第31話
プロローグ31
聞いていると思うが、君がこれから関わる軍の計画は秘匿されている
それ故に参加する君もこれから秘匿されることになる
宮様の言葉の意味が解らなかった。
僕はこれから秘匿されるって、いったいどういう事なんだろう。
雰囲気が雰囲気だけに、それは憚れる。
少佐を見ても、そこには僕の事を心配してくれている表情しか読み取れなかった。
あとで詳しく聞けばいいか。
とにかく、みんながみんな、僕を見て心配そうな顔をしていた。
どうだ、いけるか
あの斜に構えている僕がニヤニヤ顔で質問している
うん だいじょうぶだ いけるよ
ニヤニヤ顔に少しイラつきをおぼえるが仕方ない
さっきみたいに、ふるえる事はないよ
宮様が僕の返答を待っておられた。
「 宮様、お気遣いいただき、ありがとうございます。
皇族の方とお会いするなんて、僕にとっては初めての事。
まさか、皇族の方とお会いするなんて、突然の事でしたので ・・・
正直、びびって ・・・ びびって ・・・
どうしようもなく緊張しておりました。
今も、緊張しているのは間違いありませんが、さっきよりもマシです。
宮様、ご心配おかけしてすいません 」
宮様は僕の返答に満足そうなお顔をすると、視線を僕から少佐に向けていく。
彼はもう大丈夫だよという表情だった。
少佐は宮様の視線を受けて頷くと、視線を僕に向けてくる。
もう大丈夫かという問いの視線だった。その視線の質問に僕は頷いた。
少佐が立ち上がると、宮様も立ち上がる。
それに合わせて僕も立ち上がった。
「 宮様。
彼が今回我々の仲間になりました。
『 宣誓の儀 』の立会をお願いしとうございます 」
宮様は鷹揚に頷かれる。
少佐はもう大丈夫だなという表情をもって、その部屋の真ん中へと指し示すところに僕は導かれる。
伍長二人が演壇みたいな台をそこへ押して持ってくる。
なんだろう。
その台にはとんでもなく分厚い本が乗っていた。
よく見たら帝國大法典だった。
少佐を見たら、この場に立ち会っている人の表情をひとりひとり見ていた。
そして、
宮様がにこやかな笑顔で僕を見ておられた。
宮様から少し離れて、中尉と伍長二人が横に整列して緊張した顔で僕を見ていた。
「では、宣誓の儀を行う」
少佐が僕を観て、厳かに言葉を発する。みんなが僕を見ていた。
「 良し。 ここに帝國大法典がある。
君も知っていると思うが、帝國大法典は我が帝国の歴史そのものだ。
この法典には我が帝国の英知と努力が凝縮されている。
先人が努力の上に努力して築き上げた法体系だ。
それ故に、正式に軍に入隊するときは、この上に利き手を置いて
宣誓するのが習わしになっている。
通常の徴兵の場合だが、代表者がその手をここに置いて宣誓していく。
そして、皆がそれに合わせて唱和宣誓する、それが通常の形式になる。
君は通常の徴兵のかたちで軍に入隊するのではない。
君は特別召集にて、本日付で正式に海軍工廠に登用される。
そして、この宣誓の儀をもって軍籍簿に記載入隊する。
表紙に君の利き手を置きたまえ。
空いている手を胸に当てたまえ。
そして 誓いたまえ 」
みんなが僕を見ていた。
僕の心の中の何人もの僕が、僕を見ていた。
自然と背筋が伸びる。
目の前の帝國大法典に右手を乗せて、左手を胸に当てた。
「 いいか。
私の言葉を ・・・
そのまま繰り返したまえ 」
「「 私は、 」」
「「 皇帝陛下に 」」
「「 忠誠を尽くし、 」」
「「 帝国と 」」
「「 帝国臣民を 」」
「「 守護するべく、 」」
「「 帝国憲法の下、 」」
「「 法に従って 」」
「「 帝国軍人として 」」
「「 その義務を果たし、 」」
「「 帝国と 」」
「「 その共同体である 」」
「「 連邦に 」」
「「 奉仕することを 」」
「「 我が名誉にかけて 」」
「「 誓います 」」
「「 おめでとう 」」
中尉らみんなが声を掛けてくれる。
なんだか、照れくさい。
僕はこれで海軍に軍籍簿入隊となった。
でも、普通の入隊と軍籍簿入隊って・・・
何がどう違うのか ・・・ よく解らない。
宮様が手を上げて何か指図をされている。
事務員と思われる人と大型の写真機を持った人が僕たちの前に進み出て、
写真機を構えていく。
記念写真の撮影だった。
宮様のすぐ横に立つようにと指図されて、びっくり。
「はい、わらって」と言われて、僕は必死になって顔を作る。
たぶん、ひきつった笑顔になっている。
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