第24話 悲劇

 広間Bにて、レイと会話をする。


「---差し支えなければ君の居た世界について聞かせて欲しいのだが、いいかな?」

「わかりました。簡単にお話いたします。」

「あれは2022年7月30日、学校からの帰り道だったんですけど、あ、2022年っていうのは俺のいた世界での暦法です。」

「ふむふむ、その帰り道に転移をしてきたのかい?」


レイは興味津々に話を聞いてくれる。


「そうです。マキナが急に現れて、有無も言わさずに飛ばされたんです。」


隣に座っている俺を転移させた犯人はまるで話を聞いていないようであった。


「そうかそうか。ではマキナは良い仕事をしたのだな。この世界に君のような英雄を召喚したのだから。一方ではのような間違った者も召喚されてしまうようだからな、君は正義の心を貫き続けて欲しい。」


シンはベティーナを愛しすぎたあまり、二人も殺めてしまったのだ。彼には彼の正義があり、それを貫いたのであろう。あまり責める気にはなれない。むしろ同郷の転移者として、少し話をしたいとすら思っていた。


「俺、シンと話してこようと思います。」

「何?なら私も同行しよう。あのマキナもいるのだから、君一人では危険だ。」

「大丈夫だと思います。異世界特性オリジナルもありますし。」

「いやダメだ。」


こんなやりとりを数分繰り返し、なんとかレイは折れてくれた。


「わかった。何かあればすぐに呼ぶのだぞ?いや、何かありそうと感じればすぐに呼ぶのだ。」

「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます。」


俺は広間Bから広間Aにあるシンの部屋に移動する。レイは広間Aまで同行してきて、ソワソワしながらマキナと一緒にソファに腰掛けた。



 シンの部屋をノックし、返答を待たずに扉を開ける。縄で拘束されたシンと彼のマキナがこちらを驚いたように見る。


「やぁ。少し話がしたいんだけど良いかな?」


彼のマキナは警戒しているようであったが、対照的にシンは落ち着いていた。


「あぁ、ちょうど俺も話をしたかったところだ。」

「そっか。じゃあまずは俺から話して良いかな。」


俺はシンの出身や、異世界転移までの経緯を聞いた。あとは、趣味とか好きだった音楽とか・・・とにかく転移元の世界---日本の話をした。話によれば、シンは俺よりも三年早くこの世界に来て、ベティーナの屋敷で世話になっていたようだ。(世話になるまでの経緯はあまり詳しく教えてくれなかったが。)


「お前の話はそれで終わりか?」

「え、あぁ、うん。なんか久しぶりに普通の会話ができた気がするよ。って、シンは三年ぶりだからもっと久しぶりなのか。」


シンは少し微笑み、「そうだな。」と言った。


「次はそっちの番かな。シン。」


シンは数秒の間を空けてから話を始める。


「・・タクト、お前はマキナからどこまで”デューオ”について聞いている?」

「デューオ?この世界を支配しようとしていて、とにかく悪い奴ってところまでかな。」

「ざっくりだがその認識で間違いないだろう。そのデューオなんだが・・・」

シンが勢いよく話を進めようとした瞬間、聞き覚えのある悲鳴が広間Aの方から響いてくる。



「きゃぁああぁぁぁぁああぁ!!!!!」



「ベティ!おいタクト、縄を解け!!」

シンと彼のマキナは同時に立ち上がり、縄を解けと俺に身を差し出す。

「ダメだ、まずは俺が様子を見てくる!」


俺は急いで立ち上がり扉に向かう。広間にはマキナもレイもいる。またベティーナが錯乱し、暴れたとしても何とかできるはずだ。扉を開き、数歩進んだその時、後頭部に非常に強い鈍痛を感じる。俺はそのまま床に崩れ落ちていった。



 ベティの叫び声が聞こえ、タクトが飛び出して行ってから数十秒が経過した。


「くそ、何が起きているんだ。ベティ・・・、無事でいてくれ。」


縄を壁に擦り付け、何とか解こうとするが当然上手くは行かない。すると、ゆっくりと扉が開かれていき、悲鳴の主が姿を現す。


「シ・・ン・・。わた・・し・・・。」

ベティは弱々しい声でそう言い、すぐに倒れる。

「「ベティ!!」」


倒れた彼女のもとに俺とマキナは駆け寄る。彼女の左胸には刃物で貫かれた跡があり、血がトロトロとこぼれ落ちている。拘束されている俺は彼女の身体を支えることも、止血をすることもできない。ただただ、死に近づいてく彼女を見つめることしかできない。


 俺は涙を流していた。守ると決めた者に触れることも、そして守ることもできていない悔しさ。今までの三年間を思い返し、もう笑顔をみることもできないのかもしれないという切なさ。俺は涙をひたすらに堪えようとした。息が苦しくなるほどに。マキナは声をあげ、助けを呼んでいた。彼女は何度叫んでも助けが来ないと分かると、ベティの名を呼びクシャクシャになりながら涙を流す。ベティの小さく動いていた胸の動きが止まる。


「・・・ベティ。ごめんね。俺は異世界人であることを君を騙していたんだ。そして君のことを守れなかった。何もしてあげられなかった。何も成し遂げられなかった。」


 こんなことをする奴は一人しかいない。正体に気づいた時点で息の根を止めておくべきであった。慎重になりすぎていた自分に後悔をする。そして、扉の向こうからゆっくりと足音が聞こえてくる。一連の悲劇の黒幕の足音が。俺はと初めて対面した時に感じた違和感を思い出していた。


---私はxxxだ。よろしく。隣にいるのは貴公の用心棒達かな?


見えないはずのマキナを認識していた者。タクトを召喚した者。いくつもの命を奪った者。ベティの家族を、そしてベティの命を奪った者。


その足音は止まり、半開きになっている扉から余裕のある歩幅でその姿を現した。


「まったく。事あるごとに叫ぶのはやめて欲しいものだな。耳障りで仕方がない。そうは思わないかな?異世界からお越しの用心棒くん。」


「・・・ふざけるな。お前は一番手を出してはいけない者の命を奪ったんだ。この館から無事に出られると思うなよ。」


はわざとらしく肩をすくめる。



「支配者デューオ、いや、殺人鬼!」

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