第3話
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ノックの音ともに静かにドアが開く。
3人の視線を浴びながら入ってきたのは濡れたように艶のある黒い長髪を後頭部でひとつに縛り、詰襟の騎士服に身を包んだ長身の青年だった。
青年は軽く一礼してアイスブルーの瞳を笑みの形に細め、部屋を見渡す。
間違いなく少年たちがいることを確認してから、
「お待たせして申し訳ない。私はローウェン。ローウェン・フォン・ライドルト。この国の親衛騎士団を率いている。ようやく王の執務に区切りが付いてね、君たちさえ良ければ謁見して話をして頂けないだろうか。」
その声にようやく読んでいた本から顔を上げる少女。
4人ともにしっかりと視線を合わせてから返事を待つ。
「分かりました。でも俺たち王様との話し方なんて知らないけど大丈夫なんですか?」
3人で視線を合わせた後にローウェンに答えるのは茶髪の少年。
「心配しなくても大丈夫、君たちは異世界からの客人だからね。陛下は気さくなお方でもある。細かいことまで言われることは無いはずだよ。君も、一緒に来てもらっても?」
苦笑混じりに頷いて答え、1人だけ離れて座る少女にも問いかけると、こくりと頷くことで了承を得た。
早速案内しよう、と踵を返し、部屋の外に待機していた兵士へと何気なく目を向けるローウェン。
そのアイスブルーの瞳が僅かに見開かれ、ほんの一瞬だけ動きが止まる。
幸い、3人はお互いに話し合っていて気づいていなかった。
最後に出てきた少女だけが、その僅かな変化に首を傾げていたが。
来た道が分からなくなるほどにあちこち曲がった先に、重厚な扉が見える。
先導していたローウェンが扉に手を翳すとドアと彼のでの間に白い魔法陣が浮かぶ。
それはクルリと半回転して瞬きの間に消え、そっと手を降ろしたローウェンは扉に向かって声をかけた。
「お客人をお連れ致しました。」
扉の奥でコトリと何かが動く音がした。
それを聞いてそのまま扉を開ける。
てっきり物語でよく見る王座があるのだと思っていた少年たちは、開いた扉の先に見えた部屋に目を見張った。
執務室、そう呼ぶに相応しい部屋だったからだ。
壁1面の本棚と、入ってすぐにあるソファーセット。
奥にはどっしりとした大きな机が置かれ、沢山の巻物や書類らしき紙束が積まれていた。
その机に腰を預けるようにして立ち、片手に書類、片手にカップを持つ金髪の美丈夫。
こちらに気がついたその男は書類を置き、カップを掲げて男らしい笑みを浮かべた。
「おう、待たせて悪かったな、お客人よ。まぁ座ってくれ。ロー、茶を頼む。」
言われるままに執務室に入り、各々ソファへと腰を下ろす。
は部屋の外に出てメイドを飛び止め、茶を手配していた。
そして4人の後からは1人の兵士が続き、部屋の隅に立つ。
少年たちは自身らの監視かとあまり気にしていなかった。
ただ、彼に視線をやった王が、僅かにぎょっと顔を強ばらせたのに気づいたのは、やはり彼女だけだった。
「あー、まずは名を…いや、こちらから名乗るのが礼儀か。俺は星竜王国9代目国王、ジラルディア・フォン・ドラグルスだ。ジラールと呼んでくれ。」
気さくにジラールと名乗った国王の態度に王らしさが伺えず、呆気に取られたが、
「イツキ、
茶髪の少年が先陣を切って名を口にする。
王やローウェンの名乗りからして、苗字は後から言うものだと気づいたが、言い直すのもな、と思って隣に座る友人に次を促す。
「トオル、
「レイナ、
黒髪の少年が、ブラウンの髪の少女が自己紹介をし、最後に1人離れたところに座り、本棚を眺めていた少女へと視線が集まった。
「マリ。」
1言だけ簡素に告げた少女は再び本棚へと視線を戻す。
4人の名を聞いて覚えるように頷いたジラール王は本題に入ろうか、と、一人がけのソファへと腰を降ろした。
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