第8話

 四層目――グリッドたちが多く潜む危険地帯に指定されている階層。


 そこは古びた建物が密集している。かつては多くの人々が賑やかに暮らしていたとされている町がある。

 今では昔の面影は建物のみで中の構造は当に朽ちてしまっていた。


 グリッド以外の呼吸の音は聞こえない。

 ここは生きた者は住むことを許されていない底なし沼。


 一歩踏み入れこめば、見えない床に沈み、一生太陽の下に出ることができない。

 そんな場所を二人の探索者たちが足を踏み入れていた。


 空気が冷たい。

 灯りはなく、全体的に暗い。

 色がすっかりとはがれてしまった建造物がいくつも見える。けど、数メートル先は眼光の明るさでも見通すことはできない。


「ッ…ッ…ッ…」


 不気味なつぶやきがそこら中から聞こえてくる。

 耳たぶで音が聞こえないようにするも隙間からその声を拾ってしまう。


「奴ら(グリッド)だ」


 カナタはそっとつぶやいた。

 奴らは独自の周波数を出している。その音は機械音であれば笛の音であったりもする。人の会話だったりもする。奴らはそうやって、迷った人をつっているのだと。


「グリッド…アレが…!」


 真っ白く細い手足に白い肌を見せつける不気味な存在が歩いていた。亀ほどの速度でスローモーションのような動きだ。


 彼らには意思があるのかないのかはわからないが、このフロアから出ることはないらしい。


 昔の名残か懐かしむ心か、忘れられぬ思い出か彼らの魂をここに結び付けさせているのだろうか。グリッドに変貌してなお、この場所を忘れられずさ迷っているのだろう。


「不気味な奴らだろう。あれでも元は人間なんだって思えないだろ」

「…あれが……」


 元人間…。

 あの真っ白で不気味な怪物が元人間とは想像難い。二メートルほど伸び切った手足は人間とは相反する姿形をしている。顔も真っ白なお面をかぶっているみたいで、表情がない。


 しばらく様子を見ていたが突如近くまで来ていたグリッドがこちらに向かって振り向いた。


「……!」


 顔は黒い目と鼻、口を除いた部分はすべて白一点。それ以外の特徴としての色を持たない。


 アレが元人間。そんなバカなことはない。ユクロは思った。あれが元人間だとするのなら、彼らは一体どうしてあのような姿に変わってしまったのか。人間がなぜあのような醜い姿に変えられてしまったのかと疑問と恐怖を募らせた。


「ユクロ、俺の後ろを歩いてこい。俺が先陣切る」


 このときのカナタは不思議とカッコイイと感じた。

 カナタの服を掴み、離れないようにグリッドが移動するなか、道の真ん中を突破した。

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