第23話 この中にいる

 「私以外の完全なマキナ、すなわちを使ったのではと私は考えます。」


マキナはそう言った。その可能性は十分に考えられる。


「つまり、がタクトを召喚し、エドも殺したと?」

「エドワード殺しの犯人がなのかはまだわかりません。しかし、あの首の切断面は間違いなく我々マキナが使う斬撃です。なので、可能性は高いと言っていいと思います。」


がエドを殺す理由は何だ。デューオとエドの関係は・・・その時、今朝方のエドとヨハンとの会話を思い出した。


---私が調合実験中の”ある魔具”について、共同で進めないかと持ちかけられたよ。

---”ある魔具”ってのは、アレかい?不老不死だかなんだかってやつかい?


話によればエドはこの提案を断っているはずだ。デューオの関係者に関わって、しかも申し出を断ったのだからその報復を受けてしまったのかもしれない。自分は出向かずに他人に殺させるとは。俺はデューオという人物の闇の深さを改めて実感した。


「ということは、は今タクトと行動を共にしているということになるよな。」

「そうなります。タクトを”選ばれた者”だと信じこませ、デューオの都合のいいように仕向けているのではと予想します。」

「”デューオはいい奴だから従え”と洗脳してるってことか?」

「それは無いと思います。デューオがどんな人物なのかは、あらゆるところで聞くことになるでしょうし、マキナ一人で全ての印象操作は不可能でしょう。」

「それもそうか。」


そうであれば、一体デューオはどのようにタクトを手に入れようとしているのであろうか。俺とマキナはお互いに考え込んでしまい、時間が止まったような沈黙が続く。その時、扉の向こうで物音がする。マキナに姿を消すように伝え、様子を見るために扉を開けた。広間Aにはカールとエウルールが立っており、焦った様子で会話をしていた。


「何があったんだ?」


俺の問いかけにカールが答える。


「麓の村から何者かに攻撃を受けたと連絡があったんだ。まだ確定ではないが、デューオ軍じゃないかと・・・。」

「デューオ軍?なんでそんな辺境の村を?」


俺のその問いには、部屋から出てきたベティが答える。


「狙いは商業大国のカドニアでしょう。小拠点を構える分には、あの村は比較的立地条件が良いです。」


カールとエウルールは納得したように大きく呼吸をした。カドニアが近いとはいえ、麓の村は総人口2桁の小さな村だ。そんなところが戦争をするための拠点になるのか?なにか他の狙いがあるように見えてならない。


「おや、こんな時間に皆揃ってどうしたのだ?」


レイが眠そうに部屋から出てきた。彼女へはカールが説明をした。そして続くようにヨハン、タクトが現れ、俺たちはこの館が所謂”クローズドサークル”になっていることに気付かされた。(まさか、それがデューオの・・・?)



 昨晩の騒ぎから時間が経ち翌日の朝。朝食に姿を現さなかったヨハンを、タクトが呼びに行ったもののなかなか戻ってこなかった。レイに頼まれ様子を見に言った俺はヨハンの部屋の前に立ち尽くすタクトを発見した。何をしているんだと言いながら近づいていくと、タクトの視線の先にはで殺されていたヨハンの姿があった。


「・・・貴様。やはり。」

「ち、違う!よく見ろ!俺は返り血も浴びていないし、首を切断できる武器も持っていないだろ!」


たしかにタクトが武器も無しにヨハンを殺すことは不可能だ。それにこの殺害方法が可能なのはマキナの方だ。まだこの部屋にマキナがいるかもしれないと考えた俺は、タクトに皆を呼んで来いと広間に向かわせ、その隙に部屋の中にマキナがいないかを確認した。しかし、マキナがいた形跡を確認することができなかった。


「マキナ、いるか?」


今俺が呼びかけたマキナは、ずっと一緒にいるマキナの方だ。


「はい、います。」


マキナは姿を消したまま答えた。


「この傷跡、少しおかしくないか?」

「はい、その傷はです。非常に綺麗な断面ではありますが、部分的に人体修復魔具により傷口が成形されています。つまり・・・」

ってことだな。」




 強く縛られた縄の窮屈さにやっと慣れてきた。マキナは相変わらず縄を解こうとジタバタしている。ひとしきり暴れたのちに小言を言ってくる。


「何が”考えがある”ですか。結局状況は変わってないじゃないですか。」

「うるさいよ。今あの二つの事件のことを思い返していたところなんだ。」

「エドワードとヨハンの事件ですか?」

「そうだ。エドはマキナに殺され、ヨハンは何者かに殺された。そのかについて考えていたんだよ。」


実のところは、それが誰かはほぼ推測がついていた。


「そんなことは今はどうでも良いことです。このままだと、私たちは冤罪で警察に捕まっちゃいますよ。ベティも心配ですし。」

「俺たちがこの館から無事に出るためにも、そのについて答えを出しておく必要があるんだよ。」

「・・・どういう意味ですか?」


俺は俺の推理を語り始める。


エドの殺害はデューオのマキナによって、不老不死の魔具を巡ったトラブルにおける報復的な意味合いのある事件であった。

その後、デューオ軍による不自然な進軍によりこの館はクローズドサークルとなった。そして、かによりヨハンが殺害される。

俺は、はクローズドサークルを壊そうとしたヨハンを急遽始末しなければいけなくなったと推測する。

ヨハンが行動を起こそうとしている時、マキナはタクトのそばにいた。タクトに怪しまれないためにマキナはその場を離れることができなかった。だから、マキナはヨハンを殺害しに行けなかったのだ。

ではなぜ、はクローズドサークルを壊されたくなかったのか?

それはクローズドサークルがの達成に不可欠だったからだ。

では、クローズドサークルを作り出し、それを維持するためにヨハンを殺害した者は誰か?


それができるのは、支配者デューオだけだ。


マキナは言葉を失っていた。何かを言葉にしようとしているが、声が出ておらず口をパクパクしている。俺は追い討ちをかけるように推理を続ける。


「結局のところ俺が言いたいことは、この館の滞在者の中にデューオがいるってことだ。」


マキナは落ち着かせるように深呼吸をしてから言う。


「では、一体誰がデューオだと言うのでしょうか?」

「今までのことを思い出してみろ。一人だけ、たった一人だけ、姿を消したお前の姿を認識していた人物がいただろ?」


姿を消したマキナの姿を認識することができるのは、管理者の力を持つ者---デューオのみである。

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