第41話 人生の終わり

 駆けつけてきたフランカは俺の腕にしがみついていた。


「大丈夫か?」

「もう・・・何がなんだか・・・。」

「タイミングが悪かったな。」

「状況はよくわからないけど、助けてくれてありがとう。シン。」


フランカは声を震わせながら、感謝を伝えてくる。


 フランカを落ち着かせ、刀を鞘に戻した俺はアルベルトがいる方へと振り返る。アルベルトは自分の雇った男が斬り伏せられたことに困惑しているのか、ただただ茫然と立ち尽くしていた。


「邪魔者もいなくなったことだし、ゆっくりと話そうか?アルベルト。」

「そんな、馬鹿な・・・。」

「おい。聞こえてるか?」


アルベルトは頭を抱えてその場に座り込み、ぶつぶつと独り言を言っていた。どんなに身体を揺さぶっても、何を問いかけても彼の反応はなかった。


「だめだな、こりゃ。・・・仕方ない。マキナ、俺はもう一度ヴィオラのところに行ってくるよ。その間こいつのことを任せてもいいか?」

「それは構いませんが、ヴィオラは会ってくれますかね?さっきはあんな状態でしたけど・・・。」

「さぁな。まぁ、警戒心を解くためにもこの本は置いていくよ。相当これにビビってたみたいだしな。」

「わかりました。気を付けて。」


マキナとフランカを残し、俺はヴィオラがよく現れる階段へと向かった。


 階段にたどり着いた俺は、ヴィオラを呼ぶ。


「おい、呪い師!さっきは悪かった!もうあの本は見せないから、少し話をさせてくれ!」


しばらくの沈黙の後に、影の中からスッと彼女が姿を現す。


「・・・またアンタかい。さっきの広間での騒ぎもアンタが起こしたのかい?」

「あぁ、そうだよ。アルベルトが寄越した刺客とドンパチしてたんだ。それに、どうやらあの本もアルベルトがドナルドに渡したみたいだ。アンタが言ってた『自殺であり他殺』って言葉の意味が少しわかった気がするよ。」

「やっぱりあの貧乏王子の仕業だったかい。罰当たりな男だよ。」

「だが、まだわからないこともある。結局あの本、希望の書カルネデエスポワールないし死の手帳カルネデモルトの具体的な効果がわからない。何か知っているか?」

「あれは、呪われた剣士、今だと『初代ドミナター』だなんて呼ばれ方をしている奴が作り出しただよ。その魔具は誰かに開かれることで発動し、のさ。自分がいつどんな形で死ぬのかを見せられるんだ、普通の人間にとっては耐えられないもんさ。」


死の手帳カルネデモルトは人工魔具で、自分の人生の終わりを見せられるというものらしい。たしかに、これから先の人生の終点が見えてしまえば、生きることへの希望を失ってしまうかもしれない。どんなに努力を重ねたとしても、自分の終わりが脳裏に焼きついてしまっていれば、無駄に感じるだろう。それはまさに、残りの人生を『死ぬために生きる』ことになるのであろう。


「そんな悪夢を見てもピンピンとしているアンタが不気味でならないねぇ。」

「俺は特別なんだよ。魔具が効かないんだ。」

「ほぉ。尚更気味が悪いね。ヒヒヒ。あの使用人もアンタと同じだったら、自殺なんかせずに済んだかもね。」


ドナルドは一体どのような『死』を見てしまったのだろうか。苦悩な人生を歩んできてた彼にとっては、愛する両親がいるあの世へいくことが、ある種の希望だったのかもしれない。


 説明を終えたヴィオラはまた闇の中へ消えて行った。死の手帳カルネデモルトの仕組みもわかったので、ヴィオラに会う目標は達成されたと思った俺はアルベルトのいる広間に戻ろうとする。その時、広間の方向からガラスが割れる音が聞こえた。続けて、マキナの声がする。


「フランカ!!!落ち着いてください!!!」

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