第4話

――――


「まずはお前たちがどういった状況で転移させられたかを聞かせて貰えないか?」


ソファに腰を落ち着け、3人と反対側に座る1人に交互に視線をやってからジラール王が促す。


「えっと、俺と透、玲奈の3人は学校から帰る途中で…喋りながら歩いてたらいきなり凄い風が吹いたんです。目も開けてられないぐらいの…」


その時を思い出すようにイツキが説明をし、同調するように2人も頷く。


「思わず目を閉じちゃって…そしたら何かに引っ張られて、目を開けたらここの、えっと…神殿?に立ってました。」


イツキの言葉を継ぐようにレイナが続け、トオルは黙って頷く。


ジラール王は鷹揚に頷き、傍らに控えていたローウェンに目配せしてから、目を閉じて僅かに考える素振りを見せる。

それを見つつふと、ローウェンがマリに視線をやった。

3人とは違い、周囲と、そして部屋の端にそっと控えている兵士をしきりに見ている。


「マリ、と言いましたか…貴女も同様の現象でこちらに?」


先程のイツキ達の発言には無かったが、神殿には4人同時に現れたと聞いていたため、確認のように問う。


ジラール王は閉じていた目を片方だけ開け、ちらりとローウェンを見る。王がいる場で伺うことなく発言したのを咎める素振りだが口には出さない。

それよりもマリの事が気になった。


「…いいえ。私は図書室にいました。気になる本があって、手を伸ばしたら、本棚からに引っ張られました。それで、ここにきたみたいです。」


「…なに?そのような例は聞いたことがない…!」


マリの話を聞いた、マリ以外の全員が驚く。中でもジラール王と、ローウェンは信じられないとでも言うような驚き方だった。

どういう事だろう、とばかりに3人の視線が王に向く。マリはあまり興味が無いのか、ぼんやりと虚空を見ていた。


「取り乱して済まない、イツキ達の転移の仕方は、過去、この世界にきた異世界の人々と同じものだった。だがマリの、引っ張られた、というのは初めて聞いたのでな。ロー、頼む。」


ジラール王の促し促しに応じ、1歩進み出たローウェンはそっと両手を差し出す。手のひらの上にぽちゃん、という音ともに2つの拳大の水球が現れた。


「右の水球をわが星、左の水球をあなた方の星とします。この星と星の間には途方もない時間の壁があり、何者も己の力では超えることは出来ません。」


言葉に合わせるように水球の間に渦を巻いた薄い水の壁が現れる。突然の手品のような説明の仕方にマリを含めた異世界の4人は静かに聞き入った。


「しかし、この壁は時折星と星に干渉するのです。異世界転移、という干渉を。この力は一方的で、またとても不安定です。我々も幾度となく解明しようとしましたが、いまだほとんどが謎のままです。」


左の水球側の壁から右の水球に細く水の筒が繋がるのを見せながらローウェンは言葉を続ける。


「この力は星の力が弱い方から強い方へと吸引される傾向にあるようで、この度を含め、過去数度、あなた方の星の人がわが星へと吸い込まれてきています。そして…」


1度言葉を切り、ぐっと眉を寄せて4人を見据える。


「こちらからの任意の転移は、現在も、不可能です…申し訳ありません…。」


ぎゅっと眉を寄せ、言いづらいながらも告げるローウェンと、同じく不甲斐なさを感じて拳を握るジラール王。

目の前にいるのは未来のあった子供とも呼べる見た目の少年たちだ。どうしようもないことではあるものの、戻してやれないのもまた事実。


「私たち、かえれないの…?」


ぽつりと零したレイナの言葉に、ローウェンは水球を握り潰すように消し、ぐっと拳に力を入れる。

ジラール王もまた、握った拳により一層力が入った。


「そんな…もうお父さんやお母さんにも…みんなにも会えないの…?」


うわ言のように呟きながら次第に声に涙が混じるレイナ。

イツキもトオルも、何を言うでもなく俯く。


しん、と暗く重い空気が部屋を支配し始めた。

その気配にハッとローウェンが顔を上げる、これは、よくない。この空気は闇と魔を呼ぶ空気と似ていた。

この子達の絶望が、悲しみがそれを呼んでいると気づく。


(このままでは…!しかし…この子達の悲しみをどうすれば…)




最初に其れに気づいたのは、マリだった。

先程のローウェンの言葉に、マリは自分でも驚く程にすんなりと納得した。

もう帰れない、帰らなくていい。

そう思って、ホッとしたほどだ。

けれどほかの3人は違った。自分と違って深い悲しみと絶望を全身で顕した。

途端にこの部屋の空気が重くなるような感じがした。例えでもなんでもなく、ずしりと重くなったように。

何より、イツキ達がいるソファの隅から黒いモヤが染みてくるのが見えてしまった。

不思議に思ってローウェンを見る。

同じようにモヤを見ている。とても焦った顔で。


(あのモヤは、この星ではよくないもの?)


ゆっくり、だが確実に染みが広がるのを眺めていると、ビクリと染みが止まる。

同時に頬を暖かい空気が撫でた。

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