第25話
プロローグ25
「うん? 何を驚いている?
慰霊碑に献花するの為に、君は礼服を着ているよな。
だから、俺たちも合わせただけだぜ」
中尉がニヤリとイタズラぽく笑っている。
はあ、なるほど。
「儀礼服ですか?」
「第二種礼装というもんだよ。
プライベートな儀式、まあ、結婚式なんかや、それなりの葬礼とかな。
そんな時に用いる服だよ」
中尉の胸には勲章が3本、誇らしげにキラキラと輝くように付けられていた。
「ものすごく、かっこいいです」
「そうか、お世辞でもそんなふうに言われるとイヤじゃないな。
ちょっと早いけど、そろそろ行こうか」
中尉に促されて、僕は部屋を出る用意をする。
と言っても財布と献花の費用を入れた封筒を内ポケットに入れるだけ。
そのまま、ゲストハウスの玄関まで行くと、暖かった。この間まで、寒くて寒くてたまらない日だけど、今朝は4月のぽかぽかと暖かい朝になっていた。
玄関であの高級車が待っていた。
いつものメンバー・伍長さん二人も礼装を着こんで、僕が来るのを待ってくれている。
そして、伍長さんたちの胸にも勲章が付けられていた。
僕を警護してくれているこの人達は全員勲章持ちなんだ。それってやっぱりすごい。二人とも
左の勲章は何の勲章かは判らないけど、右の勲章は確かサータン戦勲功章だと思う。
僕の親戚に第2次サータン派兵に従軍した人がいる。戦功ありという事で叙勲、親戚一同大いに喜んでその人をねぎらう会を開いた時にまじまじと見せてもらった。あの勲章と同じものが伍長の胸に輝いていた。
* * *
サータン鎮圧戦、それは帝国の南方植民地サータンで勃発した過激派による独立運動という名のテロ、それとの戦いだった。
総督府、現地治安本部、現地港湾局、入植者公民館等々、公的機関それぞれに爆発物が仕掛けられて、同時攻撃を受けていく。攻撃の規模そのものは小さいが、その攻撃は極めて有効に働いた。サータン解放戦線と自称しているテロ組織はその戦果に凱歌を上げた。
それら多数仕掛けられた爆弾により、総督を含むサータン当局幹部56人がテロの犠牲者となる。植民地施政中枢はその機能を停止して、帝国内務省へ救援を求める事になる。
すぐさま海軍陸戦隊を派兵する事が決定され、海軍陸戦隊の空中挺進によって、あっという間に鎮圧された。たった40日間の作戦だった。
それが第1次サータン派兵だった。
ただ、残党が地下に潜ってから、力を蓄え再度、テロを起こす様になる。
第1次派兵が撤収して、その1年後だった。
その攻撃は執拗に、かつ、残忍な手法でテロを繰り返していった。
前回のような各所同時爆破攻撃ではなく、同一場所における時間差を設けた連続爆弾テロだった。
最初の爆発が起こり、その救助活動に人が集まっているのを確認して、第二の爆発が起こる。救助に当たっている関係のない地域住民がさらなる爆弾テロに合って悲惨な状況になっていく。
そうやって植民地政府に協力する地域住民は間違いなくテロの標的にされていく。
いつ爆弾テロに合うか、入植者はもちろん原住民も巻き添えになるのは間違いなく、それぞれに恐れおののくことになる。
帝国はこのサータンの武装蜂起に武力によって徹底的に対処する。
サータン解放戦線と自称しているテロ組織の完全壊滅と現地の治安の回復、この為に内務省植民地現地当局は、陸軍と海軍・憲兵隊の大規模派兵を要望、そして前回を上回る規模で統合部隊が派遣された。
テロに対して、植民地当局は鞭と飴を用いて、徹底して炙り出していく手法を取った。経済的自立無い状況では独立しても、それは夢物語に過ぎない事を、帝国の庇護の元、近代化して発展した方がより良い事、その事を現地総督府は懇切丁寧にわかるべく指導していき、テロ組織の情報を領民に求めていった。有用な情報をもたらした者にはそれなりの優遇処置が取られていく。特にピンポイントにテロリスト達を特定する情報には多額の報奨金が与えられた。
治安当局には多くの情報が寄せられていき、総督府は地下に潜ったテロ組織を次々と文字通り、文字通りに粉砕していく事になった。
見せしめのごとく、容赦なく、激烈に ・・・・
投降する機会を与えるなんて ・・・ 最初から考慮されなかった。
テロ組織構成員を捕縛して裁判にかけるなんて事も、まったく考慮されなかった。
そこにあるのは、 ・・・・ ただ、ただ、殲滅あるのみ。構成員の存在が確実ならば容赦なく攻撃を加える事になる。
軍当局はゆっくりとだが、着実に成果を出していった。
総督府は二度とテロ組織を蘇らないように、テロ組織を壊滅させる事とサータン領域における原住民と入植民に対する施政を根本的に変えていく事になる。
帝国内における植民地サータンの価値は、非常に高く評価されていた。
それは3年を掛けて綿密に実施された国土省資源局の資源調査の結果が想定されていたものよりも、はるかに良い結果を示していた事による。
資源調査の示すものは・・・・調査結果は極めて良いもので帝国の経済に多大に寄与できると予想されるものだった。
植民地サータン、その領域は、大小を含む7つの島嶼から成り立つ。一番大きなサータン島は1割の山岳部、2割の平野部、残りの7割を占める一見無価値な砂漠から成り立つ。
植民地として、帝国版図に組み入りられた初期にはサータンの価値は低く見積もりされていた。
利用価値が高いのは遠洋漁業の補給拠点としての港ぐらいしかなかった。
初期には大規模港湾施設が設けられ、いくつかの港は振るわった。しかし、内陸部はまったくの手つかずであり、多くの原住民は帝国臣民としての扱いを受けていなかった。
だが、国土省資源局の調査により、その砂漠に貴重な希土類元素を含む砂礫が多く存在しているが明らかにされた。
一般に金や銀の採掘であれば、鉱山の地下深くトンネルを張り巡らせて、多くの人員と多額の採掘機器資材を投入して硬い岩盤を破砕して掘り進めていく努力をする。しかし、植民地サータンでは、そんな労力を必要とせずに簡単な露天掘りで貴重な資源を手に入れられる採掘現場だった。
当然、資源採掘のランニングコストは実に安価に済ませる事ができ、そして、トンネル採掘など比べると極めて安全な採掘現場になる。
無価値と思われていた砂漠の砂礫の中に貴重な資源が含まれることがわかると、必然的に植民地サータンの価値は高くなっていき、帝国版図の中でも五本指に入るの価値を持つ植民地になる。
故に植民地サータンを中央政府直轄領とすべく帝国に組み入れる、それが枢密院内での決定となり、枢密院から上下両院に勧告がなされて、議決されるのは必然であった。
よって、植民地サータンの民生安定は必然となり、徐々にではあるが民生向上に予算をわりさき、植民地全体の民生向上と原住民と入植者の融和を図る事が植民地民生局の一大方針となる。
それは植民地サータンの基本インフラの整備と教育に力を注いでいく事で始められた。まずは植民地原住民を帝国臣民にする為の計画が立てられ、それに特別予算が付けられる。
あとは計画の実行と予算執行の査察が同時進行していく。
原住民が帝国臣民と成るべく義務教育の為の学校が整備されて、帝国臣民としての愛国教育が始まっていく。
サータン原住民からサータン領民となる為に、植民地領民の民生向上の美名のもとに、同時に電気、道路、公共インフラ整備が始まっていく。
特に最新設備の近代的病院建設は特に入植者領民たちからの熱望だった。
どこの植民地でもそうだが、乳幼児の死亡率が高い。それを低減する事が当局の目標となり、その為にサータン衛生委員会が設けられ、その要望を受けて真っ先に地域住民に向けて海軍診療所が開設されていき、後にサータン中央病院となっていった。
診療所が開設されると供に、陸軍工兵による下水関連設備が拡張整備されていく。工兵たちは植民地で、大いにその腕を振るう事になる。爆薬や戦闘工作車両を人道的立場で用いる、それは違った意味で工兵たちを奮い立たせることになっていった。
新しく橋を架け、道路を作り、下水関連の拡張工事を施行していく。
治安の責任を任されていた憲兵隊当局も、それらの民生進展の基本指針を受けて当然の様に、救急搬送など万全の配慮を用いていく。
日頃は憲兵独特の威圧感を全身から発散させながら、治安維持業務に就くのだが、民生進展の基本指針の中では、憲兵ひとりひとりによりサータン領民に寄り添った人道的立場での行動が求められる状況となる。入植者と原住民との融和を図り、民生の安寧を図るべく憲兵隊は日々行動していく。
多くの軍人たちが帝国公衆衛生の近代的成果を、サータンの地で教育と施工で果敢なる行動で実証していくこになった。それはサータン領民の衛生意識向上となり、彼等念願の乳幼児死亡率も格段に改善向上されていく。当然、領民から歓迎されて公衆衛生の劇的な向上につながっていった。
ゆっくりと徐々ではあるが憲兵隊や工兵の活躍により、植民地サータン総督府は領民・特に原住民の信頼を勝ち取っていく。
憲兵隊や陸軍工兵・海軍診療所医官等が、領民側の立場に立って地道な努力が積み重ねられての成果がそこにあった。
それが第2次サータン派兵だった。
* * *
僕がその勲章をじっと見ていると、伍長がウン?という顔をする。
「これか、サータンに派遣されたからな。
それでもらった、正直大したことはしてないけどな」
「活躍もしないのに、勲功章もらえる訳がないじゃないですか。
ものすごくかっこいいです。
今日は、一般車じゃないのですね」
「そりゃ、君が礼服なのに一般車両じゃマズイだろ。
まっね、明日からはいわゆる業務車両という普通の車になるけどな」
僕がものすごくかっこいいですと言った事に機嫌を良くしたのか、伍長さんがにこやかにドアを開けてくれる。
車に乗り込むと中尉が横に、昨日までは伍長と中尉に挟まれて乗車だったけど、今日はゆったりと乗れる。
朝の喧騒の中、車は順調に進んでいく。
やっぱり帝都はすごいや。
僕の田舎とは全然違う。
街がキラキラと耀いている気がする。
いつのまにか、僕はウインドガラスに額を付けて
うん?
ふと、視線に気づく。
車内に頭を戻すと、伍長と中尉がニヤニヤしていた。
うっ ・・・ となったけど、咄嗟に言葉が出た。
「いなか者ですいません」
僕がそう言うと、車内は爆笑だった。
「ワルイワルイ、俺たちは君をそんな目で見ていないぞ。
ただな、あまりにもな、そのう ・・・・
君の姿が、かわいいからな、
まっ、そういう事だ」
「中尉、それってやっぱり僕はいなか者って事じゃないですか」
また爆笑だった。
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