第17話
プロローグ17
車窓から見える
走っている道路の前方に行先表示板が見えてきて、矢印と共に
今、走っている道路も南北街道という名前らしい。
どうやら南に向かっているみたいだった。矢印の方向に車は進み、2車線道路へ入っていく。
しばらく走ると堤防らしきものが見えて、古いデザインのアーチ型の橋へと向かっている。
僕が乗っている車はそのまま、河を渡る事になる。
河を渡るとそこは
さっきまでのきっちりと整備された街並みは姿を消して、独特の雰囲気のある市街になっていた。
帝都、その歴史は2600年にも及ぶ、そして、
だから、その歴史は軽く3000年を超える。
そんな古い町並みは戦乱や大火・洪水なんかで、何回も何回も破壊され、その都度その都度、再生を繰り返している。
それ故に
この言葉は帝都に住まいする人々の合言葉であり、
そして、帝国がその苦難の道を歩むときは、復活の合言葉になっていく。
ある意味、そこは僕にとってあこがれの場所だった。
歴史の教科書に必ず出てくる街、
ジーム大帝が即位し建国なされた約束の地、帝都。
その中心地が
背マールの乱 コンナーラの大火 第二次背マールの乱
イーセの大乱 第三公使の密輸密売
猩々団の侵入と撃退 オンダンテ伯の大乱 ・・・・・・・・・・
ついこの間まで大学入試で必死に覚えた歴史のイベントが、
僕の頭の中で、列をなしてパレードしていた。
帝国史の教科書には必ず記載される、ここで起こったとんでもない歴史の重み。
それらの出来事がまるで僕に語りかけてくるような気分になる。
歴史と供にある街だった。
そのあこがれの街を僕は訪れている。
できれば車窓に顔をくっつけて見てみたかった。
そんな様子の僕に海軍の将校さんが声を掛けてくる。
「面接が終われば、時間的余裕を作る。
その時に、帝都を観光したまえ。
帝都観光のリムジンバスがある。
観光にはそれを利用したまえ。
けっこう帝都観光のツボを押さえたコースになっている」
よっぽど僕はお上りさんの顔をしていたのだろう。
まあ、お上りさんには間違いないか。
ここに来る経緯は憤る事だらけだったけど、経緯はどうあれ、とにかく
今見えている街並みは、旧市街の中でも帝都の生活区というのだろうか。ごく普通の一般の人々が暮らす街並みだった。
もっとも、僕の田舎に比べればはるかに洗練されている街並みだよね。
そこにはやっぱり帝都ならではというか、田舎臭さは全くない街筋で、多くの人々が朝の喧騒の中、ある人は自分の職場へと、ある人は学校へと急いでいた。
普通の人々が普通に、日常生活のルーチンワークをこなしている、そんな景色が僕の眼に映っていく。
車はなんどか右折左折を繰り返して、生活道路と思われる道に入っていく。
看板が出ていた。
3階建ての大型の駐車場だった。
そこへ車は入っていく。
助手席にいる憲兵さんが、グローブボックスから何かを出して、駐車場係員に提示している。
チラッと見えた。
帝都警邏隊公務許可の文字 ・・・・ 許可証らしい。
そのまま、一階の公用と書かれている一画に車を止めて、ドアが開いていく。
おいおい 朝めし食うのによ 公務かよ
もう一人の僕が渋い顔で僕にぼやいてくる。
仕方ないだろ、
飯も食わなきゃいけないし、トイレもいかなきゃならないだぜ。
24時間まるまる公務なんて、おまえはしたこともねーべ。
もんく言うのは筋違いべ。
そう言ったら、もう一人の僕は渋い顔のまま黙り込んだ。
車を降りたら、やっぱり寒い。
でも昨日の飛行機から降りた時の寒さに比べればまだマシだった。
防寒マントを着ていて正解だった。
駐車場を出て、一筋通りを抜けるとそこが
屋根付きの市場、道に沿って、その両側がいろんな店になっている。
その入り口の幅は
僕が乗った車が止めている大型の駐車場があるからか、当然のように市場はその入り口から車両進入禁止になっていた。
朝市ではないけど、24時間営業の店が多いからか、混雑というほどではないけど、それなりの人通りはある。僕はその中をあの海軍将校のあとを付いていく。
そこは長い歴史で築かれた街中だから、変な表現だけど、そこに住まいする人々の生活の匂いをたっぷりと吸い込んで発酵している、そんな雰囲気を持っている通りになっていた。
僕の田舎も古い街中はちゃんとあるけど、ここは歴史という時間が他の街よりも圧倒的にでかくて長い。だからか、より独特の雰囲気になっている。
ある程度進んでいくと、道が狭くなっていく。だからか、人と人の間隔が当り前だが小さくなり、それが「喧噪の中」と言うぐらいになっていく。
地元の買い物する人や観光で訪れている人々、大声で売り込みをしている商人、それらが混然一体として
たまご屋、とり肉屋、なべ屋、香辛料やスリッパにタオル。いろんな物が売り買いされている。
なべ屋と書いたけど、それって金物屋じゃね、そう思うだろう。
そこは専門店なんだね。店頭でしか見ていないけど、鍋しか売っていなかった。ただね、いろんな鍋をそれこそ店頭に上から吊るしたり、壁にきれいに張り付けるように展示したり、これって鍋?と思うモノもあったりする。
見たら判ると思うけど、金物屋じゃなくてなべ屋としか言いようがないのよね。
店頭には店員が張り付いて、お客に売り込んでいる。僕たち一行を見てギョッとしていた。
憲兵と海軍将校、んで、僕。
まあね、一般市民の恰好じゃないもんね。
全員私服ならば愛想笑いの一つもあるだろうけど、やっぱり、場違いだね。
なにしろ、憲兵が3人もいるし、海軍将校に似非陸軍だもんな。
なんで憲兵?と言う奇異な視線を向けられつつ、市場の中を歩いていく。
人数が人数だけに、ある種の
しばらく行くと、とある四つ角にその店があった。
ちょっとくたびれた雰囲気の店、それが有名な老舗
だからか、オープンカフェみたいに、店の前にテーブルと椅子が置いてある。
ただ、テーブルも椅子も、統一した物を用意している訳じゃなく、バラバラの物を置いてある。それが独特の雰囲気を出しているのは間違いない思う。
席数そのものが多くない、だから店中の席は満席になっていた。だから、店の前のテーブル席になる。それでも、僕たちが固まって席を確保するなんて無理だった。
僕と海軍将校さんとなんとか対面の席に座る事ができた。憲兵さんらは結局バラバラに相席で座る事になる。
海軍将校さんが朝食のセットでいいねと僕に聞いてくる。僕が頷くと海軍将校さんは朝食セットの特上を5人前注文していく。
僕が特上?とびっくりすると、その将校さんは「観光客向けの豪華朝食らしい、私もまだ試したことはない、これをきっかけに食べたいと思ってね」。
少し言い訳みたいに僕に言ってくる。
豪華朝食が食える。
ちょっとだけ気分がイイ。
注文してからすぐに朝食セットがやってくる。
豪華だった。
なんだろう、ヤマドリ? それの姿焼きにエビとかタコとか、それの煮たもの、いわゆる海鮮煮だと思う。それとソンマ芋のサラダかな? そして山菜粥だった。
「ここのヤマドリの香味焼と山菜朝粥が旨いのだよ」
そんな声がお店の方から聞こえる。
たぶん目の前の姿焼きがそれなんだろうね。
いい香りがする。香ばしい焼きの香り。ものすごく食欲をそそる。
ヤマドリの美味い事、香ばしくて噛みこごちがものすごくイイ。
肉の旨味が口いっぱいに広がる。海鮮煮は磯の香りが素晴らしい、そこに山菜粥の香りが重なり旨味が倍増していく。
なるほどね、特上の名前が付くわけだ。たぶん、高い朝食と思う。
価格の事は考えるのを止そう。
うまいわ。
僕は朝粥を食べながら、店のまわりをよーく見てみた。
老舗のその店に応じてというか、周りの店もやっぱり歴史を感じさせる雰囲気を持ってた。
旧市街だから、僕が最初に見た秩序だった街中なんかじゃない。
雑多な構成に見えるけど、そこはやっぱり独特のルールに沿った店の並びになっている。
お店の間口が、全部同じ間口に統一されていた。
そんな雰囲気の中で取る朝食はうんまい、美味いじゃなくて、うんまい。
老舗だけあって、ものすごく満足がある朝食だね。
ここで朝食を取る人は、なんか・・・こう・・・今から[ちから]を出すためにここに来ている気がする。
食事を進めていくさなか、視界の端にあった街道の奥、その奥の四つ角に男が現れた。
男が必死で走っている。
なんだ?
朝粥を食べながら、なんとなくその男を視界にとらえていた。
小脇に何かを抱えて必死の形相だった。
その男はチラッと後ろを見て、マズイと思ったのか、少し方向を変えて
遠くからどろぼうの声、アッと思った。
瞬間、僕の右手が、斜め横にあった椅子(たぶん予備のイスなんだろう、2段重ねになっていた)をひょいと突き出した。
よし。 命中。
よーしよし、盛大に転んだよ、その男は。
あの若い方の憲兵さん二人が飛び出したよ。
すんげー。
右手を一振りしたら、シャキーンという音。
魔法の様に警棒を持っていた。
どこから出した?
袖に仕掛けてあるの?警棒?
伸縮する警棒なの?
若い憲兵さんはそいつに馬乗りになって殴りつけていく。
厭な音がする。
ガス、ガス、ガスッと鈍い音がする。エグイわ、頭と顔面を殴っている。
警棒で殴られるとあんな音なんだ。
ゾッとする。
倒れた男の顔に一筋、青黒い打痕が付いていた。
太ももにあるポケットから出した手錠をカシャと音と供に男の右手に掛ける、ものすごく素早い動作だった。
もう一度、ガスッと警棒で殴りつけて、男をうつぶせの状態にしていく
左手をグイッと掴み、開いている手錠を掛ける。
一瞬だった。でその憲兵さんは転倒した男を両手を後ろにして手錠を掛けてしまう。
全体の動きが訓練のたまものだよな。ものすごく素早い動作で、その男を捕縛していた。
男は苦痛に顔を歪めていた。
身体を動かそうとすると、容赦なくまた警棒で打撃を加えられている。
「動くな、動くと殴る」
そう言ってもう一度、ガスッと殴ぐりつけていく。
こえーよ、ゴンゴンと警棒で殴りすぎると死ぬよ。
容赦なく殴るのね、憲兵さんは。
んで、さらにエグイのはもう一人の憲兵さん。
殴っている憲兵さんから、少し離れて、中腰で両の手を握って突き出していた。
んっ ・・・・・
両の手には短銃が握られていた。
こえーよ。
あんた、拳銃なんか持って無かったじゃん。
どこから出したの、その拳銃。
よく見ると警官が用いる回転式短銃じゃなかった。
回転式短銃より小型の拳銃だった。
それを構えていつでも発砲できるように本気モードバリバリだった。
とにかく、万が一に備えてその憲兵さんは
たぶん ・・・・ たぶん、男が刃物なんかを振り回したら撃つつもりなんだろうな。
構えた身体からは、
[ オレは危険だぞ 誰も近づくな 容赦はしない 万が一には絶対に撃つ ]、
そんな目に見えない警告色、そんなモノは無いけどね、それをブンブンと出していた。
んで、あの指揮を取っていた憲兵さんはと気になった。
あの指揮を取っている偉いさんの憲兵さんは、仁王立ちで現場を観ていた。
状況全体を俯瞰している、そんな感じだった。
僕が視ているから、自然と眼が合う。
偉いさんの憲兵さんは僕の視線にうんと頷いて、「よくやったな。
大したもんだよ、そいつは指名手配されているひったくり犯だ。
現行犯逮捕だな。金一封がでるぞ」
おうっと、金一封 ・・・・・
喜んでいいのだろうか。
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