第2話
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星竜王国。
大陸を南北に両断する竜王山の麓から西側全てを王都、北都、南都、西都の四都市で人族を中心とした多種族で栄える大国である。
王都ドルニア。
巨大な王城を中心に広がる整然とした街並みを珍しいものを見るように窓から見下ろし、視線ごと身体を振り返らせる。
「ホントに異世界なんだなぁ…。選ばれし勇者!ってやつだったり?」
好奇心いっぱいにソファへと腰掛ける少年へ話しかける。
貴賓室らしき豪華な部屋には3人の少年少女がいた。
窓辺で好奇心を顕にしている少年。
明るい茶髪に黒い瞳で制服を適度に着崩している。
彼の視線の先でソファに身を鎮めて閉じていた目を開いたのも同じ年頃の少年だった。
話しかけてきた少年と同じ制服を、こちらはきっちりと着こなし、黒い瞳を窓辺へと向ける。
「さぁな…王様とやらに会えば答えてもらえるんじゃないか?なんの思惑もなければ、だけど。」
静かな声音で応え、緩くパーマのかかった黒髪を指先でくるくると弄る。
考え事をする時の彼の癖だと気づいた少年は、調度品を珍しげに眺めている少女へと視線を向けた。
「なぁ、お前はどう思う?
少年の問いかけに玲奈と呼ばれた少女は小ぶりな竜の置物を手にしつつ顔を上げた。
肩にかかる長さのブラウンの髪を掻きあげ、そのまま口元へと指先をあてて思案し、眉を下げて不安げな顔を作る。
「今はこうやって保護されてるけど…そもそも私たち帰れるのかな…?」
ここまで彼らを案内した兵士はそういったことには我々では答えられない、と言われた。
転移についてよく知るものを呼ぶまで待っていて欲しいと、この貴賓室に連れてこられてから既に2日が経過しようとしていた。
「なるようになる、と思うしかねーんじゃね?っていうかあの地味な…なんて言ったっけ、あいつどこいった?」
元々楽天家の少年は湿っぽくなる空気を嫌うように話題を今はこの部屋に居ない、もう1人の転移者へと逸らす。
3人は友人同士、クラスも同じでよく喋るメンバーだった。
だがもう1人は、なぜ一緒に転移したのか不明なぐらい、関わりがなかった。
同じクラスでもなければ話したこともない。
同じ学校に通っていたことだって、昨日知ったぐらいだった。
窓際から離れ、ソファへと腰を下ろした少年が何か言おうとした瞬間。
ノックと共に静かにドアが開いた。
「では私はこれで…また何かお困りでしたらお呼びください。答えられることは多くはありませんがなるべくお力になるよう言いつかっておりますので。」
喋りながらドアを開けたのは兵士だった。
部屋の外で待機している兵士とは違う顔だが、同じ鎧を身につけている。
その兵士に案内されるように入ってきたのが少年が行方を探していた転移者だった。
「はい。ありがとうございます、助かりました。」
平坦な声で微かに頭を下げながら少女が入ってくる。
手には3冊の本を抱えて。
艶のあるセミロングの黒髪と感情がイマイチ分からない黒い瞳、同年代の女子にしては小柄な身体。
兵士が出ていくのを見送ってから1人がけ用のソファに座り、手にしていた本を開いて読み始めた。
「え、お前なんで読めるの…ってか、どこで見つけてきたんだよそれ!」
あまりにも自然に異世界の本を読み出す少女に思わず席を立って問い詰めるように声を荒らげた。
お前呼ばわりされたことに腹を立てるでもなく、ただ読書を邪魔された事が若干煩わしく思うかのように僅かの間を置いて黒髪の少女は本から顔を上げた。
「部屋の前にいた兵士さんに聞いたら、書庫に連れて行って貰えたので。中には入れなかったけど絵物語を持ってきて貰えたから、読んでる。言葉もそうだけど、文字も読めるみたい。」
そう言って再び手元の本に視線を戻す。そこには大きな竜と、立派な身なりの人間が描かれていた。
勝手な行動は!といい募ろうとしたが、そもそもがほとんど知らない人間だ。同じ世界から転移してきたにも関わらず、彼女とはほとんど会話をしていないことを思い出して口をつぐみ、元の席へと戻った。
3人が取り留めのない会話をし、1人は静かに本を読む。
そうして幾ばくかの時間がすぎた頃、再びノックの音が響いた。
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