第29話
プロローグ 29
それは小さな碑だった。
クラウス・マセンラと記されていた。
マセンラさんの息子さんだ。
僕たちはそこに花環からとった
感謝と ・・・・
そして あなたが命を掛けて守ろうとしたモノを ・・・・
僕も守るつもりです。
そんな想いを ・・・ 僕は ・・・・
こころの奥に ・・・・ 刻んだ。
マセンラさんは笑顔だった。中尉も満足そうな顔になっている。
「ありがとうね。花を奉げてくれて」
マセンラさんは、そう僕に告げてくる。
でも ・・・・
僕はとっさに言葉が出なかった。
「 ・・・・ すいません 感謝すべきは僕だと思います。
だから、花環を奉げました。
・・・・ うまく言えないけど ・・・・
ここに慰霊されている皆様の事を ・・・・
・・・・ 心に刻みます ・・・・ 」
中尉が満足そうな顔で僕の肩をトントンと叩いて、
「無名戦士の墓には、毎日、観光客なんか多くの方々が祈りを奉げている。
だけど、ここに来て祈りを奉げる人は少ない。
残念だけどな。
誤解を恐れず言うと、ある意味、兵は死ぬのが仕事だ。
命令があれば死地に赴く。
でもな、
軍に籍を置く者には、日常の訓練や通常の業務の中、常に死の危険はある。
有事で死ぬのも、平時で死ぬのも、死ぬ事には変わらない。
そして、平時で死ぬとここに祀られる。
たまにでいい。
君もこの場所で祈りを奉げにやってくれ」
そんな風に言われると ・・・・ なんだか胸が苦しい。
僕はなにも言えず、ただ、頷くことしかできなかった。
「 そろそろ時間だな。
次は君の『 宣誓の儀 』だな。
行こうか 」
最後にもう一度、慰霊碑を見た。
朝日を浴びて輝いていた。
もう一度、こころに感謝の念を僕は刻んだ。
慰霊碑が微笑んでいる。
なんとなく、そんな気がした。
そして僕たちはマセンラさんと別れ、
駐車場から軍務省へ行く間の車内で、僕はもう一度 ・・・・
自分の想いを見つめてみた。
でも、慰霊碑から軍務省までのわずかな時間では結論なんて出てきはしない。
その事を確認しただけだった。
僕の乗っている車はすぐに軍務省の駐車場へと着いてしまい、そのまま、昨日の控室に案内される。すぐに事務員と思われる人が来て、僕に着替えを手渡してくる。
海軍工廠の制服だった。
ここで今すぐに着替えろとの事、言われるままに僕は着替えた。
着替えたのはいいけど、そのままだった。
待たされる。
20分ぐらい経っても誰も来ない。
おいおいおい 遅いじゃねーか なにしてんだよ
僕の中で、あの斜に構えている僕がプーたれている。
うん、同意するよ。
なんでこんなに遅いの。
40分程度の時間が過ぎて、ようやく少佐と中尉とが入ってくる。
中尉はニヤニヤ顔だった。
少佐は難しい顔をしている。
なんだろう。
なんか雰囲気がびみょうな雰囲気 ・・・・
少佐が神妙な顔つきで僕に告げてくる。
「君の『宣誓の儀』なのだが ・・・・
非常に ・・・・ 名誉な事になる。
帝国七大宮家の一つ、
ガーネット家次期当主フェルディナント・フォン・ガーネット様の、
ご臨席を賜る事になった。
ガーネット家現ご当主はご高齢である。
故に、ご長子であるフェルディナント様がご名代として宮家を仕切られている。
ガーネット家は代々軍務に関わる宮家である。
過去には何人も軍務省大臣を輩出されている宮家だ
それ故に軍務省の最上階に宮様の執務室がある。
宮様のご登庁は極めて早い。
朝6時にはご登庁なされて執務なされている。
今朝もいつも通りに早くご登庁なされて、執務なされていた。
朝いちばんの執務をこなされて、宮様が休憩をお取りなった。
執務室の窓から、外の天候などをご覧になった。
すると殉職者慰霊碑で慰霊献花式が始まり、終わると献花した人物がそのまま
軍務省の駐車場へ入り軍務省の中に入ってくる。
そして、明らかに憲兵が警護している。
もしやと宮様はお思いなり、私にご下問があった。
本日の宣誓の儀、その人物が献花したのかと。
中尉に確認を取ると献花を意図したのは君で、中尉がそれに参加したと。
事の顛末を奏上すると、宮様はいたく心を動かされてね。
本日の君の宣誓の儀に臨席をお望みになられた。
粗相の無いようにな。
実は君が関わる特務士官の計画、宮様がその総責任者となっている。
実務の責任者が私だ。
それ故に君に対する情報は全て宮様に報告を上げている。
宮様はたいそう、君の事をお気になされている。
もう少し、計画が進んだところで内謁をお願いする予定だったが、
まあ、そういう事になる。
宮様がご臨席になるから、今の制服では拙い。
海軍礼服に着替えてもらう 」
へっ なんだかトンデモナイ事になっている。
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