第1節5話

トウカの抜刀のにより、早くも退場者を出した、ナイナーズ。

これでアイアンマインズが俄然有利、かと思われたが、世の中はそんなに甘くない。

ナイナーズは、マインズの鉄壁の守備アイアンカーテンを前に、手も足も出なかった。

だが、マインズも苦戦を強いられていた。

理由は、カゼカミフィールドの、暴風だ。

前後左右から襲いかかる敵地の暴風は、パスどころか、ランプレーすら困難な状況となっていた。

仕舞いには、フォースダウン時に敵陣にキックしても、暴風のせいでほとんど距離を稼ぐ事も出来ない。


本来ならエースのイリーナを封じ込めた事で、圧倒的なアドバンテージを、得るはずだったマインズ。

しかし暴風により、アドバンテージを打ち消されてしまい、第一クォーターはスコアレスで終了する。



「よし、第一クォーターは、良く耐えた。特にカズミ、初めて試合で、あそこまで出来れば上出来だ」


「ゴルドさん・・・ありがとうございます・・・・・・」


「スローを自ら修正して、早く投げた点は、特に良かったぞ」


「・・・・・・」


ゴルドはカズミを褒めているのに、何故かカズミ本人は黙り込んでしまう。

するとクラリスがカズミの前に出て、彼に語りかける。


「どうしたんだ、カズミ?オヤジが褒めてんだから、もっと喜んでも良いんだぞ?」


「僕が仕事を出来ていないせいで、タッチダウンを一つも取れていない。

こんな状況じゃ、喜べませんよ。

それにパスの修正の件だって、あれは昔やっていたスポーツでの、経験を生かしただけ。褒められるようなプレーじゃないです・・・・・・」


「成る程な、経験か。

なら、次のクォーターから、自分で判断して、パスを出せるな」


クラリスの提案を聞いた瞬間!?カズミの顔は青ざめ、だらだらと冷や汗を流し始めた。


「ま、待ってください。

いきなり自分で判断して、プレーするなんて、出来るわけ無いですよ。

僕は、自分で判断してプレーをした事なんて、一度も無いです・・・」


「おかしいな。試合前のカズミは、暴風の中でも自分で判断して、パス出来たじゃないか?」


「それは、過去の経験から判断しただけですし」


「出来てるじゃないか。まあ、過去は指示をされるだけの、プレイヤーだったかもしれないが、それは今日で卒業だ」


「何故ですか。何故、指示無しに拘るんですか!指示をしてくれても、いいじゃないですか」


「あのなー、確かに指示を出してやりたいのは、山々だか、そのせいで、カズミのパスが遅くなってる。

勝つためには、指示を受ける前に投げるくらいじゃないと、マインズの、守備陣を崩せない」


分かっていた。指示を待ち、それからパスをすることで、パスが遅くなって事に気づいていた。

自分で考え行動し、失敗したら、全責任が自身に降りかかり、怒鳴られるのではないかと、カズミは思っていた。

そんなカズミの心の内を、見透かしたのか、クラリスは、疑問を投げかけた。


「もしかしてカズミ、失敗したら怒鳴られ、成功しても誉められない環境に、居たのか?」


自身の心の内を見透かされ、カズミは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「いいか?カズミが失敗しても、あたしやオヤジは怒鳴らない。ここに居る連中に、一生懸命プレーをしてるお前を攻め立てる奴は一人も居ない。もし失敗してもオヤジが、全責任をとる。だから自由にプレーし、楽しんでこい」


「自由に、楽しく、ですか?」


「そうだ、楽しくプレー出来なきゃ、いいプレーは出来ない。

これは、イリーナにも実践して欲しいんだがな。

さっきから、焦っているのが、こちらに伝わっていたぞ。

いつもの楽しむプレーはどうした?」


「クラリスのいうとおりだな。

カズミの頑張りを無駄にしたくない気持ちは分かるが、イリーナまで飲まれてどうする。お前らしくないぞ?」


「ベッドコーチ、申し訳ないです」


「イリーナ。ベッドコーチと呼んだから、罰金だな」


イリーナは、顔を赤くして、反論をする。


「試合中にそんなこと、言わなくても良いじゃないですか!」


「ハッハッハ!イリーナ、それだ、それでいい。

今日はカズミの分まで頑張らなくてはと、珍しく固くなっていたからな」


クラリスはカズミの頭に手を置き、子供を諭すかのように語りかける。


「まあ、カズミ。スポーツは本来、童心に帰り楽しむ物だと、あたしは思っている。

楽しいから、良いプレーが出来る。

楽しいから、自分で考え、工夫する。

楽しいから、苦しい場面でも、頑張れる。スポーツとはそう言う物さ」


「楽しむ?」


「そうだ!カズミが楽しんで、フィールドを縦横無尽に駆け回るところを、あたしは見たい。

お前が楽しくプレーをして、本来の力を発揮するところを見たいんだよ」


カズミの中で、何かが変わって来ているのが、分かった。自分で考え、楽しみにたい。そんな感情が、芽生えた瞬間だった。


「クラリスさん。僕、やります。そして勝ってきます!」


「いい表情になった、じゃないか。よし、いってこい!」


カズミはグランドに駆け出し、それに他のメンバーもついていく。


「お疲れさん、クラリス。いいアドバイスだった」


「あたしには、あんなアドバイスしか出来ない・・・それでも、カズミが少しでも楽になってくれればと・・・」


クラリスは、少し寂しげな表情をしながら、グランドを見つめた。


「お前には、誰よりも選手を愛する心がある。それで、十分さ。

だからこそ、みんなから信頼されてるんだろ」


「あたしは、体に人一倍うるさいだけさ」


ゴルドは、タメ息をつく。


「素直じゃないな。まあいい、俺達の信じる選手を、見守ろうじゃないか」


「ああ、そうだな」


そうこうしていると、カズミが申し訳なさそうな顔をして、戻ってきた。


「僕、攻撃時限定の選手のですから、守備の時はベンチでしたね」


「ああ、そうだな」


苦笑いをする、ゴルドであった。


第二クォーター14:01 ファーストダウン 残り65ヤード


攻撃の権利をナイナーズが獲得をしたので、万を実して、カズミがQBクォーターバックのポジションにつく。


さて、普通のパスプレーをすれば風と、鉄壁の守備アイアンカーテンの餌食。

かといってランプレーと言いたいけど、ランニングバックの能力を考えると、突破は難しい。

さあ、どうする。


センターから受け取ったボールを、低い弾道で、短い距離のパスをした。

アイアンマインズは、ワイドレシーバーの選手をマークしていたが、今までしてこなかった、フリーの選手へのショートパスだった為か、短い距離ながらもパスを成功させる。


第二クォーター14:01 ファーストダウン 残り63ヤード


「モーションが早くて短い距離のパス、あれは厄介ですね」


ベンチに座るリッカを始めとする、アイアンマインズの選手は困っていた。

カズミが指示無しでプレーすることで、さらにパスのスピードを上げ、ショートパスまで使い初めたのだ。

このショートパスと言うものは曲者で、ディフェンスは、ロングパスの対策をすれば、どうしても一人は、後ろに下がらざる終えない。

かといって前に出れば、後方に空きスペースが出来、ロングパスも成功の可能性が増える。

堅牢かつ堅実な守備をモットーとするアイアンマインズには、相手クォーターバックへの攻撃(ブリッツ)以外には、前に選手を出したく無かったのだ。


その為、カズミの近くにいる誰かしらは、フリーの選手が出てくる。

それが短い距離だとしても、確実に進める。

結果、ナイナーズは初めて四回以内攻撃で、10ヤード進む事に成功し、連続攻撃権ファーストダウンに成功する。

その後も二回連続で、攻撃に成功し、残り20ヤードまで来た。


第二クォーター9:25 フォースダウン 残り20ヤード


相手選手のポジションを見続けていたカズミ

、何かに気がついたのか、おもむろにタイムを申請する。


「いきなりタイムをかけて、すみません。

僕1つ、提案したい作戦が、あります・・・」


イリーナは、カズミの提案にうなずく


「確かにその作戦、成功すれば、得点を奪いながら、トウカ・サカザキを倒す事が出来る。

が、失敗すれば、私が真っ二つか」


ゴルドは、イリーナに訪ねる。


「さてどうする。カズミ提案はリスクが高いが、その分リターンも大きい。

イリーナは、どうする」


「もちろんやりますよ。

ここはアイアンマインズに、一泡吹かせてやろうじゃないですか!」


ナイナーズの長い打ち合わせを見て、レイトンベッドコーチは、警戒をする。


「ナイナーズは、何か企んでるかもしれない。

たが、ここを乗りきれば、奴らの戦意を削ぐことが出来る。

ここが、正念場だ」


ナイナーズのタイムが終わり、両チームの選手は、ポジションに散る。


「イリーナ、頼んだよ!」


イリーナは静かにうなずく。


「伸るか反るかのワンチャンス、こんなヒリヒリと来る感覚は、久しぶりだ。

必ず成功させる」


センターからボウルを受け取ると、カズミはランニングバックと交差し、ボールを渡すふりをする。

マインズはランニングバックとカズミのどちらが、ボールを持っているか分から無いためか、プレーが遅れてしまう。


カズミは、そのスキ見逃さなかった。

この試合初めて、イリーナへパスをする。

しかし、そこはトウカの抜刀射程圏外

だが、イリーナは無防備な状態でジャンプをし、パスを取りに行った。


「甘いぞ、イリーナ・バニング!

抜刀の射程圏外だが、無防備な今ならイリーナ・バニングを倒せる」


トウカは初めて、射程圏外の敵を斬りに行く。


「待てトウカ、無理に飛び込むな!」


しかしトウカは止まらない。何故なら、目の前に相手エースを倒せるチャンスが、転がっているのだ。

トウカはたまらず、前に踏み出す。


前に踏み出し、イリーナを斬る瞬間だった。なんと、空中で半身になり、刃を避けたのだ。


「しまった!?誘い出された!」


トウカは悟った、誘いだされた事に。

あわてて下がろうとしたが、トウカの右手を、イリーナの左手が掴む。

真っ赤に燃え上がる右手の鉄杭は、トウカを打ち貫く準備が出来ていた。


「このっ!?離せ、離せぇぇ!!?」


トウカは必死になり手を振りほどこうとするも、万力の様に締め付けたイリーナの左手は、トウカの左手を離さない。


「我が鉄杭は、全てを貫く。

そしてこの身に宿りし炎は、全てを焼きつくす。

その身に刻め、バーニングステーク!」


バチバチと音をたてるイリーナの鉄杭は、トウカの体を貫き、 焼きつくした。


「ブレイクッ!」


「そん、な・・・ばか、な・・・・・・」


イリーナの必殺技、バーニングステークをもろに受けたトウカ。

彼女は胸に致命傷を受け、無念と言わんばかりの表情をし、フィールドにバタリと倒れこむ。


この時、バトルによりフリーだった、ワイドレシーバーのヘレン。

彼女がイリーナの代わりにボウルをキャッチし、タッチダウンまで20ヤードの距離を走りきった。

主審の笛とコールが、フィールドに、響きわたる。


「ナイナーズ、タッチダウン」


この試合、両チーム初の得点は、ナイナーズがもぎ取った。

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