語り手の和花には、自分を大切にしてくれず、すぐにどこかへ行ってしまう彼氏と、優しくて一緒にいると安心できる、彼女持ちの先輩がいます。
彼氏の言動に傷いた時、そばにいてくれたのは先輩でしたが……。
女性慣れしている彼氏との間に感じる溝と、そこから生まれる不安は、多くの人が共感できるものだと思います。
その不安がよく分かるからこそ先輩の優しさに惹かれる気持ちが身に迫ったものとして感じられ、一方で彼氏の態度には苛立ち、きっと語り手に感情移入してしまうことでしょう。
けれど、心の平穏と愛情は必ずしも同時に存在するわけではないのかもしれません。
自分とは全く違う人間の不誠実に感じる不安にも、自分と似た匂いの人間の優しさに感じる安心にも、それとは裏腹の何かがある。
終盤の展開でそう感じた時、そしてラストで明かされた事実に触れた時、くるりと物語がひっくり返ります。
どこかへ行ってしまう彼への不安の影には何があるのか、本当に相手を必要として離れられないのは誰なのか。
離さないのは誰なのか。
歪な愛情とそれに絡められた人間の不穏な余韻に、怖さを見るか、小気味良さを覚えるかは読み手次第かもしれません。