第9話

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時間は少し遡る…


貴賓室に戻ってきたイツキたち3人はメイドが入れてくれた紅茶を飲んで一息ついていた。

しかし部屋を支配するのは沈黙。

イツキは居心地悪そうに薄暗くなりつつある窓の外を眺め、トオルはソファに座ったまま指先でクルクルと髪の毛を弄る。

レイナは泣き腫らした目元を気にするようにそっと撫でながら俯いていた。


「ローウェンさんはああいったけど、帰る方法、探してみないか?」


重苦しい空気に耐えかねたイツキが意を決したように2人に向かって言う。

それに思わず顔を上げるレイナ。そんなこと出来るのか、とでも言いたげな表情だった。


「それは俺も賛成だ。今現在まだ、見つかってないだけで、俺たちが見つければいい。スマホもゲームもない世界なんてゴメンだ。」


髪から指先を離してトオルも同調する。

レイナも2人のその言葉にこくりと頷いた。


「そうとなればまずは…どうすればいいんだ…?」


よし、と気合いを入れたはいいもののまず何をすべきか、ということが分からずに首を傾げるイツキ。

そのままトオルへと視線を向ける。


「…何も考えずにいったのか

…まずは過去を調べることじゃないか?…ああ、いや、それよりこの世界そのものが先か。」


イツキと、そしてレイナの縋るような視線に口元が綻びそうになるのを隠すように唇に指先を当てて話すトオル。

もう一度ローウェンに話を聞くべきだと2人に告げた。


「そんじゃ、ローウェンさんのとこに行こうぜ。外の人に聞けば分かるだろ。」


決まったら即行動!とばかりにイツキが部屋のドアを開ける。ドアのすぐ側には予想した通り、兵士が1人立っていた。先程までいた冴えない感じの兵士とは別人のようで、イツキと目が合うと軽く会釈する。


「あの、ローウェンさんに聞きたいことがあるんで、連れて行って貰えませんか。」


イツキの頼みに、連れて行っても大丈夫か僅かに思案する兵士。

なるべく要望は聞き入れるように命令されているものの、騎士団長への取り次ぎはすぐにできるものでは無い。

聞いてくるから待っていて欲しいと言おうとイツキに視線を戻す。


「取り次ぎ出来るか聞いてまいりますので、少しおま…」


「あら、それなら代わりにわたくしがお聞きしましょうか?」


兵士の言葉に被せるように少し低めの女性の声がした。

思わず振り返り、道を開けて最敬礼する兵士。


「さ、宰相閣下…!」


兵士の後方からゆっくり歩いてくる女性を見つめ、ぽかんとするイツキ。

思考を忘れるぐらいに、その女性は美しかった。

白にも見える緩くウエーブのかかった薄い水色の長い髪と、1片の狂いもないかのように整った顔には冷え冷えとしたアイスブルーの瞳が輝く。白いゆったりとしたローブを纏い、女性としては少しばかり背が高く、イツキと視線がほぼ同じだった。


「異世界からのお客様、わたくしに分かることならばお答え致しますわ。」


宰相と呼ばれた女性は優雅に笑いながらなにか言いたげな兵士をその笑顔でもって制し、イツキを伴って貴賓室へと入る。


はやかったな、と言おうとしたトオルと、おかえりと言おうとしたレイナの視線を浴びてより笑顔を深めながら。


「初めまして皆様方。わたくしはこの国で宰相を務めております、アウローラと申します。ローウェンに代わりまして、お聞きしたいことにお答えさせて頂きますわ。」


冷たく見えるアイスブルーの瞳を柔らかく細めて優雅に一礼するアウローラ。





「…なるほど。かしこまりました。元より陛下には可能な限りの支援を言い遣っておりますので、ご安心くださいませ。まずはこの国についてですが…」


3人で話し合ったことをアウローラに伝え、この国のことを教えて欲しいという3人に深く頷いて話し始めるアウローラ。


・この国は人と竜が共存する国である。

・人族が多いが他種族も少なからず生活している。

・生き物の負の感情を喰らいに来るものがいる。黒いモヤのようなもので、それに飲まれると魔物に堕ちる。

・危険な魔物を退治したり、商人の護衛や調合などに必要な素材の採取などを引き受ける冒険者と呼ばれる人々がいる。


ということを丁寧に話してくれるアウローラ。より詳しく知りたいなら図書館もあるとのことだった。


「あの、この世界には魔法はありますか?」


アウローラの話に区切りが付いたあたりでトオルが問いかける。


「ありますわ。生き物はみな体に魔力を宿しています。その魔力を使って魔法や身体強化を使えるようになるのです。あなた方にも並の人より多くの魔力があるように見受けられますわ。少し訓練すれば使えるでしょう。」


アウローラの答えにぱっと顔を輝かせる3人。

元いた世界では御伽噺だった事だけに心が踊る。


「さて、随分と話し込んでしまいましたわ、そろそろ夕食の用意が出来ているはず。ご案内しましょう。」


魔法に期待が高まる3人にアウローラはにこりと微笑んでから立ち上がり、彼らを伴って食堂へと歩き出す。

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