第38話 訓練 6 圃場2
喇叭が鳴っている
声がする ・・・・
「起きろ!」
目が覚めた。
「早く着替えろ!
1分だ!
1分でやれ!!!」
中尉が怒鳴っている。
僕は慌てて作業服を身に付けた。
「おそい おそい おそい。
気合いを入れろ。
起床喇叭ですぐ着替えだ。
もたもたするな!!! 」
怒声が返ってくる。
「気を付け!!!」
「お前なぁ、もちっと服をシャンしろ。
まあ、最初から無理だろうけどな。
ただし、やる努力は全開でいけ!
おまえさんは将来、特務士官になるんだろう。
だったら、手を抜くな。
下位の者たちは、上の者の動きをちゃんと視ている。
へたくそでもいい、うまくいかなくてもいい。
少なくとも必死でやれ。
そうすれば、少なくとも身体は早く動く。
それがあるだけで一目置かれるぞ。
わかるな」
「はい ・・・・ 」
あぁ ・・・・・・
今日は休みだったよな ・・・・・
中尉にどやされての起床だった。
伍長さんらはきちっと作業服を着替えて余裕で僕を見ている。
「よし、洗面と朝飯だ。
かかれ」
すぐに洗面所へと走る。
そう。
中尉にどやされてから自然と小走りになっていた。
シャコシャコと爆速で歯を磨く。チャチャと顔を洗って、昨日の食堂へ。
伍長さんらがそんな僕を見てニッと笑っている。
軍医さんが朝食を取っていた。
「おはようございます!」
「 ああ、おはよう。
みんなそろっているね。
ちょっとわるいけどね。
本来なら、本日はみんな休みなんだがね。
朝食を取った後に時間を割いてほしい。
これからの訓練の話とちょっとした心理テストをしたい。
たぶん30分から50分 ・・・ ぐらいかな。
かまわないかな」
そう言って、みんなの表情を見て回り確認していく。
その軍医さんの問いに、特に反発なんかなかった。
僕はそのまま頷いて同意する。
みんなも僕と同じみたい、同意していく。
「 みんな、いいね。
じや、取敢えず朝食を済ませてくれ」
食堂のカウンターに雑穀パン、ベーコン、野菜サラダ三種、卵焼き、チーズ、ヨーグルト、果物の切り身のミックス。それぞれが四角い大皿に乗せられている。
それらを入れる取り皿が用意されていた。
飲み物は牛乳にお茶、そしてミックスジュースもある。
お代わり自由との事。
何でも好きなだけ食ってもよいと言われてもなぁ。
朝からそんなに食えないよ。
伍長さんらは取り皿いっぱいに取り、モリモリと食っている。
あの量は2人前から3人前の量、しかもミックスジュースの一気飲みからおかわりしている。
豪快に食っている伍長さんらを見ながら、僕は取り皿にベーコンと卵焼き、チーズと雑穀パンそしてサラダを取った。飲み物はやっぱり牛乳だね。
ベーコンとチーズを雑穀パンに挟んで食べる。
ベーコンの香りが食欲をそそる。
ひとくち噛むとベーコンの油が口に広がり、普通に旨い。
朝食だけど、学生の頃ならばね、僕の夕食だね。
伍長さんらのガンガン食っている様子を見るとなんだかつられて僕も食ってしまう。
ベーコンと卵焼きのおかわり。
朝から贅沢をしている感覚。
ふと、403駐屯地へ行く朝の事を思い出す。
あの日は食パンに牛乳だけだった。ゲストハウスの朝食も豪華でイイものだし、全般的に軍の飯って、けっこういいモノを食わしてくれる。
食事に関してはまだ学生の頃の感覚が抜けないな。
そんなことを考えながら朝食を2人前ほど食っている僕だった。
* * * * * *
軍医さんが僕たちの表情をひとりひとり見ていく。
そして、とつとつと説明が始まっていく。
「 あらためて自己紹介します。
圃場担当をしているミュラー少尉です。
軍医ですが、軍務経験はありません。
彼と同じ特別招集で軍医を拝命しています。
元々精神科医です。
最初から言っときます。軍医ですが、軍階級は意識しなくても結構です。
少尉といっても、士官としての正式な軍教育を受けていません。
待遇的に少尉の階級をいただいているだけです。
特別招集ですので、その兼ね合いでそうなっているだけにすぎません。
普通の医者として対等にお願いします。
みなさん、知っている通り、ここは兵士、特に憲兵に対して訓練をする処です。
事前の説明通り、ちょっと変わった訓練です。
私の指示通りに、行動し、体験し、結果の報告をお願いします。
私が、それぞれ経過の観察、結果を考慮して、訓練内容が変わります。
ですから、訓練内容については余分な先入観を持たれては訓練しにくいです。
もっと正確に言うと、余分な先入観があると結果が出ません。
いちばん困るのは、偏った先入観を持って行動するのが、いちばん困ります。
それは訓練そのものを阻害します。
そしてそれは訓練期間が長くなる事を意味します。
訓練期間は通常であれば、短くて3ヶ月です。
あまり長くなるような場合は ・・・・
そうですね、12ヶ月かけても、結果が見えない時は ・・・・
適性無しとなり、訓練中止となります。
1年という時間の無駄、その期間の経費の無駄、効率を求める軍隊では、
当たり前ですが致命的です。
当然、不名誉原隊復帰となります。
そして資格訓練未達と軍歴簿に記載となり永久に残ります。
ちょっと不名誉な記載となります。
まあ、みなさんは予備検査では適性ありとなっていますので、
私は心配していません。
そして、明日から本格的に訓練が始まります。
中尉が監督官となり、訓練実施の教官です。
基本的に最初は ・・・
最初と言いましたが、最後まで体力錬成が基底訓練です。
それに色々と訓練が加わります。
今述べたことが、明日からの訓練の紹介です。
以上、肝に銘じてください。
訓練内容に関しての質問は受け付けません。
そして、明日からの訓練に対して資料となる心理分析検査です。
今からこれの回答を御願いします」
【 質問は受け付けません 】ってか。
ここでも全体像を見せてもらえない。
釈然としないけど、それが方針ならどうしようもない。
ただ命令としてやるだけか。
まあ、兵隊さんはそんなもんだよな。
軍の中枢にいるなら全体を視てそれなりの判断するのだろうけど、
単に一介の兵士だもんな、僕は。
一介の兵士だから、訓練して、準備して、待機する。
仕方ない。
でも、仮に僕が1年かけて訓練しても、ダメとなった場合は ・・・・・
原隊復帰って、僕に原隊ってあるのだろうか。
質問不可だから、やるしかない。
1年になるか、最短の3ヶ月になるか。
言われた通りにやればいいや。
それで適性が無いなら、もっと上の人が僕をどうするか判断するよ。
それに従えばいい。
どうって事ないや。
戦車や飛行機に乗る適性と同じだね。
乗れと言われたら乗るだけ。
そう、思ったら楽だわ。
うん。
言われた通りに心理分析の用紙を回答しよう。
質問用紙がドンと置かれていく。
そう、ドンとか、ドサッとか、表現される物量だった。
403駐屯地で受けたあの検査、それの3倍も用紙の量があった。
あの時も、これは精密検査なんだなと思うぐらいの質問量だったけど、
その量の多さに閉口する。
表紙をめくって質問内容をざっと見てみる。
403駐屯地の時とは、質問の内容は全く違っている。
たぶん、僕はどんな心理傾向を持っているか、この検査でまるハダカ。
とにかく僕はそれをこなしていった。
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