第27話
プロローグ 27
「皆さん、よろしいでしょうか」
軍曹は僕たちの顔を一人一人確認するように見渡していく。
「ではこちらです」
軍曹が控室の奥の扉を開けていく。僕たちは席を立ち、そのまま軍曹のあとに続いて外に出た。
明るい外の光、そして、それが僕の視界に入ってくる。
一瞬 ・・・ 、息を飲む。
あれか。
黒くて細長い柱 ・・・・・ あれが慰霊碑。
慰霊碑の左右に国境警備隊の兵士が2名
兵士の顔は ・・・・・ 兵士の顔は、厳めしく正面を見ていた。
控室の扉から
そして、通路を真ん中に、それぞれ左右に小型の石板が並んでいる。
いっぱいある。
それがまるで墓標の様に見える。
中尉の言葉の通りだ。
ここは聖域になっている。
朝日の中で、その墓標の様に見えたいくつもの石板が僕たちを見ていた。
なぜそんな感覚になるのかは、 ・・・・ わからない。
でも ・・・・・ でも、やっぱり、 ・・・・ 視られている。
そんな不思議な視線を感じつつ、僕は慰霊碑に捧げる花環を見た。
それは僕が思っていたよりも、ずっと大きい花環になっていた。
色は白 ・・・ 完全な白じゃないな。
少しだけ色が付いていた。
薄い薄い桃色とか、淡い淡い白桃色でもいう色だった。
模造花だけど、たぶん、あの可愛い子ぎつね桜の花を象っている。
それをたくさん絡めて花環にしていた。
たしか、子ぎつね桜の花言葉は「 安寧 」。
その花環が、僕たちのすぐ前に花環が三基用意されていて、朝日を浴びている。
そして花環の後ろに、儀仗服を身に纏った国境警備隊の兵士の方々が整列していた。
気を付けの号令が掛かる。
その方々が、整然と気を付けの姿勢を取り僕たちを見ていた。
号令を掛けていた人がツカツカと僕たちに歩み寄り敬礼をする。中尉をはじめ伍長さんらが一斉に返礼していく。僕は慌てて頭を下げた。
「本日の献花式、指揮を取るフォルカー・アッヘンバッハです。
よろしくお願いいたします」
柔和な笑顔での挨拶だった。
儀仗服に身を包んだその人は大柄な年配の人だった。
階級章を見たら中尉より横線が1本多い。たぶん、階級は大尉だと思う。この人の胸にも
何だろう、大尉からは ・・・・
大尉の
「皆さんの中で、献花式に初めて参加される方は?」
アッヘンバッハ大尉の質問に、中尉や伍長の視線が僕に集まってくる。
当然、大尉の視線が僕に。
「はい、僕が初めてです」
「では、私が近くで号令をかけて、小声で誘導させていただきます。
何も心配はありませんから」
柔和な笑顔で僕に語りかけてくれる。
「よろしくおねがいします」
僕はそう答えて頭を下げた。
「それではよろしいでしょうか」
大尉はそう僕たちに声を掛けて、僕たち一人一人の表情を確認していく。
確認した後、クルリと回り整列している儀仗隊に向かい合う。
「 儀仗員、参進用意 ! 」
号令一下 ・・・・ ザッザッザッザッザッ ・・・・ 軍靴の音が響く。
整列していた儀仗員の方が花環をサッと持ち上げて、きびきびとした動きで慰霊碑への通路にへと移動する。
全員が通路に出てシャキとばかりに整列し、次の号令を受けるべくぴたりと静止する。
清々しいまでに統一が取れていた。訓練のたまものなんだろうと思う。
その儀仗隊の隊列には6人の兵士からなっていて、先頭は喇叭手だった。
真ん中の3人が花環を保持していた。それを護る様に前と後ろと人が付き、喇叭手が先導する形になっている。
指揮を取るアッヘンバッハ大尉が小声で「では皆様、儀仗隊の後ろに整列をお願いします」
僕たちもその声に従って列の後ろに参加する。
僕は知らず知らずのうちに、不安そうな表情をしていたみたいだね。
『心配するな 上手くやれるよ』とばかりに、中尉が気を使って僕を見ていた。
僕は大丈夫ですと言う意味を込めて頷き返した。
「 では、号令を掛けますので、あとに続いてください 」とアッヘンバッハ大尉が声を掛けてくれる。
「 きおぉぉぉつけぇぇぇぇ! 儀仗隊 参進 ! 」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ・・・・・・・
号令が掛かり儀仗隊がゆっくりと進み始めていく。
足並みをそろえる、その事に特に困らないけど、でも、やっぱり少しばかり緊張してしまう。
慰霊碑へ続く通路、だいたい50カール[ 注 約60メートル ]ぐらいの長さ、その通路をゆっくりと慰霊碑に向かって行進していく。
視線を感じる。
・・・・ やっぱり、視られている。
それもたくさんの視線だった。不思議な感覚だった。
恐ろしいとか、怖いとか、そんな感じはしない。
それらとは全く反対の感じ ・・・ 温かいモノだった。
まるで知り合いの人々の視線、そんな感じだった。
ここで慰霊されている方々の視線だとしか思えないか。
慰霊されている方々が、おっ、誰かお客が来ているなという視線というと判ってくれると思う。
僕は心の中で『 こんにちは おじゃまします 』とその視線を向けている何かに向かって声を掛けてみた。
不思議だ
なんだか、温かいモノが返ってくる。
なんだろう。
不思議な感覚。
僕の中で、あの4才の僕はどういう訳だかニコニコ顔だった。
「こんにちは、こんにちは、こんにちは」と、右に左にと笑顔を振りまいていた。
4才の僕は、まるで出迎えがうれしいとばかりに。
そう、出迎えてくれている。
僕はそう感じた。
そんな不思議な感覚を味わいながら僕たちは、慰霊碑に向かって進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます