第28話

プロローグ 28


ザッザッザッザッ ・・・・ 靴音が響いていく。

僕たちは足並みをそろえながら通路を行進している。

 だけど、足音の響きがなんとなく物悲しく聞こえるのはなぜなんだろう。

足音の響き、その響きが朗らかなものではないのは確かだった。

あの403駐屯地のトンネルの中で聞いた多数の軍靴の響き。

おいらはこーへい、せんとーこーへいと言う独特な掛け声と供に聞いたザッザッザッと言う軍靴の響き、あれとはなぜこんなに違うモノなんだろう。

訓練場と慰霊碑とじゃ違って当たり前か。


 さっき、こころの中で『 こんにちは 』と声を掛けて、返ってきた温かい感覚。

それとの落差というか、段差というか、違和感とまで言わないけど、温かい感覚が返ってきただけに ・・・・ だからか、なんだか余計に寂しく感じてしまう。


ここは、中尉が言っていた通りに想いを寄せる場所なんだね。


もうすぐ慰霊碑、そこの部分を囲うように少しだけ高くなっている。

「もうすぐ行進が止まります。

 『喇叭手位置に付け』の号令で横に整列となりますので誘導いたします」

アッヘンバッハ大尉が、小声で僕に声を掛けてくれる。


「 儀仗隊、  とまぁぁれぇぇぇぇ ! 」


独特の抑揚をつけて号令を掛けるアッヘンバッハ大尉。

ザッザッザ。 ・・・ と小気味よくその足並みを止める儀仗隊。

止まるタイミングがよくわからず、僕は危うく余分に足踏みしそうになる。

儀仗隊止まれの号令と共に、慰霊碑の左右に立哨していた立っていた兵士が、ビシッと敬礼をして僕たちを迎えてくれる。

凄いのは、阿吽の呼吸と言うか、二人の敬礼がパーペキに同期していた。


「 喇叭手、  いちにぃぃつけぇぇぇぇ ! 」


その号令が掛かると、慰霊碑の左右に立哨していた立っていた兵士が、間隔をあけるべく左右に分かれて移動していく。

続いて、喇叭手がそのまま慰霊碑の正面に進んでいき、敬礼。そこから回れ右をして右側へ移動していく。

 端までくると、クルリと回り、慰霊碑に向かうようにして喇叭吹奏の構えで直立している。

そして、隊列がそのまま前進し、先頭の儀仗員の方が横列を作るべく回り左として進んでいく。花環を保持していた人が慰霊碑正面に間隔を開けて横に並んでいく。

最後の儀仗員の方は回り右となり、横列がスムーズに成り立っていく。

 全体がキビキビとした統一された動きで、それは見ていても胸がすくような動作になっていた。


「 献花される皆様。

  どうぞ、花環までお進みください 」


大尉が円満な笑顔というか、柔和な笑顔というか、とにかく優しい笑顔で僕たちを誘導してくれる。

僕は中尉を見よう見まねで同じように花環の所まで進んだ。

先頭のマセンラさんが左端、真ん中の花環が中尉、右端の花環が僕になる。

僕たち三人が花環の位置まで来るのを確認したアッヘンバッハ大尉はまた号令を掛けていく。


「 儀仗喇叭、 よおぉぉぉいぃぃぃぃ ! 」


「 吹奏  ! 」


フアンフアーレだった。


高らかに、朗らかで ・・・・ そして伸びやかな、心地いい喇叭の響き。


それが殉職者慰霊碑ここに広がっていく。


訳もわからず ・・・・ 胸が熱くなる。


「慰霊喇叭用意で、花環を携えて3歩前進となります。

 慰霊喇叭 吹奏で花環を置き、献花黙祷となります」


アッヘンバッハ大尉が小声で声を掛けてくれる。


「 慰霊喇叭、 よおぉぉぉいぃぃぃぃ ! 」


僕の目の前で花環を保持していた儀仗員の方が、花環を持つようにと身振りで促してくる。促されるままに花環を持つと、そのまま引っ張れるように前に進む。

ひとつ、ふたつ、みっつ。三歩進む。


 「 吹奏  ! 」


花環を保持していた儀仗員の方が、ストンと花環を置き、

サッと左によって、そして、敬礼。


伸びやかだけど、もの悲しい旋律が響いていく。

文字通りの慰霊喇叭だった。



僕はこうべを垂れて、祈った。

ここに集ってつどっている御霊に。


感謝と安寧を。


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