第9話

 四階層~五階層へ降りるための階段付近で三人の死体を発見した。


 服装からして探索者だ。


 戦闘用の服装ではない。鎧や武器も持たずに大きなカバンに背負った状態で壁側にもたれる形で倒れている二人と段差に倒れるかのように一人を見つけた。


 グリッド化する寸前に毒を飲んだのだろう。彼らの身体は一部だけ変化した後が残されていた。それも<捕食型>へと変貌する直前だった。


「この人たちって…」

「探索者だ。まだグリッド化する直前で死んだようだ。」


 探索者たちの頭部にはぱっくりと大きく口を開くように開いていた。蕾が咲くように彼らの頭部もまた変わってしまっていた。

 手足は根っこのように伸び、地面や壁にかけて根を張っている。身体の変化はまだ浅い。


「……」


 ユクロが彼らの前で合唱した。

 三人がどのような経緯でグリッドに襲われたのかは大体は見当がつく。大方、階段で待機している<捕食型>の胞子を吸ってしまったのが原因だろう。


「カナタさん。行きましょう」


 ユクロが立ち上がり、進もうとした。

 カナタはユクロを止め、「別の道を行こう」と提案した。


『なぜ?』と聞き返す前に『この先は危険なんだ』と察し、言葉を摘まんだ。


 カナタはユクロに見つからない範囲で探索者たちの死体からあるものを拾っておく。それは、古代の遺物だった。探索者たちは古代の遺物を見つけ、帰るところを襲われた。


 その古代の遺物が何なのかをカナタは知っている様子でした。


 三階から来た道から反対の方へ進むともうひとつ降りる階段がある。

 各階層に二つか三つは階段があり、どちらからでも下の階へ降りることができる。地形や場所は異なるが、熟練の冒険者や探索者たちは己の経験から安全ルートを的確に選んでいる。カナタもその一人である。


 しばらく進むともう一方の階段があった。こちらは安全そうだ。

 グリッドの姿もない。


「見たところいなさそうだ。行こうか」


 階段を下りていくと、何やら自分たちが向かう先に夥しい気配を肌で感じた。それは憎悪とも恐怖ともとれる感覚です。

 足を止め、これ以上進むことを拒む。


「くっ……」

「カナタさん…」


 不穏な気配が漂ってくる。下の階から何やら上ってくる。

 これ以上ここで立ち止るのは命の危険性があると踏んだ。


「戻ろう……!!」


 引き返そうとしたところ降りてきた方から気配がする。それも数は一人や二人じゃない。数えきれない。


「そんなっ」

「挟まれたか」


 徘徊中のグリッドに見つからないようにしていたが、なにかの拍子で気づいてしまったようだ。降りても昇っても彼らから注意を引くことはできない。


「仕方がない」


 奥の手と言わんばかりに先ほど探索者たちから拝借した古代の遺物を取り出す。それは、カナタでしか知らない隠された秘宝のひとつであることはユクロはまだ知らなかった。

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千年の彼方 にぃつな @Mdrac_Crou

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