第43話 訓練  11 圃場7

中尉はもう一つ、拳銃を取り出して僕に指し示しながら説明が始まっていく。

中尉の説明はワクワクするものだった。

拳銃なんて、一般人は触る事なんかない。

やっぱり僕は軍にいる。

それを感じるものだった。



「まずは最初に扱うのは回転式の拳銃からだ。

 いいか、これが回転式拳銃だ。

 一般の警官が扱う3式拳銃になる。

 今は4式拳銃になっているが、ひと昔まではこれが使われていた。


 弾倉が回転式になっている。

 弾は6発入る。

 これが安全装置だ。

 こいつを安全と書かれている所に入れると撃鉄が固定される。

 つまり撃てない。

 銃によって、安全装置の仕組みは異なるからな。

 撃鉄を固定する物、引き金を固定する物、銃弾の移動を阻止する物。

 色々と仕組みが違う。

 すべて暴発を防ぐためにある。

 この辺は銃を色々触るとおいおい判る。

 とりあえずはその程度でいい。

 とにかく、安全装置が掛けられているのが普通としっかりと理解してくれ。

 この弾倉固定ピンを引くと弾倉が横に振り出てくる。

 弾倉の根元にギザギザがあるだろう。

 これが弾倉を回転させる歯車だから、異物の付着とか、欠けとか、

 常に確認しろ。

 拳銃には単動と複動とある

 単動とは、引き金の動き、撃鉄の動き、それぞれが単一の動きになる。

 単動があるから、複動がある。

 複動は引き金を引く事で撃鉄も動く。

 引き金と撃鉄と複合で動くから、複動と呼称されている。

 こいつは単動だ、撃鉄と引き金と別々に動く。

 連動はしないからな。

 銃把の中に発條があり、常に撃鉄を引っ張っている。

 いいか、よく見てくれ。

 撃鉄を上げる。

 この時に同時に回転弾倉が回り、銃弾が所定の位置にくる。

 撃鉄が引き上げられて最上位点にくると、内部の作用金で固定される。

 引き金を引くと作用金の固定が外れる。

 撃鉄は発條で常に引っ張られているから、瞬時に落ちる。

 つまり、撃鉄が銃弾の底を叩く。

 発火して弾丸が発射される。

 

  判るよな、動作の仕組みが。

 単純な仕掛けと言えば、単純だ。そんな仕掛けで成り立っている。

 この形式の後詰め型の拳銃は120年前に開発されている。

 もっとも、先込め式の拳銃は200年も前からある。

 まあ、簡素な構造だから壊れにくい。

 普通に扱えば、まず壊れない。

 銃身の損耗で交換なんてモノはめったに無い。

 訓練で6000発も8000発も撃てば、狙っても当たらなくなる。

 そんな時は交換になる。まあ、廃棄だな。


 100年前に開発された物だから一番簡単な仕組みになっている。

 現行の回転式拳銃はもう少し複雑な仕組みになっている。

 撃鉄が直接に銃弾の底を叩かない。

 今の物は撃針という部品があり、それを介して銃弾の底を叩くようになっている。

 要するに引き金を引く動作に対して、拳銃の中では一つの動きしかしていない。

 だから単動回転式拳銃と言われる。

 複動は引き金を引くことで撃鉄も上がる。

 引き金が完全に引ききったら、撃鉄が落ちて銃弾の底を叩く。

 つまり発砲だ。

 引き金を引く動作ひとつで、撃鉄を起こして落とすまで動作するから、

 複動拳銃として分類される。

 欠点としては引き金が重くなる。撃鉄を上げるからな。

 初期の拳銃はすべて単動だ。撃鉄を上げてから、引き金を引く。

 撃鉄を上げる動作と引き金を引く動作から成り立って発砲できる。

 まあ、面倒だな。

 どっちが先でも構わない。

 引き金を引きっぱなしになると、中の撃鉄と引き金をつなぐ動作金が自由になる。

 それに応じて撃鉄の動きを自由になる。

 だから、撃鉄を上げると固定されずに、そのまま落ちる。

 つまり撃鉄の操作だけで発砲はできる。

 引き金を引きっぱなしで、撃鉄を上げて放す。

 これで発砲できる

 連続で撃つ時は、引き金を引きっぱなしで、

 撃鉄を6回上げてやれば全弾撃ち尽くしになる。

 利点は引き金は軽く動作する。

 複動は引き金を引くだけで撃てる。

 単純に引き金を引くだけで、発砲できるようにしたのが複動回転式拳銃になる。


 いいか。

 拳銃を受け取ったら、安全装置を確認しろ

 次に弾倉を確認して弾の有無だ

 弾が有るなら、一度だせ。

 ものによっては弾倉そのものを引き出せ。

 そして銃身に異物が無いか、確認しろ

 これは中に異物が無いのを確認する為には絶対に弾を外せ。

 万が一自分の顔を撃つ事になるぞ

 死ぬぞ。

 弾が無いのを確認して、銃身の中を確認しろ。

 一番怖いのは、砂だ。

 砂などの異物があると、発砲事故になる。

 いいか、銃身の中に異物があると弾は出ない。

 燃焼ガスの逃げ道が無いから、燃焼ガスの圧力は銃身そのものか、

 撃鉄に掛かる。つまり、銃身が割れたり、撃鉄が破損する。

 銃身が割れて飛び散るとお前さんの周りにいる者が破片に当たり怪我をする。

 撃鉄が破損すると、たいがいそのまま後方へ飛び散る。

 つまり、お前さんの顔の方へ破片が飛んでくる。

 間違いなく怪我をする。

 普通に破片が目に当たり、最悪の場合失明する

 

 わかるよな。

 俺が何を言っているか。

 

 まあ、正直言うと回転式拳銃の場合は隙間がある。

 回転弾倉の隙間から圧は逃げる。

 ただ状況による。

 中の部品が金属疲労を起こしていると確実に壊れる。

 自動拳銃なんかだと、圧が逃げるような隙間は無い。

 だから確実に破損する。


 狎れが一番怖い。

 常に危険物を扱っている意識を持ってくれ。

 どんな武器でもこれは共通だ。

 危ない物を取り扱っていると意識づけしてくれ。


 これから訓練で何回も使用すると煤が溜まる。

 溜まると銃内部の動きが悪くなる。

 きれいに清掃して専用の機械油を塗っておく。

 この辺は基本中の基本になる。

 おいおいと整備の仕方も教えるからな。


 今渡した拳銃の弾の有無を確認しろ」


僕は今見た中尉の操作の仕方をそのままマネをした。

拳銃の安全装置を外し、弾倉を振り出すピンを引く。

回転弾倉を振り出す。

弾は入っていない。

銃身を覗くと螺旋が切られているのが判る。

鈍い暗鉄色の銃身がまるで覗くなよと言っている気がした。


「報告しろ」

「はい、受領した拳銃に弾は入っていません。

 銃身にも異物は見当たりません」

「よし、これを見てくれ。

 ここの凹の部分が照門と呼ばれている。

 そして、銃身の先のとんがり、これだ。

 これが照星と呼ばれる部分になる。

 このふたつで照準を定める。

 的・照星・照門・眼が一直線になる様にする。

 これが基本中の基本だ。

 そこから奥の的に狙いをつけてみろ。

 引き金に指はかけるなよ。

 たとえ、弾が入っていなくてもだ。

 引き金を護る部分、そこを用心金と言う。

 そこに指を沿わす形にするのが基本だ。

 照門の凹みに照星が来て、その直線上に的がくる。

 わかるな」

 

僕は中尉の説明に頷いた。

片手で銃を持ち上げて、照門と照星と的、なるほどね。

でも、普通にぶれる。

こんなんで的に当たるのかな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る