第10話
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――――
「さぁて、話し込んだら腹減ったな…飯食いにいくか。」
この世界の話が一段落したタイミングでチェザーレが火蜥蜴を撫でながら提案してきた
。
確かにマリも空腹を感じ始めていたので頷き、先導するように歩き出したチェザーレに並んで歩く。
「そういえばさっき、ローウェンさんは竜に近い、って言ってたけど…あれはどういう意味?」
マリがふと疑問に思ったことを尋ね、華やかな顔を見上げる。
「うん?ああ…ローウェンは竜の…」
そう言いかけたチェザーレがふと正面に視線をやる。
それに釣られてマリも視線をやれば、向かいから歩いてくるのは4人の人間だった。
3人は見覚えがある、一緒にこの世界に飛ばされてきた3人だ。残るもう1人は言葉を失うという表現がピッタリとくるような氷のような美女だった。
「これはへい…」
女性がチェザーレを見て声を掛けかけるが、それを手で制するチェザーレ。
マリに見えないようにそっと女性に片目を瞑って合図する。
それに微笑みで返す女性。
「宰相閣下、お久しぶりです。相変わらずお美しい。」
最敬礼をしつつ、よそ行きなのがありありと伺える笑顔でしれっと言い、礼に伴って顔を下げ、傍らにいたマリに目配せするチェザーレ。
「彼女がローウェンが竜に近い理由だ。氷雪竜アウローラ、ローウェンに加護を与えて竜の力を授けたのさ。」
何事かとチェザーレへと顔を向けたマリにそっと教え、この国の宰相が竜であると告げる。
それに驚いて思わずアウローラを見ようとするマリだが、その奥にいた3人に視線がいき、なにかゾワリとしたものを感じて思わずチェザーレの袖を掴んだ。
「マリ?」
強ばったような顔をするマリを訝しげに見てから視線の先を追うチェザーレ。
アウローラと3人の少年たちしかいない。
どうしたのかと尋ねる前にアウローラが立ち話するぐらいなら夕食を食べながらにしましょう、と食堂のドアを開けながら促す。
イツキたちは一も二もなく彼女について行き、チェザーレもマリを伴ってそれに続く。
食堂には多くの人がいた。
皆この城に務めるもの達で、入ってきたアウローラ達に慌てて席を立って敬礼しようとする。
それを首を振って制し、自由にして欲しいと伝えるアウローラ。
後ろにいたイツキたちはその手馴れた優美な仕草に見惚れるばかりだった。
自分がいては周りのものが緊張するから、と苦笑して食堂の奥にある個室へと案内するアウローラ。
飛び出してきた料理長にオススメをお願いし、個室のドアを閉めて音が漏れないように室内に魔法を掛けた。
白く清潔なクロスがかかった長方形の6人掛けのテーブルが置かれ、ほとんど待つこともなく、料理長自らが沢山の料理を運んできて退室する。
イツキ、レイナ、トオルが並んで座り、向かいにアウローラ、マリ、チェザーレが座る。
マリを含めた4人と分け隔てなく話すアウローラと、料理を平らげるだけでほぼ口を開かないチェザーレ。
2人の真ん中で先程まではチェザーレとも話していたはずのマリは最初の頃とおなじ、最低限の会話しかしない。
――レイナは面白くなかった。――
元いた世界では周りいた男子は自分をとても可愛がってくれた。優しくしてくれたし、役にも立ってくれた。お願いを沢山聞いてくれた。
この世界に転移して、二人の同級生もさっきまでは気遣ってくれた。
でも今は目の前の絶世の美女に夢中だった。
レイナは面白くないと、密かに思った。
もちろん顔には出さないし、相手はこの国の偉い人だ、接点なんてそうそうないだろうから2人もいずれは自分に向くだろうと思っていた。
そして先程まで一緒だったローウェン。
時間を置いてまた後で訪ねようと思っていた。不安さをアピールすればきっとあの綺麗な顔を心配そうにして自分を満たしてくれるだろうと。
食堂に来る道すがら、そう考えていたレイナ。
食堂前で、マリと共にいた男。これもまた絶世と呼べるほどの整った容貌だった。
話を聞けば彼はマリと共にこの国をまわるらしい。
自分の転移に巻き込まれただけの地味で貧相な少女にを護衛するために、だとか。
それがレイナには面白くない。
護られるべきは自分の方では無ければならないと、じわりとその考えが心を蝕んでいく。
自然、マリを見つめるレイナの視線に仄暗いものが見え隠れしだす。
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