第37話 訓練  5 圃場

おい おきろ


声がする。


「 起きろ、 目を覚ませ 」


あっ、そうか。

思い出した。

ここは圃場か。


あの軍医さんが僕を見ていた。


「そのまま、じっとして、動かないで。

 どうだい。

 なにか身体に変調はあるかい。

 頭痛とか、眩暈とか、悪心とか、あれば言ってごらん 」


「いえ、特になにも無いです」

「よろしい、では、頭はそのまま、動かさないで。

 目だけでこの指を追いかけてごらん」


軍医さんはそう言うと僕の顔の前に人差し指を持ってくる。

それが右へ、目で追いかける。

次は左へ、同じく目だけで追いかける。

聴診器が当てられる。

「はい、大きく息を吸って ・・・・・

 はい、吐いて ・・・・・

 いいね」

腕に血圧計の腕帯が巻かれる。

シュコシュコと空気が入れられて血圧測定。

「はい、異状ないね。

 気分はどうだい」

「はい、何ともないです。

 ここは圃場なんですか」

「そうだよ。

 ようこそ、圃場へ。

 ゆっくりと起き上がりなさい。

 ゆっくりとね、そしてベッドから降りたまえ。

 まだ、麻酔から覚めたばかりだからふらつくかもしれない。

 いいかい、ゆっくと降りたまえ」

違和感がする。

おむつだ。

濡れている。

「よし、ベッドの端を持ってごらん。

 そして、片足で立ってごらん」

言われるままに片足立ち。

「手を放してごらん」

言われるままに手を放す。

「それでひょいと飛び上がれるかい」

難なく片足で飛び上がれる。

平衡感覚の確認か。

大丈夫何ともない。

「大丈夫だね。

 よろしい、これを飲みたまえ」

大ぶりのカップだった。

いいにおい。

一口飲む。

チキンスープだった。

ちよっと塩が強いかも、でも旨い。

「飲み干したまえ」

カップを空にする。

「よろしい、次はシヤワーだ。

 注意すべきことを説明する。

 実はあれから26時間の時間が経過している。

 水分補給の経口補水液を君は今飲んだ。

 チキンスープ味はいけるだろ。

 でもすぐに水分は身体に巡らない。

 その状態で熱いシヤワーを掛かると貧血を起こすことがある。

 その予防として、シャワー室にまずベタっと座りたまえ。

 そうして、足元からぬるいお湯を掛けていき、身体を慣らしたまえ。

 最初はぬるく、徐々に熱くとね。

 万が一、気分が悪くなったら赤のボタンがある。

 それを押したまえ。

 まあ、貧血なんか起こさないと思う。だが万が一という事もある。

 

  ふらついて前のめりで倒れたら、前歯なんか簡単に折れる。

 わかるよな。

 だから指示通りにシヤワーを浴びたまえ。


  それと脱衣室に糞袋がある。

 それにおむつを入れて、廃棄物缶がすぐ横にある。それに入れてくれ。

 脱衣室にタオルと着替えが置いてある。自分のサイズに合ったモノを使いたまえ。

 シヤワーが終わったら食事だ。

 いいかい、麻酔覚醒は君が最後になっている。

 警護隊が腹をすかして、君の登場を待っている。

 さあ、早くシヤワーを浴びたまえ」


君の登場を待っている ・・・・ その言葉にちよっと動揺する。


みんな、僕を待ってくれているのか。

早くしなくちゃ。

僕は言われた通りに、シャワー室でぺたんと座りながらシヤワーを浴びた。

生ぬるいお湯から熱いお湯へ。

ここちいいや。

石鹸がある。それで手早く身体と頭を洗う。

熱いシヤワーはスカッとする。

よし。

シヤワー室を出て、手早く新しい服を身に付ける。

用意されていたのは体操服?

ああ、そうか。

「 各軍共通 休養服 」と表示されている。

早い話、体操服と同じようなモノだった。

その恰好で食堂へと軍医さんに案内される。

その部屋に入ると明るかった。天井全体なんか照明器具になっていた。

その天井から発光されている食堂だった。

15人ぐらいでいっぱいになると思う。そこに警護の皆さんプラス軍医さんと5人。

テーブルにごちそうが用意されている。ヤマドリの丸焼きに子豚の丸焼きまである。うへっ、あれはコバンザメ ・・・・

それが姿蒸し煮で出されていた。

コバンザメなんか ・・・・ 食ったことは無い、旨いのかな。

ほかにはチーズの盛り合わせにフルーツの盛り合わせ、サラダも4種類もある。


いいにおい・・・・ 旨そう ・・・・


いつの間にか口の中に唾液、おもわず、ごくんとのむ。


どうやら軍医さんも同席してくれる。

大麦酒エールが冷やされて用意されていた。


「 おっ、来たか。

 そこに座れ。

 少佐の指示だ。

 ここで祝いの席を設けよとね。

 ちゃんと気を利かしてくれている。

 

 そしてな。

 明日、たった1日だがな。

 休みだ。

 もっとも、圃場から出られないがなる。

 なんにしても、圃場で酒を飲めるのは君ぐらいだ。

 飲んで、食おうぜ。

 乾杯から行こうか 」


みんなが笑顔で僕を待ってくれていた。

どうやら、僕は特別扱いされているようだ。

伍長さんがグラスを取れと身振り。

大麦酒エールを注いでくれる。


一通りみんなに大麦酒エールが行き渡る。

「じゃ、乾杯といくか。

 ミュラー少尉、挙杯の先導を 」

「では、ご指名なので、

 みなさん。

 よろしいか 」


軍医さんはそこで一息、つないで、僕たちの顔を見て回る。

柔らかいにこやかな表情でグラスを掲げる。


  「 帝国と ! 」


 「「 我等の為に ! 」」


「「「 乾杯 !!!  」」」


冷えた大麦酒エールがごくごくと咽喉のどを下る。


あー ・・・・


うまいや。

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