第5話 街道にて ⅰ
山からの旅路はハクローに乗っているとあっという間だった。けれど、神様を一瞬で食べてしまったハクローからすれば、それでもだいぶスピードを抑えてくれたのだろう。
道なき道を走り、ちょうど目の前に街道が見えたところだった。
ハクローの住まいは城下町にあるというが……。
「ここで少し待っていてほしい」
そう言ってハクローはあたしを背中から岩場に下ろした。少し遠くに見える、あれが城下町だろうか。
「どうしたの?」
「一度、俺がその上からでも着られそうな服を持ってくる」
ここなら誰も来ないだろう、とハクローは鼻をひくつかせた。
あたしも周りを見渡してみるが、確かに誰もいない。街道を歩いている人はちょこっと見えるが、ここに誰かがいるってわかってないと敢えて来る距離でもない。
「ありがと、待ってるね」
少しでも隠れられるようにと、あたしは座って縮こまる。
「大丈夫、すぐ戻って来るから」
あたしの不安が見透かされたのか、ハクローは一度頭を寄せてから街道側へ降りていく。そして突風。
「い、いない……」
一瞬だった。風が岩の向こうから来たかと思ったら、既にハクローの姿は消えていた。
「縁糸は……あ、ちゃんと伸びていってる」
意識を凝らすと、縁糸は相変わらずフヨフヨしながら、城下町の方へ漂っていた。
「……はぁ」
流石に疲れて、少し目を閉じる。
変な夢を見てから、移り変わる事態の動きについていくのがやっとだった。
これからみんなを探し回らなきゃいけないことを思うと、めげそうになる。けど、やるって決めたんだから、頑張らないと。ハクローだってついているんだ。
「――ん!?」
再び風を感じて目を開けると、そこにはマントを羽織った白髪の男性がいた。
誰も来ないんじゃなかったのかハクロー!?
「こ、こんにちは」
とりあえず、挨拶しておく。自分は怪しいものではないですよー、というか、逃げた方がいいかな?
あたしの心情を知る由もないその男性は、首を捻った。雑誌とかで見るモデルさんのような雰囲気でちょっとカッコいいかもしれない。
……あれ、これちゃんと挨拶は通じてるのかな? このペンダント、不良品ってことない?
「えへへ……」
相手に警戒させないよう、微笑みかけながらゆっくり立ち上がった。いざという時のためだ。
マント男は多分、あたしよりも少し年上くらいだろう。優しげな顔つきをしていて粗暴な感じには見えない。こちらを攻撃する意志を持っているわけではなさそうだ。
とはいえ、こちらは丸腰。ハクローって呼んだら来てくれるよね……?
マントの下から男が何かを取り出そうとする。
「――ハクロー!!」
「ど、どうした。そんなに待たせたか?」
あたしの叫びに、目の前のマント男が慌てふためいた。は?
よくよく見ると、マント男が手に持っているのはグレーの布。広げられると、それはローブだった。
「あなた、ハクローなの?」
「それを見れば、わかると思ったんだが……」
縁糸は確かに、目の前のマント男へ伸びていた。
人の格好もできるって、最初から言っといてよ!
無駄に驚いた気恥ずかしさから、少しムッとしてしまう。
差し出されたローブを受け取り、改めてハクローの姿を見る。
「驚かせてすまなかった」
色白な顔に、青い瞳があたしをじっと見つめていた。何だかドキッとしてしまう。さっきモデルみたいと思ったあたしの直感は間違っていなかった。
「あ、ありがと」
準備のいいことにハクローは靴も持ってきてくれていた。ローブを身につけて、ちょっと硬めの靴を履く。
それにしても……。
「ハクローってイケメンだったんだねぇ」
「えっ」
あたしにそう言われてハクローは少し戸惑ったようだった。その顔もなんだか様になっている。
「いや、昔からすごく可愛かったし、カッコよかったんだけどさ」
背も高いし、何かズルくない? 変性したからなのかな。
「そんなことを言われてもな……」
困ったような顔をして、白い頭を掻くハクロー。ちらりと見える犬歯がちょっと可愛らしい。
「ハクロー、正直に話してほしいんだけど」
「なんだ?」
「まさか彼女さんとかいないわよね? お家とかに」
「――いるわけないだろっ」
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