第21話 彼が容疑者になった日

 ベティ、マキナとハインミュラー邸を旅立ってから約半日。俺達は遂にエウルール邸に到着した。それは想像していたよりも小さく感じた。俺は勝手に”縦に長い”屋敷を想像していたが、実際は”横に広い”造形であったためそう感じたのだ。ベティを先頭にして、正面扉の前に立つ。ノックをする間も無く、壁にかけられた水晶から声が聞こえる。


「---入れ。」


続いて錠が開かれる音が聞こえる。噂によれば、エーベルハルト・エウルールは使用人も雇わないほどの人間嫌いとのことだ。先ほど聞こえてきた声も、本人のものだろう。



 屋敷に入ると、短い廊下の後にすぐに大きな広間にたどり着いた。中央には三つのソファが向かい合っており、その一つには既に先客が座っていた。


「ご、ごきげんよう。私はハインミュラー家の・・・」

「あぁ、私はレイ・アルメリアだ。よろしく。隣にいるのは貴公の用心棒達かな?」


ベティの外交初陣はあっけなく敗戦。道中何度も練習した自己紹介を中断されてしまったために彼女は不貞腐れているようであった。


「・・・はい。よろしくお願いします。御察しの通り彼は私の用心棒です。」

「シンだ。」

「あぁ、よろしく頼む。」


ベティ以外の奴と馴れ合うつもりはない。デューオに通じている可能性があるからだ。誰に対しても警戒せねばならない。その時、わずかに鞘が震えた。このわずかな振動によってマキナの存在を認識できる。



 しばらくしてヨハン、エド、カールが集まり、夕刻にはエーベルハルトを交えた談笑会が始まった。談笑会とは名ばかりでお互いに探り探りの窮屈なものであった。そしてベティは遂に一言も声を発さなかった。そして、食事も終えたところで、それぞれが部屋に戻っていく。俺とベティの部屋はさすがに別々であったが、用心のためにマキナを彼女の部屋に送り込んでおいた。



 翌日午前、目覚めた俺は広間に向かう。ベティは既に起床しており、広間にてエドとヨハンと会話をしていた。


「へぇ、お嬢ちゃんは炎系の魔具が得意なのね。」

「え、あ、はい。そうです。」

「ヨハン君。女性にあまりガツガツと質問をしてはいけないよ。」

「へいへい。紳士エドワード殿。」


俺としたことが下品な奴のベティへの接近を許してしまっていた。明日はベティよりも早く起きねばならない。彼らの方へ早歩きで近づいていると、鞘が引っ張られるのを感じる。そうだ、マキナも彼女を守っていてくれたのであった。俺が近くにいてあげられない時はマキナがベティを見てくれているのだ。ありがとうと小声で礼を言い、ベティの隣に着席する。


「おっと、用心棒殿の到着か。」


ヨハンが軽い口調で言う。俺は特に反応しない。ヨハンは小さく舌打ちをして、エドと会話を始める。


「そういえば、この前デューオの手先に絡まれたんだって?エド。」

「あぁ、そうだ。私が調合実験中の”ある魔具”について、共同で進めないかと持ちかけられたよ。」


デューオと言う言葉に反応してしまう。深く聞き出したいところだが、今はとりあえず二人の会話を聞いてみようと決めた。


「”ある魔具”ってのは、アレかい?不老不死だかなんだかってやつかい?」

「それには否定も肯定もしないでおこう。そういえば、興味深い話も聞いたなぁ。」

「”興味深い話”とはどんな話だ?」


俺は思わずエドに聞いてしまった。デューオに関する情報は少なすぎるため、気になってしまったのだ。エドは俺が急に割り込んできたことに驚き一瞬戸惑っていたが、すぐに返答をしてくれた。


「あ、あぁ、興味深い話というのは、デューオの手先はそのほとんどが”デューオを見たこともない”というものだ。それは共同で研究がしたいならボスを連れて来なさいと行った際の彼らの返答からわかったことだ。」

「奴の姿を見たことある奴なんていんのかねぇ。出会ったらそこで人生終了って感じの奴だろ?」


たしかにヨハンの言う通り、デューオの見た目に関する情報は異様に少ない。高身長の男という者や、獣のような姿をしていると言う者、様々である。そしてエドの話によると、その部下でさえ奴の姿を見たことがないと言う。いまいち有用な情報とは思えなかった。


「やぁ、お揃いのようだね。」


そう言いながら、レイが自室から出てきた。アルメリア家。虐殺を行った騎士の家系。彼女自身がその行為を行っていないとしても、警戒するに越したことはない。このメンバーの中でも、特に戦闘向きの魔具を取り扱えるからである。その後、カール、エウルールも登場し、全員で朝食を摂った。


 

 同日13時。レイの声かけもあり、全員でお茶会を実施することになった。昨晩よりかは打ち解けた雰囲気で、カールを中心にそれぞれの魔具について話した。


「そういえばシン君が身につけているソレは刀系の魔具かい?」


カールからそう問われる。俺は異世界人であり魔具が使えない。そのため帯刀しているコレは本物の刀であり、魔具ではない。しかし、それを悟られるわけには行かないので、適当に説明をする。


「あぁ、斬撃を飛ばせる魔具だ。」

「なるほど。用心棒らしい魔具だな。」


斬撃を飛ばすという着想はマキナのソレから得たものだ。


 しばらく会話を続けていくうちに、調合中の魔具の様子を見にいくと行ってエドが部屋に戻った。どうやら夕食用の調味料を生成しているらしく、あとで取りに来るようにとベティに告げていった。ベティはレイとともに調理担当をしていたため、ベティに調味料を取りに来るように告げたのだろう。


 そして時刻は15時を周り、事件が起きる。


「きゃあああああああああああああああ!!」

「人殺し!!!!!!!!!人殺し!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る