第45話 訓練 13 圃場9
「いいか、危機を認識して、そして、危機の源に銃を向ける。
この時に上半身をやや前傾にする、気持ちやや前傾だ。
その状態で、ゆっくりと、銃を眼の高さまで持ち上げろ。
指は用心金に沿わせたままだ。
そして、肘を軽く曲げろ。
発砲の衝撃を両腕で吸収する為だ。
奥に的があるだろ。
あれを狙ってみろ。
標的、照星、照門、そして、自分の眼が直線に並ぶように構える。
やってみろ」
右足を半歩出して、膝を軽く曲げて、ゆっくりと銃を僕は持ち上げた。
奥に薄汚れている的があった。
穴がいくつも開いていた。
その的の真ん中に照門、照星がくる。
「もう少し、顎を引け」
おうーっと、僕は言われるままに顎を引いた。
「よし、撃鉄をゆっくりと上げろ」
僕は撃鉄を上げようとした。
えっ。
ダメだった。
安全装置が掛かったまんま。
中尉が笑って見ていた。
「よし、安全装置を外せ」
安全装置を外して、もう一度。
肘はやや曲げる、姿勢は気持ち前傾、的の真ん中と照星、照門が重なる。
うん?
【撃鉄を上げろ】の声が来ない。
なんで?
そのまま疑問に思い、中尉を見た。
とたんに罵声が飛んでくる。
「あほう。
よそ見するな。
的は危機の源だ。
それを排除するための発砲だぞ。
その的から目を離してどうする。
死ぬぞ。
やりなおせ」
なんだかなぁ。
まあ、いいや。
僕はもう一度、右足を半歩出し膝を軽く曲げて、ゆっくりと銃を持ち上げた。
姿勢はやや前傾、肘も少しだけ曲げている。的の真ん中と照星、照門が重なる。
「どうだ、いけるか」
もちろん、僕は視線を的に保ったまま「はい」と答えた。
「撃鉄を上げろ」
ゆっくりと撃鉄を上げる。
カチリという音、撃鉄が最上位点で固定される。
「まだだぞ。
まだだ。
ゆっくりと引き金に指をかけろ」
ゆっくりと引き金に指をかけた。
「・・・ 撃て ・・・」
あっけなく撃ての声。
カシャッ
なんだかつまらない音が僕の耳に届く。
撃鉄が落ちる音だった。
弾が入っていないから、撃鉄が落ちる機械的な音しかしない。
当たり前と言ったら、そうなんだけど、やっぱりつまらない。
「今の感じだ。
わかったか。
ゆっくりと5回やってみろ」
5回か。
僕はゆっくりと同じ動作を繰り返した。
5回、撃鉄が落ちる音。
何となくだけど、拳銃なるモノが手になじむ気がする。
その音と供に、僕のアタマの中には、的の中に弾丸が吸込まれる印象がありありと浮かびあがってくる。
「1回と5回、つまり6発だ。
それで玉切れになる。
いいか、自分が撃った回数を把握しろよ。
ふむ、いけるか。
じゃ、次は訓練弾だな」
中尉はそう言うと伍長さんに目配せする。
伍長さんが手に白い紙を持って僕の隣りの訓練の列?へと入る。
そのままスルスルと列の真ん中あたりまで、手にしていた紙を列を示すなんと言うのだろうか、天井から吊られている棒にひょいと引っ掛ける。
白い紙は的だった。
白地に黒い線で人の上半身が描かれていた。
あれを撃つのか。
まあ、的だからな。
ふと、疑問が僕の心に涌いてくる。
僕は ・・・・ 僕は、ヒトを撃てるのか。
生身の人を僕は撃てる ・・・・ のか。
どうなんだ?
あの、もう一人の僕が、 ・・・・ 僕に問いただしてくる。
どうなんだ。
どうって ・・・・ 正直、わからない。
僕は中尉を見た。
中尉の表情が「うん どうした?」という表情になる。
「 あの ・・・ あの ・・・・
僕はヒトを撃てるでしょうか」
心の中に涌きだした疑問がそのまま言葉になって流れ出てしまう。
中尉の表情は複雑なモノだった。
そして、ぽつりとつぶやくように僕に答えてくれる。
「 そこか 」
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