第4話 さてこれから ⅱ

 驚いたあたしをよそに、ハクローは穏やかだった。


「つい、懐かしくなってしまって……」


 そう言うと、腕の中のハクローが地面に飛び降りる。そして、みるみるうちにその身体が膨らんでいき、成犬ほどの大きさになった。

 見た目だけは、ほとんどあたしの知っているハクローだ。


「……ホントにハクローなの?」


「怖がらせてすまない。こちらの世界に来てから、できるようになったんだ」


 あたしの顔を見ながらハクローが口を開く。言っていることがわかるのが、まだ不思議な感じがする。


「なんか、風船みたいだね」


 その場に蹲み込んで、もう一度ハクローを抱き上げる。さっきよりも重たい。


「サキ……」


「何? ハクロー」


「もう一度なでてほしい」


 かわいいことを言うなぁ。

 今度は背中をなでてやると、まるっとした尻尾が激しく左右に揺れた。


 変性獣になったって、ハクローはハクローだ。


「ありがとう、サキ」


「ううん」


 モフモフしていると、ふと、ハクローの白い毛が滲んで見える。久しぶりに会ったんだもん。ちょっとくらい、泣けてくるよね。


「泣いているのか」


 ハクローが地面に飛び降り、あたしくらいの大きさになる。チロ、と温かい舌で涙が拭われた。


「ありがと。それじゃ、頑張らなきゃね」


 とは言うものの。


「これからどうしよう」


 ハクローがいてくれるのは心強いけど、多分一日仕事で終わることじゃないだろうし。


「一旦、俺の住処に来るか」


「ハクローのすみか!? ケージ!?」


 ハクローの言葉に目を白黒させてしまう。


「そんなワケないだろう……家を借りている」


 ハクローは呆れたような声を出した。


「そ、そっか、ハクローはこっちで生きてるんだもんね。そりゃ普通の家の一つや二つくらいあるよねー」


 一体何を言っているんだあたしは。


「その服も、こちらでは目立ち過ぎる」


 言われてみれば、うん。その通りだ。

 とりあえず、この世界にハクローは慣れているっぽいし、従おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る