第35話 訓練 3 予兆
その日のベルハン銀行マハン市支店は、朝7時の通常通りの業務を行っていた。
朝礼で支店長から各部に対する連絡事項の伝達があり、それぞれ担当は伝達された内容を注意深くメモを取り、業務にその注意事項を反映するべく確認していく。
それでその日の朝礼は終わりだった。
いつもと同じ朝礼、通常通りにその日も朝礼後に開店準備が開始されていく。
9時開店に向けて、それぞれが開店準備として業務を開始していく。
支店長と営業部長が、いつものように地下室へと向かう。地下にある金庫を開けて、本日必要となる現金を用意していく。
支店長と営業部長、その二人同時での開錠操作でしか地下の金庫は開かないようになっていた。
二人それぞれ管理している鍵と、それぞれしか知らないダイヤル鍵の番号、それが合わなければ金庫は開かない。
いつものように開錠操作をして、責任者として金庫の扉を開いていく。
本日入用となる現金を互いに確認し、用意していた台車に乗せ換えていく。
本日は台車一台分の現金、札束と硬貨の袋。それなりに重い。
互いにその金額を確認、間違いない。
検査確認表に署名、地下金庫から出る。
金庫の扉を閉めていく。
さらに頑丈な鉄の格子戸を閉鎖して一連の閉錠処置を行っていく。
特別な事がない限り、マハン市支店開店中には地下金庫を開くことは無い。
閉店業務後にもう一度開き、店舗内の現金全て収納するだけだ。
いつものルーチンワークだった。
所定の位置に、所定の金額の札束と硬貨が準備されていく。
本日の融資の相談は二組。開店と共に一組の予約が入っていた。
営業部長は融資に関しては心配していなかった。ただ経営者がかなりの高齢。
長年の勘で、その点が気になっていた。
今は元気だが万が一の場合、後継者の資質がいろいろ問題が出るかもしれない。
まあ、ご本人に生命保険があれば、先取特権があろうとも何とかなるだろう。
あとは実際に会って、工場拡張の経営計画をしっかりと確認するだけだ。
生命保険の件もその時に確認すればいい。
ポーン ポーン ポーン ・・・・・
店舗の壁に備え付けられていた時計が9回、鐘を鳴らしていく。
開店の9時になった。
いつものように開店、朝一番のお客を迎え入れていく為ドアのロックを外していく。
一番のお客は馴染みのお客、本日の予約客、融資の相談だった。
「おはようございます」
笑顔を持って挨拶していく。
「どうぞ、こちらへ」
顧客と融資の相談をする室へと案内していく。
「おはようございます」
行員たちが挨拶の声をかけていく。
その予約客はやや緊張した面持ちで案内されるままに部屋の中へと入っていく。
その時だった。
4人の男がまとまって銀行へ入ってくる。
覆面をしていた。
肩から見たことのない銃をぶら下げて。
えっ ・・・・
まさか ・・・・
そんな馬鹿な ・・・・
窓口業務の行員は、咄嗟に机の下にある非常通報装置の動作ボタンを押した。
冗談じゃない やめろ ・・・・
そんな事を頭に思いながらも、訓練通りにただちに非常通報装置を動作させていた。
一か月に一回、万が一の為の訓練を実施していたが、その効果が出ていた。
-- いいですか --
-- 万が一の時にはその通報ボタンを押しなさい --
-- 間違って押しても構いません --
-- 間違いは訂正できます --
-- でもね --
-- 本当に襲われた時には、通報しかありません --
-- 関係当局が対処してくれて助けてくれます --
訓練時の訓話が脳裏をかすめていく。
躊躇なく身体が反応していた。
「動くな !!!!!
手をあげろ !!!!! 」
図太いだみ声が、銀行の中の空気を一瞬にして冷えさせていき、そして、その場にいた銀行員が固まっていく。
「おらあ、手をあげろ!!!!」
恐怖で固まる銀行員たちが、ゆっくりと手を挙げていく。
その覆面の男たちは手にしている武器をわざと見せつける様に構えている。
構えている武器は自動小銃らしきもの。
ベルハン銀行マハン市支店の長い長い一日の始まりだった。
* * * * * *
発報! 赤!! 発報! 赤!! 発報! 赤!!
ベルハン銀行マハン市支店にて発報!!!
ベルハン銀行マハン市支店にて発報!!!
ベルハン銀行マハン市支店にて発報!!!
近辺の警邏班は急行せよ!
近辺の警邏班は急行せよ!
マハン市警察本部管制部は遽しく動いていた。25年ぶりの非常通報、しかも10か月前に導入された新型非常通報装置からその警報は出されていた。
ベルハン銀行マハン市支店から発報された信号は、強盗侵入を意味する緊急通報だった。
誰かが、銀行員の誰かが、非常通報ボタンを押した事を意味していた。
報告を聞いた本部長はすぐに対策本部を立ち上げて、関係部門へと第一報を連絡するべく指示していく。警察本部所轄全体に事件発生を知らせて、警戒線を引くべく準備に入る。
引き続き周辺地域を警邏している
立ち上げられた対処本部にはベルハン銀行マハン市支店周辺地図が即座に用意されて、事前に用意されていた対処計画の方針によって人員の呼集がなされていく。
まずは事件発生の状況確認が必要だった。
ベルハン銀行マハン市支店に導入されていた新型非常通報装置には、非常時における銀行内の動きを伝える収音装置が付加されていた。銀行内の会話やその他の物音をひらって、そのまま通報先である警察本部で聴音聴取できる仕掛けとなっていた。
対処要員がその音を録音かつ聴取して分析していく。
犯人は何名か、状況はどうなっているか、通報装置がもたらしてくる音情報から分析された内容を対策に寄与すべく本部内で共有されていった。
聴音していた分析要員の表情が一瞬にして変わる。
連続の発砲音。
分析担当であるからにして、発砲音からどんな銃器が用いられたかは判別できる。
現行流通している拳銃や軍で装備している機関銃等およそ七十種類全て
だが、判別不能だった。
独特の甲高い発射連続音。
いままで聞いた事も無い発砲音だった。
一緒に聴取している同僚を見る。
その視線を受けて、同僚は首を左右に振る。
解からない、分析要員たる同僚も解らない新規の武器、その発砲音だった。
ただその連続音は重機関銃よりも早い、よってそれは短機関銃・軽機関銃・自動小銃の類特有のモノになる。
直観で自動小銃か、自動拳銃の類のモノが使用されていると判断される事になる。
「軽機関銃か、自動小銃らしき連続発砲音。
銃器種別判別不能、おそらく大幅な改造されている自動小銃らしき物です。
改造されているなら、威力倍増されている思われます。
我々の通常装備並びに体制では対処は難しいと思われます。
現時点を持って、
本部長、ご決断を」
警察のメンツにこだわっていたら、現場の
自分よりはるかに経験を重ねた部下の意見具申だった。
その意見具申は直ちに採用されることになる。
本部長は
* * * * * *
いつものようにゆっくりと
近辺の警邏班は急行せよ
近辺の警邏班は急行せよ
マサン巡査はそれを聞いた途端、身体が震えはじめる。
緊急時のいつもの癖だった。
怖いという感情は無かった。
ただ、
銀行強盗か
警官になって15年になるが
初めてだな
3年前の押込み強盗なんかとは、一味も二味も違うだろうな
銀行そのものか
簡単に解決なんかできないだろうな
そんな事を想いながら、助手席乗っている新人警官である同僚に声を掛ける。
「相棒、いくぜ。
すぐ近くだ。
こりゃ凄い事になるぞ」
今年はいったばかり新人警官マース巡査は緊張していた。
事件での緊張ではなかった。
乗車した時点ですでに緊張状態だった。
ごく普通の一般警邏業務、だが、まだ4回目だった。
そんな乗車勤務でベテランのマサン巡査にあーだこーだと指導を受けながらの警邏業務、訓練を兼ての仕事になっていた。
つまり、彼は始めから緊張していた。
訓練は重ねてきた
まさか、銀行強盗なんて、映画でもあるまいし、しかし、現実に事件は発生している、自分のすぐ近くで
正直 怖い
新人マース巡査は少しばかり弱音を吐いていた、こころの中で。
* * * * * *
こちら警邏七車
すく近くにいる
直ちに急行する
警邏七車、犯人は複数 銃器を所持している模様
犯人を刺激しないように
現着したら、すぐ外から視認観察して報告しろ
いいか
すぐに店内に入るな
応援が着いたら、あらためて指示する
すぐ応援が駆けつける
了解
警邏各車に通達
犯人は複数 推定3人から5人
犯人は銀行内で威嚇発砲した模様
発砲音からして、軽機関銃もしくは自動小銃で武装している
各車連携して警邏車をもって道路封鎖を実施せよ
各員へ
犯人は軽機関銃もしくは自動小銃で武装している
各車連携して警邏車を堤体とせよ
各車連携して警邏車を堤体とせよ
万が一の場合、自衛の発砲は許可する
それ以外の発砲は厳禁とする
現在、
直ちに現場へ向かう警邏七車、ベテランと新人の警官二人だが憲兵隊が応援に駆け付けるの一報に二人とも安堵感があった。
---ぐんとく---憲兵隊特殊事案班----文字通り特殊な事件に派遣される部隊だった。
精強な憲兵から選抜されて、さらに磨き上げ鍛えられているそうだ。
実態はよく知らない。
名前だけは警邏を担当している警官にはよく知られている存在だった。
年一回の統合訓練にはそれぞれが参加している。
ただ構成や組織に関しては秘匿されていた。
機関銃とか、手投げ弾とか、それらを用いた犯罪には、警官が装備している回転式短銃では対処できない、そんな事件に派遣される特殊部隊だった。1年ほど前に装備更新と組織の改編があった。その時から詳しい内容はぼかされて表に出ていない。
装備が一新されて、訓練が強化されている。それだけしか広報されていない。
警察にもありきたりの説明だけで、『ぐんとく』と呼称されている組織の改編の中身には何一つ伝えられていなかった。
機関銃を振り回す強盗、そんな物騒な輩には、こっちも
オレ達、
まあ、後始末はやらされるがな
マサン巡査はベテランのしたり顔で、これから長い付き合いとなる新人警官に語るのだった。
* * * * * *
総員傾注!
確認する
録音されているか
はい 法的証拠としての録音はすでに開始しています
よし
この会話は録音されている
いいか いつもの通り、冷静に行動せよ
立てこもり犯はおよそ3人 これはまだ確定していない
4人の可能性もある どっちにしても5人以下なのは間違いない
人質は行員8人客2人計10人だ
よくみろ これだ
ベルハン銀行マハン市支店の図面だ
我々が突入訓練していた模擬銀行と同じだ
ベルハン銀行は支店数が一番多い
銀行側は店舗開設経費を小さくする為に全店同じ店舗作りになっている
そして多くの銀行が防火防犯構造を共通規格化している
たまたま店舗数が一番多いから、我々はそれを参考に訓練してきた
今回それが幸いしている
あれだけ訓練した
お前等は目を瞑っていても、支店の中を歩けるだろう
自信もって行動しろ
犯人らは自動小銃を装備している
未確認だが全員装備していると思われる
これは間違いないと思う
これも未確認だが、犯人は腰に手投げ弾も装備していると思われる
銀行の窓から少しだけ視認したと情報が上がっている
自動小銃もどんな自動小銃かは不明だ 発砲音からは判別できなかった
だから改造銃かもしれない
どっちにしても、従来の犯行事例とは大幅に異なる
今までの銀行強盗と比べ物にならんほどに強力な武器を用いている。
犯人全員が自動小銃を所持しているから、間違いなく何らかの組織が背後にある
よって、この手の組織犯罪には初手から強圧粉砕で対処する
ゆえに今回は交渉人を用いない
不正業悪な力を用いる輩には、徹底した強襲制圧を行い事件の早期解決を図る
1年前から、情報部よりこの手の事件は予見されていた
それ故に、貴様らに徹底訓練をしてきた
今がその時だ
貴様らの真価が問われている
いいか 徹底して無力化しろ
いつもの訓練と一緒だ
貴様らの腕は確かだ 間違いない この俺が保証する
貴様らは一流だ 自信を持って行動せよ
いいか
人質が殺される前に犯人を無力化しろ
責任は私が取る
裁判所への提出証拠として確認をとる
各班 本件についての武器使用の責任についての確認だ
人質が殺される前に犯人を無力化しろ
突入時に各自、携行携帯している武器、全ての使用を許可する
任意に発砲してよし
責任は私が取る
確認し返答せよ
1班 確認しました
2班 確認しました
3班 確認しました
4班 確認しました
5班 確認しました
狙撃班 確認しました
確認する 救護班は?
救護班は既に待機しております
計画の通り、医官3人救護員20人で突入時に随行できます
よし、救護班はそのまま待機
各員、救護が必要な時はただちに申告せよ
これも訓練の通りだ
狙撃班は既に配置についている
訓練通りにやれ
予行演習は散々してきた
今から本番だ
1班は正面入り口 2班は裏口 3班は1班と共に同時突入
そして2階の犯人に対しての強襲制圧
4班は屋上からの進入し3階裏窓爆破 そこから侵入
5班は予備で屋上待機、4班の支援に回れ
もう一度言う
ただ今より各自の判断での発砲を許可する
状況に応じて、犯人を無力化せよ。
その為の発砲を許可する
狙撃班はいつもの通り状況を確認した後に発砲申請せよ
状況が逼迫している場合は、この限りではない
躊躇なく発砲し、犯人を無力化せよ
狙撃班了解
状況逼迫時には躊躇なく発砲します
では 配置に付け
・・・・
・・・・
・・・・
1班 配置に付きました
3班 配置に付きました
・・・
・・・
2班 配置に付きました
・・・
4班 配置に付きました
5班 配置に付きました
4班 3階突入啓開準備は?
準備よし 待命中です 何時でも行けます
では4班 降下し突入啓開準備せよ 計画した窓に突入信管だ
いけ
4班 いきます
・・・・
・・・・
・・・・
こちら4班 突入信管設置しました 戻ります
・・・・
・・・・
こちら4班
計画通り3階裏窓四隅に信管設置しました
突入路となる裏窓の鉄格子ですが、報告します
雨水による経年劣化のさびにより、設置されている鉄格子はかなり傷んでいます
鉄格子の強度は想定されていた物よりもかなり低いと判断しております
ですので、何ら問題なく進入路確保の見込みです
本報告を持って、3階裏窓突入啓開準備完了です
何時でもいけます
よし お前ら 聞け
お前たちを集めて、ちょうど1年になる
この1年間、過酷な訓練を行った
それは今回の為のものだ
よくぞ訓練に耐えて、ここまできた
責任者としてお前たちを誇りを思う
いいか
後悔なんかするな
思う存分に やれ
各自 準備いいか
1班よし 2班よし 3班よし 4班よし 5班よし
狙撃班よし
よろしい
5 4 3 2 1
* * * * * *
・・・・ 帝国陸軍連邦南方域派遣団 前衛部隊中枢にて ・・・・
総員傾注!
先日の航空偵察から報告が上がっている
我々の前方密林にある種の変化が認められている
熱源反応が確認された
それも巧妙に偽装されている熱源だ
わずかな熱変移によるものだから、最初は誤差と思われた
だがその熱変移がある特定のパターンを持っていた
昼夜に渡ってそのような特定パターンが続く事象は、今までの経験則で、
そのような熱変移が検出されたことはない
よって敵勢力の存在と認識している
そこに何らかの意図がある
ただし、注意すべき点がある
それは欺瞞行為による我が派遣団の偵察能力の把握が目的の場合という事だ
我々の索敵能力が露見するのは拙い。
欺瞞には欺瞞を持って対処する
よって左翼戦域より、順次に砲兵隊による帯域集積砲撃を行う
この後、熱変異源の確認となる
敵先遣隊が潜んでいる可能性を探る
その確認の為だ、通常の威力偵察ではないからな
我々の砲兵隊が活躍するわけだ ただし帯域集積砲撃だ
これに対して敵の全面反撃が予想される
あいにくというか、幸いと言うか
現状では敵の補給能力は低い 奴らは弾薬は無駄にできない
弾薬消費させれらるその手に乗らんよ それが奴らの本音だろう
よって司令部は戦域を限定して集積砲撃による攻撃を加える
この攻撃で奴らがどんな反応を起こすか、ひとつ様子を見る
貴重な備蓄弾薬を用いて全面反撃に打って出ない判断している
万が一全面的反撃が起こるなら、それは奴らが新規補給路を確保した事を意味する
つまり、それで敵補給路確認が容易となる
その為の航空偵察も司令部でちゃんと用意している
その補給路を確認しだい、予備戦力である42遊撃隊を用いて全力で叩く
もちろん、その時はこの戦線が一斉に活性化する
後方に控えている部隊も直ちに移動して戦線に加わる 移動には17時間掛かる
たった17時間で我が方戦力は3倍なる 敵は我々の陣容に魂消る事になる
それに伴い弾薬補給はもちろん糧食も最優先で回ってくる
久しぶりに旨いメシが食えるぞ
いいか
日頃のうっ憤を敵にぶつけろ
まあ、正直 敵が反撃する可能性は低いと踏んでいる
反撃が無ければ通常の威力偵察で事足りる
以上が今回の作戦の概要となる
要は相手の反応しだいだ
奴らはそれなりに悪知恵が働く
油断するな
生きて帰ってこい
以上だ
先ず先鋒として七番隊が行く 俺達は万が一の随行援護に回るぞ
しんぱいするな
砲兵隊が耕してくれたあとだ
オレたちゃ、何か獲物はありませんかとな
見回りよ
獲物があれば
うん 報告よ
情報部のお偉いさんが
獲物の保全をちゃんとすりゃお手柄なんよ
でも班長 お偉いさんが出張ってくるその獲物ってどんなモノなんすか
聞くなよ んなもん オレにもわかんねーよ
それを確かめるのが今回の話よ 砲兵隊巻き込んでのよ
たぶん オレたちの
確かめているじゃねーか そうじゃねーとこんな手の込んだするかな
だからよ こっちもよ たまたま砲撃やってみますよと
えーと新兵の訓練ですぅ
左翼戦域から ここからここまで
ゆっくりと順番に打ちますょぉ 危ないですょぉ 離れてねぇ
とくるわけだぁ わざわざよ 新兵訓練するかってよ
わざわざ帯域限定で砲撃するかぁ しねーよ そんな事
はぐらかしには はぐらかしよ
こんな神経戦はあんまりねー というか オレは聞いたことねーよ
あんがいよ これってよ あいつらの陽動かもしれんぜ
まぁよ 行くのは怖いけどよ それは向こうも同じだけどな
あのキレッキレッの中隊長がぽつりと言っていたけどな
向こう側の兵站 動いてねーて
中隊長が言うのだからまちげーねーよ
だからよ しんぱいすんな
あと10日でよ オレたちは交代よ
だからよ
踏むなよ 死ぬぞ
まあ いつもとおんなじよ おわったら酒のもーぜ
んでよ
いつものよ 女郎買いだ 朝日屋に
* * * * * *
少佐の執務室から出て、駐車場へ向かう。
少佐の話の中、
「
あの言葉が僕のアタマの中でダンスを踊っている。
なんか父へ手紙を書いた後での話だから、余計になんだかズシンとくる。
この話、父はニヤニヤして聞いてくれるだろう。
母はどんな顔するだろう。
母には聞かせられないな。
ふと ・・・・
祖母の顔が浮かんでくる。
ばーちゃん、ばーちゃんは ・・・・
やめよう ・・・・
僕はアタマの中でダンスを踊っていた娼館と娼婦の文字をかき消して、駐車場に停まっている高級車に乗り込んだ。
ゆっくりと車が動き出す。
「おい、話はついているか」
中尉がニヤッと笑って僕に聞いてくる。
えっ よくわからない。
中尉は何を言っているのだろう。
僕があのうとその言葉の意味を聞こうとすると、中尉は「みなし成人の件だよ」
ニヤニヤしながら、そう言ってわかったかという顔をしている。
「はい、少佐から今日から大人の扱いをしてやるって ・・・ それが ・・・ ]
「よし、話は通っているな。
早い話、酒だ、酒。
飲むぞ。
おまえの護衛でオレ達は少々酒が飲めなくなっている。
だから、今日は飲むからな。
話はついている。
ただな、いくらみなし成人といえどもおまえの顔はまだ未成年だ。
だから部屋で飲む。
お前さんの成人式だ。
祝ってやるよ。
食堂で飲み食いするのがスジだがな。
おまえの顔だから大っぴらに飲めない。
部屋でなら人目を気にせず祝い酒だ。
少佐はお役所仕事が終わらして、参加の予定だ。
殿下には話を付けているってことだ。
食堂にも話は通している。
旨いモノが食えて、酒が飲める。
へへっ、飲むぞ 」
うひゃ ・・・・
中尉が嬉しそうに語ってくるよ。
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