで延びたポニーテール。赤い袴を着用し、刀と短刀を装備した和風の剣士と言った出で立ちだった。
「はい、突出しないよう注意します」
口ではそう言っているが、獲物を見つけた途端、今にも襲いかかりそうな鋭い眼光には、少しばかり不安を覚える。
獲物を見つけるや否や、真っ先に襲いかかりそうな雰囲気。
リッカさんにそっくりだ。
だが、それ以上に気負い過ぎている。
何も起きず、最後まで行ければいいんだがな。
「いいか、トウカ。
今日は無理に相手を倒さず、相手にプレーをさせないだけでいい。
今回俺たちが担当するのは、イリーナ・バニングだ。
うかつに踏み込めば、一発でアウトだ。まあ、気を張りすぎずに行こうぜ」
「頑張ります」
レイトンは最後の激を、選手たちに飛ばす。
「今日も勝つぞ!」
一同「ファイ!オー!ファイ!オー!ファイ!オーー!」
アイアンマインズの選手たちが、各ポジションにうつる。
両チームのキャプテンが、審判の元に集まる。
「では、攻撃の権利と陣地を決定するため、コイントスを行います。
では表裏両者、コイントス後、コインの裏表の宣言をお願いします」
審判がコイントスを行い、コインを手のひらに隠す。
エドウィンすかさず、宣言をする。
「表だ!」
すると、キーンはニヤリと笑った。
「残り物には、福があると言うだろ。裏だ」
審判は、コインを隠した手を上げた。判定結果は、裏だった。
「勝者カゼカミ・
キーンは、すかさずガッツポーズ。
「さーて、今日の風と、カズミのデビュー戦を踏まえると、追い風を利用できる南側だな。審判、南側選ぶぜ」
「キーン。コイントスは負けたが、この試合は勝つぜ」
「ぬかしてろ!勝つのは、俺たちナイナーズだ」
「さあこれより始まる、カゼカミ・
改めてスターティングメンバーを発表しましょう 。
まずは、ナイナーズ 」
ナイナーズスタメン、オフェンス。
WR① OT① OG① C OG② OT② TE
WR②
QB
RB
BL
左から
「続きまして、シルベニア・アイアンマインズ」
シルベニア・アイアンマインズ、ディフェンス
FS BL
①MLB ②MLB
①OLB ②OLB
CB① DE① DT DE② CB②
「こちらは左前から順に」
「と、なっております。
さあ、キックオフまであと30秒、間もなく試合開始です」
審判がホイッスルを鳴らし、試合開始が開始された。
ファンタズムボウルは、守備側がボウルキックし、攻撃側がボウルをキャッチをして、ゲームが始まる。
ボウルを持った選手を止めようとする、マインズ。
負けじと、相手選手をブロックして、走路を作るナイナーズ。
しかし、マインズの鉄壁のディフェンス陣、〈アイアンカーテン〉が立ちふさがる。
タッチダウンまで残り60ヤードの所で、ボールを止められてしまった。
「中央付近、たしか、ハーフウェーラインだっけ?
そこまで進むことは出来た、さてどうしようか」
カズミは悩む、自身のプレーがチームの勝敗に直結するのもあるが、経験不足から来る不安が、彼を苦しめる。
これはイカンと思ったのか、ゴルドがインカムで指示を出す。
「カズミ!さっき言ったが、俺たちが指示を出すから、最初はその通りプレーをしろ」
なんて事の無い言葉だが、その一言が心強かった。
「キャッチャーのサインに従う感じで、プレーをすればいいんだ。
いつも通り、言われた通りプレーすればいい」
イリーナはカズミを元気付けようと、声をかける。
「カズミ!私が突破口を作るから、そこにパスを出してくれ」
「分かったよ、イリーナ。
「とは言ったものの、私にはマンツーマンどころか、二人も張り付いてるのか」
エドウィンがニヤリと笑い、トウカは鋭い眼光で、私を睨み付ける。
「よう、嬢ちゃん。今日は仕事をさせないぜ」
「同じく、貴様には仕事をさせない」
トウカから来る凄まじいプレッシャーは、イリーナの踏み込みを阻む。
イリーナは歯軋をする。
「うかつに踏み込めば、真っ二つ・・・だな。
トウカは
攻撃される前に相手を切り伏せるから、防具は必要無いと」
トウカ・サカザキの凄まじい威圧感は、イリーナが前に踏み込む事を、ためらわせる。
それを見たエドウィンは、心のなかでほくそ笑む。
トウカを相方に選んだ、ヘッドコーチの判断は正解だ。
射程圏に入った瞬間、真っ二つのプレッシャーは、偉大だな。
後は60分間、これを維持していればいい。不安要素は、トウカか・・・突出しないように、上手くコントロールしなきゃ、な。
第一クォーター14:45 ファーストダウン 残り60ヤード
今僕に出来ることを、確認しておくか。
ランニングバックにパスして渡して、前進するか。
ロングパスで、前進するか。いや、ロングパスは、相手に奪われたら、攻撃権が移ってしまう。
後は、僕がボールを持ったまま前進・・・は、無いな。
とりあえず、60分間、安全にプレーをする。
センターからボールを受け取って、試合が再開。
カズミはパス出来る相手がいないか、周りを見渡す。
「カズミ!6番の、ワイドレシーバーにパスだ」
ゴルドの指示を聞いてから、カズミはパスしたが、微妙に遅れたパスは味方に届かない。
だが幸いな事に、相手に奪われ無かったのは、唯一の救いだった。
第一クォーター14:35 セカンドダウン 残り60ヤード
カズミは自身の頬を叩く。
「ど、どうすればいいんだ・・・こんな時。指示を待っている分、反応が遅いのは仕方ない。それなら!」
カズミは指示を受けから、投げるまでのスピードを、出来る限り短縮した。
時間にして、1秒にも満たないが、それが大きかった。ワイドレシーバーは、パスを受け取ってから前進は出来なかったが、確実に距離をつめる。
第一クォーター14:23 サードダウン 残り52ヤード
「後2ヤードで、攻撃を継続出来る。しかし後2回の攻撃で2ヤード進めなければ、攻守交代か」
カズミがボールを受け取り、投げようとした瞬間だった相手がすぐ目の前に迫って居たのだ。
それを見たゴルドが、指示を出す。
「無理にパスはしなくていい!ボウルを投げ捨て、相手に渡すな!(QBがボウルを持った状態で地面に押し倒されると、次のスター地点は倒れた地点まで後退しなければいけない)」
今ボールを渡してしまえば、その瞬間、攻守が交代し、無防備な状態で攻撃されてしまう。
相手選手のタックルが、カズミを襲う。
「ボールは、死んでも渡さないぞ!」
その時だった。
「五行障壁・・・」
カズミの前に、魔法の障壁が貼られた。
障壁はカズミを守り、タックルを受けたが、ほとんどダメージを受けず、無事ボウルを投げ捨てる事が出来た。
何が起きたか分からなかったが、ボウルを奪われると言う、最悪の事態は避けられた。
「こんな事が出来るのは?」
周りを見渡すと、スズネが、クスリと笑っていた。
「スズネが僕を、守ってくれたのか。スズネ!ありがとう」
「いえ、これが私の仕事ですから・・・」
みんなが僕を助けてくれているのに、僕は・・・
不安の為か、カズミはベンチを何回も見つめる。まるで、助けを請う子供のように。
「カズミ・サワタリ、いい選手だな。いい選手なんだけど、物足りないな・・・」
「クラリス・・・数時間前に召喚されて、デビューしたばかりの選手だぞ。
今だって、パスを自分で修正したし、悪くは無いと思うがな。それを、物足りないとは・・・」
「言い方が悪かった。何て言うか、操り人形みたいで気に入らない。
とでも言おうか」
「・・・・・・」
「あいつみたいな選手を、あたしは何人も見てきた。
指導者にぶん殴られ、罵られ、最後は指導者の操り人形に成り下がった選手達を」
「カズミも、同じような指導を受けてきたと言うのか?」
「断言は出来ない。けど、さっきからカズミはやたらとこちら側を見て、あたし達の顔色を見ているように見える。試合前は、もっと動けていた」
「お前の言いたいことは、分かる。
だが・・・」
「あいつは・・・カズミは、もっと出来る選手の筈なんだよ。もっと!?」
「まあその件は、第一クォーターが終了してからだな」
一方その頃、前衛のイリーナ達は、苦々しい想いをしていた。
近づこうとする度に、顔先を
トウカの無慈悲な刃。
その刃の残像は、選手達に恐怖を刻み込む。
トウカのメインウェポン、全長120センチの太刀による、牽制を兼ねた抜刀で踏み込む事が出来ずにいた。
トウカはアウトレンジからの攻撃を武器に、相手選手を切り伏せる戦術を取り、懐に踏み込むチャンスを与えない。
彼女の剣圧に、イリーナ達はトウカの戦術にはまりもがき苦しむ。
「リーチの長い太刀が邪魔過ぎる、これでは思いきって踏み込めない」
トウカは切り札の大太刀を振り回していないのに、このザマか。
デビュー戦のカズミが頑張っているのに、私達が何も出来ないばかりに・・・申し訳ない」
イリーナの前には、アイアンマインズの
カズミの為にと言う思いは焦りに繋がり、自分たちを追い詰めていた事に、彼女達は気づいていなかった。
第一クォーター14:08 フォースダウン 残り52ヤード。
ここで出来る選択肢は、攻撃を放棄して、パント(遠くに蹴り混むことで、相手のスタート地点が遠くになる。その為、相手のタッチダウンまでのヤード数を増やせる)するか・・・・・・
52ヤード、キックでゴールを狙うには、不可能。
ギャンブルで攻撃を続けるのは、やはりリスクが高い(四回目の攻撃が失敗したら、その場で、攻守交代。
パントを選択すれば、この場での、攻守交代は避けられる)
ナイナーズの選択肢はパントだった、その選択肢は良かったのだが、前衛陣の 焦りと恐怖はピークに達していた。
ボールを蹴った瞬間、うかつにも前衛のエッジが、トウカにバトルを仕掛けてしまったのだ。
「イリーナ!俺がスキを作るから、トウカ・サカザキに仕掛けてくれ!」
「え?」
あまり突然な事でイリーナは反応出来ず、エッジ一人だけで、バトルを仕掛ける事になった。
エッジが、トウカの射程圏に入った瞬間だった。
「私に立ちはだかるものは、全て断ち切る
サカザキ流抜刀術、桃花雪断!」
一瞬の出来事だった。トウカの抜刀で彼の意識は、一瞬で断ち切られた。
「知らなかったか?私の抜刀に、断てない物は無い」
ナイナーズは、攻守交代をしただけで無く、第一クォーターでオフェンスメンバーの一人を失った。
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