第5話
「なんという酷いことだ」
「おおくわばらくわばら」
「見るんじゃない。うつるぞ」
なにかを囲うように人々が立ちすくんでいる。
彼らが見ているものは一体何なのか。数メートルほど離れた建物の壁にもたれながらカナタたちは見物していた。
「あの…見に行かないのですか?」
ユクロが尋ねる。
「…興味がない」
淡々とした物言いだった。
興味がないと言いつつも現場まで見に来るのは少しながら興味はあったとうかがえる。けど、ユクロは聞こうかどうか躊躇していた。
「……」
「……」
周りがざわつく中、二人の間の空気がざわつく。
ピリピリと静電気が走るような感じだ。
カナタは目を瞑ってはいるが、動こうとはしない。それはなぜなのか。聞けばわかることだが、聞く勇気がもてなかった。
ユクロはまだカナタとは距離がある。
ナユタみたいに間近で話し合えるほど好感が持てるほど仲が深まってはいなかった。カナタとナユタはどこか似ているが、性格は正反対。
ユクロは言葉を喉に詰まらせていた。
「あの…」
重い空気に耐え切れず、ユクロは思い切って声をかけた。
カナタは相変わらず生返事をした。
「ん」
「”ん”って…」
ナユタはとは違う。人に興味を持てるような人じゃない。
けど、言わなくてはいけない。そんな気持ちがどこかから押し寄せてくる。
”私が代わりにやらなければならない”と、誰かに後押しされるような感覚が押し寄せてきた。
「カナタさん!」
「どうした?」
「カナタさん! 私――!!」
ドンっと爆発をするかのような音が背中から押された。空気の塊が背中から押されるかのようにふわっと空を浮く。
それと同時にカナタが動いた。
ユクロをお姫様抱っこするなり、その場から離れようとしていた。
「!? カナタさん」
「ごめん。気が緩んでいた」
カナタはさっさとその場から立ち去ようとした。
背後からうめき声が聞こえてくる。先ほど囲んでいた人たちだろうか。顔は見えないが「痛い」や「苦しい」、「助けて」と声が何度も聞こえてくる。
助けなくてはいいのかと声をかけようとしたとき、カナタの表情が一変していた。まるで小鳥の前にヘビがいまにも食おうとした瞬間の場面のようだ。
カナタはあの場で何が起きたのか知っているような表情だったのは見て分かった。
抱きかかえるまま、カナタに身を任せてただ、町を出るまではずっと黙っていた。
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