第24話

プロローグ24


翌朝、早く目が覚めた。

昨日はいつもよりも早く寝た、だからか目覚めがめっぽう早かった。

ベットの中で背伸びする。

まだ薄暗い、夜明け前だ。

ふと思った。今日は大切な日になる。なんとなく、そんな気がする。

手早くシャワーを浴びる。

少し熱いシャワーが気持ちよかった。寝ぼけていたアタマが覚醒する。


 ふう、すっきりする。


真新しい下着を身に付けて、昨日買ったシャツとに着替える。

部屋を出て一階にある食堂に向かう。

まだ夜明け前なのに、朝の食堂にはもうちゃんと朝食の用意が整えられていて、僕たち宿泊者が朝食を取りに来るのを待っていた。


厨房の人と眼が合う。

「おはようございます。

 朝食のセットをお願いします」

調理の人がフライパンを振って何かを焼き始めていく。

ベーコンの焼ける匂い ・・・

旨そうな匂いだった。

サッとフライパンの中身を皿に乗せて、手早く盛り付けていく。

熱々のベーコンの朝食のセットか。

それが僕の前に出されてくる。

用意されていた朝食のセットを取って席に着く。

厚切りのベーコンにガチョウの卵だと思う、それの目玉焼きが二つも乗っている。

それに野菜サラダが付いてアグリ豆が入っている厚切りのパン。ドリンクはミックスジュースを僕は選んだ。

ベーコンを頬張る。

 旨い ・・・ 

肉の香りと旨味が口一ぱいに広がる。


朝から厚切りのベーコン ・・・・ ついこの間まで朝飯なんて食パンと牛乳だけだった。大学の学生食堂じゃこの朝食のセットは普通に昼食のレベルだと思う。

別に贅沢するつもりは無いけど、朝食のセットだからこれしか選べない。しかも無料になっている。正確に言うと、海軍が肩代わりしてくれている。

もっと質素なモノで僕には充分だよな。

ほんのわずかな期間で僕の環境は激変している。

今日は宣誓の儀、間違いなくこれから僕の環境は激変する。

僕はベーコンに目玉焼きの黄身を付けながらこれからの事を考えてみた。

でも結局のところ ・・・・何の結論も出せないでいた。


当り前だ、出せる訳ないじゃん


もう一人の自分がそう嘲る様に呟いていた。

ふむ、そうだよね。結論なんて出すなんて、それって筋違いだよ。


今、僕が真剣に考えている事は ・・・ 与えられた課題をクリアする事。


 それってよ ・・・・

 命令遂行じゃん


あの斜に構えているもう一人の自分がニタッと笑って呟いていた。

くそ ・・・ なんかイラッとする


朝食を食べ終わりころに、後ろから声を掛けられる。

「おはよう、早いな」

中尉だった。

「おはようございます。

 なんか早く目が覚めました」

「二度寝するなよ、時間厳守だぜ」

「はい、気を付けます」

中尉がにこやかに笑いながらだけど、ちゃんと言うか、遅れるなよと注意してくれる。いや、注意という雰囲気じゃない。気遣いというと表現される物腰だった。


なんか優しくされている。


それが判ると、途端に気恥ずかしい気分 ・・・・


僕は中尉に笑顔で答えて部屋に戻る。

早速、礼服に着替える。

礼服用のシャツを着こんでネクタイ。

少々てこずる。

何とかそれなりに形になる。

礼服を着込んで鏡を見てみる。


よし、いいぞ。

うん、自分でもまあまあに見える。髪を整えて終わり。

これから慰霊碑に行き、献花だ。


殉職者慰霊碑、重く感じる。


時間的にだいぶ時間がある。


なんだか落ち着かない。

なぜだろう、よくわからない。

なんか、そわそわする。

落ち着け、おちつけ、おれ。


しんこきゅうだ

ゆっくりといきをはけ

そう

なにもしんぱいはない


おおきくゆっくりといきをととのえて ・・・・・・


祖父じーちゃんの声だった。


思い出すよ。心を落ち着かせる方法だよね。

試験の時や、運動の競技会の時、心がドキドキして舞い上がってしまう ・・・・

それを止める方法だった。

祖父じーちゃんが教えてくれた方法。


祖父じーちゃん ありがとう。


ソファに座って呼吸を整える。

よし。

呼吸を整える事に集中する。

祖父の声に導かれるように僕は呼吸に集中した。

大学の入試の時も、これでアタマの中が快晴クリアになった。

あの時の様に、何も心配はいらない。


ゆっくり ゆっくり ゆっくり いきをはいていく

からだのなかのわるいモノをゆっくりとはきだしていく


祖父の声がつづいていく。

懐かしい。小学生の頃、祖父に教わった時の場面シーンがまるで映画を見るようにアタマの中で浮かんでくる。


いいかい 学校の試験なんかで心を落ち着かせるときはね

息を整える事 ゆっくりと息を吐く 体の中のわるいモノを全部出すつもりで

ゆっくりと ゆっくりと ゆっくりと

息を吐ききったら、自然と息は入るから

出す息にまず集中してごらん


ゆっくりといきを吐く。

ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。

肺の中はからっぽ、自然と空気が入ってくる。

でも、それも意識してゆっくりと ・・・・


あの斜に構えている僕と僕とがオーバーラップするような感覚。

でも、それを無視して呼吸を整える事に集中。


ゆっくり ゆっくり ゆっくり


呼吸に集中 ・・・・・・


意識が宙に浮く感覚、身体が暖かくなる。

ゆっくりした時間の感覚、時間が伸びるような感じ。感覚が研ぎ澄まされているけど、時間に関しては長いとか短いとかは意味を持たなくなる感じがしていく。


コンコン コンコン ドアがノックされる。

ノックの音でひゅーんとばかりに、虚空に浮かんでいた僕の意識が現実に戻る感覚がする。

眼を開いて確認。 そう、僕はゲストハウスの中にいる。


ソファから立ち上がって、ドアへ。

ドアを開ける前に時計をみた。約束の時間になっていた。

1時間と少し、僕は呼吸に集中していたみたいだ。


ドアを開けると、中尉が立っていた。

一瞬、えっと思う。

中尉は憲兵隊の儀礼服で身を包んでいた。


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