第35話 選ばれた者

 メイドのフランカとの会話を終えた俺は王子がいる広間を見張っているマキナと合流した。


「シン。フランカから何か聞き出せましたか?・・・というか、なんかお酒臭いんですけど。」

「微妙だな。希望の書カルネデエスポワールがドミナント教にとって重要な存在であることくらいしか聞き出せなかった。しかもそれは簡単に触れることはできないらしく、フランカは見たことも無いそうだ。」

「そうですか・・・。死の手帳カルネデモルトとの関係はありそうでしたか?」

「いや、フランカはその言葉すら知らなかった。全くの別物なのか、それかあの呪い師が適当を言っていたかだと思う。それより、殿下の方に何か動きは?」

「いえ、特にありません。一度も外には出てきていませんし、誰も部屋にいれていません。」


俺はドナルドの部屋にあった死の手帳カルネデモルトと思わしき手帳が本物なのかどうかを確かめたいと考えていた。そのためにはあの部屋に入る許可が必要だ。


「次は王子と話してくるよ。お前も来るか?

「そもそも部屋に入れてくれますかね?シンがドナルドを殺したと思われていますし。」

「またを使うさ。」

?」


俺は王子の部屋の前に立ち、数回ノックをする。


「誰だ?」

「シンです。いくつか伺わせていただきたいことがあり、入室の許可をいただきたく。」

「・・・ならん。」


やはり、普通にお願いをしても入れてもらうことはできない。


「私もつい先ほど、フランカに見届けられながらドミナント教に入信いたしました。」


マキナは「はぁ?」と小声で言い、引きつった顔でこちらを見てくる。


「それ故、殿下からもドミナントの教えをご鞭撻いただきたく。」

「・・・入れ。」


マキナに向かってドヤ顔をする。マキナは引きつった顔のままである。俺は失礼しますと一言述べて扉を開く。


「それ以上は近づくな。」

「承知いたしました。」


アルベルト王子は警戒するように俺たちと距離をとりながら会話を続ける。


「入信したというのは真実か?」

「はい。祝酒もいただきました。」

「祝酒?あぁ、修行水のことか。・・・ちょっと待て。飲んだんだ?」

「つい先刻のことですが。」


王子は俺に一歩歩みを進める。そして、疑いの眼差しを向けてくる。


「修行水は、飲み干したのか?」

「はい。いただいた分は全て。」

「身体に何か変化はないか?動悸や、痛みなんかは感じないのか?」

「いえ、特に。」


こちらに近付く速度が徐々に早まる。


「お前の言葉に嘘偽りは無いか?ドミナターに誓えるか?」

「全て真実です。フランカにもご確認いただければ、わかることです。」

「そうか。では、君はのだな?」


アルベルトはついに俺の目の前まで距離を詰め、俺の両肩を力強く掴む。その目は狂気と希望に満ち輝いていた。マキナはどうしていいのか分からずにあたふたとしている。


とはどういう意味でしょうか?」

「修行水は、所謂ところの毒なのだ。通常、人体はその毒に痛みを伴う拒絶反応を引き起こす。その痛みを超越するために我々は定期的にその毒素が溶け込んだ水を取り入れる。それ故にその水は『修行水』と呼ばれているのだ。そして、入信試験として取り入れる修行水は最も毒素が強いものを使うことが決まっている。」


あの腹黒メイド・・・。俺に断りも無しにとんでもないものを飲ませやがったな。


「その強力な毒を取り入れた君が、何故無事でいられるのか・・・。私の時は丸二日は身動きも取れなかったというのに。」

「もしかしたら、フランカの手違いでただの水を飲んだのかもしれません。」

「いや、君が飲んだのは間違いなく修行水だ。」


アルベルトは俺の口元の匂いを嗅ぎ取りそう言った。


「君は選ばれたのだ。ドミナターに。なんということだ。このような機会が私にも訪れるとは。」


王子は俺に跪きひざまず、数々の無礼をお許しくださいと謝罪をしてきた。

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