第22話 そのマキナ

 調味料をエドの部屋まで取りに行ったベティの叫び声が響き、考えるよりも先に俺の身体は動いていた。玄関寄りの客室に位置しているエドの部屋から見知らぬ男が現れる。俺は腰から鞘ごと刀を抜き、奴の後頭部目掛けて一気に振り下ろす。倒れる瞬間、全く見覚えのない男の顔が目に入った。


「貴様、誰だ?」


答えを得られる前に、その男は意識を失った。15,6歳の中高生といったような見た目であった。男の意識がなくなったことを確認し、開きっぱなしになったエドの部屋を覗く。するとそこにはにより殺害されたエドの姿があった。窓が開かれていることから、今意識を失っている男はここから侵入しエドを殺害したのであろうと推測する。


そして何より、この殺害方法。コイツはもしかするとデューオの関係者かもしれない。コイツがベティの祖父を殺したのかもしれない。コイツが俺を容疑者にしたのかもしれない。そんな推測が頭の中を行き交う。とにかく、情報を聞き出さなければいけない。



 意識を失った男をカールが縄で拘束する。俺は腰を抜かしたベティに肩を差し出し、ソファまで連れていく。ソファに腰をかけると彼女は震えながら俺の左腕にしがみついてくる。あの殺害現場を見て、祖父のことを思い出してしまったのだろう。ベティの話によると、この男はベティを見て笑ったとのことであった。おぞましい奴め。そして、マキナが自分の存在を知らせるように俺の膝に触れてきた。


 

 拘束された男が目を覚ます。


「目が覚めたみたいだな。人殺し。」


目覚めた男に俺がそう言うと、男は後頭部の痛みを思い出したかのように右手で俺が殴った箇所を抑える。そして、カールやレイによって話が進められていく中でその男の名前が明らかになる。


「俺の名前はタクト。えぇっと、正直に言うと何で俺がここにいるのかもわからないし、ましてや人殺しなんてしていない。あの部屋で死んでいた人のことも知らない。それに俺は、あの部屋の窓から出て行く人影を目撃している。おそらく、そいつが犯人だ。」


タクト。そう名乗った彼が苦しい言い訳をする。


「話にならんな。時間の無駄だ。さっさと終わらせよう。」


俺はそう言い、抜刀をする。コイツとは会話ができなさそうだと判断したということと、何より抑えられない怒りが俺に刀を抜かせた。すると、マキナが俺の右足にしがみつく。コイツを殺すなとでも言っているのであろうか。加えてレイの制止もあり、怒りを飲み込むように俺は一旦刀を納めた。その後、カールの提案でエウルールにタクトを会わせることになった。



 エウルールの部屋では”嘘発見器”のような効果のある魔具によって、犯人探しが行われた。当然異世界人の俺にその魔具は反応しない。衝撃的なことに、ソレはタクトにも反応を示さなかった。だとすれば誰がエドを・・・と考えていると、さらに意外な事実がタクトの口から語られた。


「俺は異世界から来たんだ---。」


まさか、コイツも異世界人?いや、殺人の容疑を晴らすための口から出任せの可能性はないか?しかし、エウルールの魔具も反応しなかったし・・・。そうこう考えている内に話は進み、気づけばタクトが真犯人を探すという奇妙な構図が完成していた。



 その後広間に戻った俺たちにタクトが自己紹介を求めてくる。俺はすぐにでもマキナと現状について話し合うために自室に戻りたかった。タクト以外の人物にはアリバイがあるのだから、自己紹介なんてしたって時間の無駄だ。


「なんで自己紹介が必要なんだよ。この中にエドを殺した奴がいないのはさっき証明されただろ。」


俺がそう言っても、カールやレイによって自己紹介を行う流れに持っていかれる。そして結局それぞれの自己紹介が始まり、それに対する奴の反応を見ていると、いよいよ異世界転移してきたという発言に信憑性が増してくる。しばらくの会話の後、一段落したところで解散をすることになった。ベティを彼女の部屋まで送り、俺も自分の部屋に戻る。部屋の扉を閉め、窓側に設置された椅子に腰をかける。


「・・・マキナ、いるな?」

「はい。とんでもないことになりましたね。」

ベッドに腰掛けたマキナがその姿を現した。

「あのタクトって奴、本当に異世界人だと思うか?」

「・・・はい。真実だと思います。エーベルハルト・エウルールの魔具も反応していなかったので。」

「このタイミングで転移してくるってありえるのか?デューオは不完全なマキナしか作れないんだろ?」

「手段は定かではないですが、確かなのはということでしょう。」


デューオは魔具が効かない軍隊を作ろうとしている。そのための第一歩がタクトということかもしれない。マキナは一点を集中して見つめ、考え込む。熟考の末に、彼女の推測を語り出す。


「デューオの作り出せるマキナは不完全です。それはデューオが管理者の全てを支配できていないためです。管理者は完全に支配される前にその機能を自らの意思で停止させました。そのため不完全なマキナは”異世界人を召喚できるほどの力を持っていないはず”です。」

「だが、現にタクトは転移してきたぞ?」

「その通りです。には異世界人召喚は不可能です。」

「・・・おい、まさか」

「そうです。には可能なんです。これは、あくまで推測ですが・・・」


マキナは真剣な眼差しで俺を見つめる。そして、彼女の導き出した結論を俺に告げる。


「私以外の完全なマキナ、すなわちを使ったのではと私は考えます。」


デューオもまた異世界人であり、異世界人は全てマキナによって召喚される。つまり、俺をこの世界に召喚したマキナが目の前に存在しているように、も存在しているのだ。

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