第33話 死の手帳

 自室に戻った俺は、死の手帳カルネデモルトについて何か知らないかマキナに聞いた。


死の手帳カルネデモルト?聞いたことはありますが・・・。でも、一体どこでその名を?」

「さっきの呪い師から聞いたんだ。ドナルドを殺したのはだろうって。」

「あの怖い人ですね・・・。私は苦手です。」

「たしかに胡散臭いし信用に足るとは言えないが、それでも、この閉空間では貴重な情報だ。とりあえず『死の手帳カルネデモルト』について知っていることを教えてくれ。」

「私も死の手帳カルネデモルトについて詳しいわけではありません。一般的に言われている噂程度の話になります。」

「それでも構わないよ。」


それまでベッドの隅にいたマキナは、椅子に座っている俺の前まで移動して来て姿勢を正す。そして、神妙な面持ちで語り出した。


死の手帳カルネデモルト・・・。それは端的に言えば、『所有すると死に至る手帳』だと言われています。何百年も前から存在していて、幾人もの所有者を死に至らしめてきたとのことですが、死に至るまでの経緯はまるで明確になっていません。」

「呪いの類か?それともただの魔具なのか?」

「この世界には魔具以外の異能は異世界特性オリジナルしか存在しません。それは”管理者”から聞いている情報なので確実です。だから、一種の魔具であることは間違いないのですが・・・。どんな効果でどんな発動条件があるかは不明です。」

「それが異世界特性オリジナルである可能性は?」

「低いと思います。この世界に異世界人はとあなたしかいませんので。仮に異世界特性オリジナルであったとしても、ドナルド殺害をする理由が無いです。」

「だったら、魔具の可能性が高いか。触れるとすぐに死ぬのか、それとも何か条件があるのか・・・。そもそも死の手帳カルネデモルトが『死に至る能力』を持っているのかもわからんな。・・・そうだ。とりあえずあのアホ王子に渡してその効果を試してみよう。」

「またそういうこと言って。シンの悪いところですよ。」


マキナは俺を睨みつける。しかし、実際問題その魔具がどのような効果があるのかわからなければ、死の手帳カルネデモルトがドナルドの死に関わっているのか、それとも別問題として切り分けなければいけないのかがはっきりとしない。


「それ以上の情報は無いのか?」

「そうですね・・・。あとは、がやたらとその手帳にこだわっているということしか・・・。ただ、それが何故かもわかりませんし都市伝説レベルの話です。」

「ドミナント教?だったら、あのメイドに聞けばいいんじゃないか?」

「その通りだと思いますが、宗教ってかなりデリケートな内容ですよ?それに今のあなたの信用度は低いわけですし・・・。彼女の元に行くのは火に油を注ぐだけの行為な気がします。」

「だからって黙ってても何も始まらないだろ?まぁ、殺されない程度に話を聞いてくるよ。マキナはアホ王子の方を見張っててもらえるか?あいつが殺されれば、それこそドナルドも報われないだろ。」

「それは構いませんが・・・。もし本当に彼女の元に行くと言うなら、一応を覚えておいてください。困った時の最終手段です。」

「何て言葉だ?」

「それは・・・」


 マキナとの会話を終えて、俺は一階のフランカの部屋へと向かう。彼女から聞き出さなければいけないことは「死の手帳カルネデモルトについて」「ドミナント教との繋がり」「ドナルド殺害への関与の有無」の大きく分けて三点。全てがうまく行くとは思えないが、どれか一つでも聞ければ及第点だろう。彼女の部屋の前にたどり着いた俺は、ノックをして声をかける。


「フランカ。雇われのシンだ。少し話がしたいんだが、いいか?」


返事は無い。俺を犯人と思っているのだから、当然かもしれない。その後も何度か呼びかけたが返事は帰ってこなかった。仕方ない。を試してみるか。


「・・・希望の書カルネデエスポワールの導きに俺も従いたいんだ。」


またしても返答は無い。やはりダメだったかと、諦めて部屋に戻ろうとしたそのとき、ベッドが軋む音が聞こえた。続いていくつかの小さな足音の後にドアがゆっくりと開かれる音がする。


「・・・あなたも、ドミナント教に?」

「その通りだ。昨日の殿下の話を聞いて興味を持った。俺も剣士の端くれだからな。いざという時に祈る相手がいないと安心して戦えないと思ってさ。」

「・・・こちらへどうぞ。」


俺は何とか話し合いの場を得ることに成功した。

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