第16話

 プロローグ16



 ジリリン ジリリン ・・・・


 目覚ましが鳴っている。

 ねむい ・・・・・・


 起きなくちゃ ・・・・・

 朝、7時。

 必死で顔を上げる。

 昨日、寝たのが真夜中の2時だったよね。

 睡眠時間5時間か。

 うん、5時間寝りゃ何とかなる。

 なんとか、ベットから出て、そのまま、シャワーだよ。

 ボウッとした頭に熱いシャワー浴びる。

 熱いシャワーが眠気を流してくれる、そして、歯磨き。

 シャコシャコと歯を磨く。歯磨き剤の爽快感が清々しかった。

 ここの歯ブラシとかタオルアメニティセットなんか、高級品だと思う。

 海軍のホテルか。

 なんでここに? ・・・・・

 考えても答えが出ないな。

 なら、考えるのやめよう。


 あのもふもふの高級タオルで顔を拭く。

 使い心地がものすごくイイ。

 たぶん、市価はものすごく高いだろうな。学生はもちろん一般の人でも、

 こんなモフモフのタオルを普通に使えるのは金持ちしかないよ。

 だいたい、海軍のゲストハウスなんて一般人にはカンケーない処だよなあ。


 雑嚢に大佐が入れてくれていた入隊セット。

 入隊セットには作業服上下のセットがあと2本余裕がある。

 陸軍の作業服か、自分の服、どっちにするか。

 真新しい作業服を着こむのも、なんとなく癪にさわるね。

 かと言って自分の服を着るのも、なんとなく違う気がする。

 昨日まで着ていた陸軍の作業服とズボンは、トンネルの埃で少し汚れている。


 今日は責任者が来るらしい。

 敢えて、この汚れたままの恰好でいよう。

 だから、昨日着ていた汚れた作業服を、僕は着こんだ。

 まあ、我ながらわざわざ汚れた作業服を着こむ自分の性格。

 やっぱりというか、ちょっとひん曲がっている気がする。


 あのニヤニヤ笑いの僕が、また、薄笑いで僕を見ていた。


 かまわねーよ それもお前だよ


 そう、言ってくる。


 くそっ、反論できねーよ。


 コンコン、コンコンとノックの音。

 どうやら、お客さんが来たみたいだね。

 汚れた作業服を着こんでベットに腰かけた。


 コンコン、コンコン。

 無視だ。 無視。


 コンコン、コンコン。


 ノックが続く。

 無視だ、無視、無視。

 無視してやる。


 コンコン 、 コンコン 、 コンコン 、 コンコン 。


 ドアノブが、ガチヤガチヤと回る。

 うん、開かないよ。

 僕がロックしたからね。

 合鍵を持ってきてもね、チェーンをしているよ。

 だからね、そこは開かないよ。


 ふふん、ざまぁと思っていたら、目の前の壁の一部がパカッと開いていく。

 くそ。

 びっくりするじゃねーか。

 ただの模様というか、装飾なんだろうと思っていた部分が扉になっていた。


 なんだ、この部屋はコネクティングルームなのか。

 しかも、こちらからは開けられない。向こうからは出入りできるって、忌々しい。

 二部屋をドアで仕切っている部屋なんだよ、コネクティングルームって。

 僕を警備すると言う話はコネクティングルームを使うところかも本当まじかよ。

 めんどくさい話だ、迷惑だよ。


 入ってきたのは、あの憲兵さんだ。昨日の夜、最初に立哨警備立ち番をしていた人だ。

 僕を見てニヤリ。

 まるでお前のやる事はお見通しよという顔だった。

 だけど、その憲兵さんの視線は、敵意に満ちた視線ではなくて、

 僕のやる事を面白がっている視線だった。

 そのまま、ドアの所まで行きチェーンとロックを外して、ドアを内側から開けてしまう。


 海軍将校?

 海軍の高級将校らしき人が、困惑した顔で立っていた。


 そのまま部屋に入ってくる。


 僕は敵意を込めて視線を送った。

「おはよう」

 声が掛かる。もちろん、無視だ。

 困惑した顔で僕を見ていた。

 視線が僕から、あの偉いさんの憲兵さんへと移行していく。


 その視線は[ 彼は何を怒っている ]という視線だった。

 視線を向けられた偉いさんの憲兵さんは、ニィとばかりに右の口角を少しだけ上げていく。

 もちろん、その表情は

[ こいつを手懐けるのはアンタの仕事だぜ ]だった。

 厭な間が続く。

 うん、でも構わない。

「ううん ・・・ うん」

 その海軍将校らしい人は軽く咳払いをして僕に話しかけてきた。

「君はここに来るまでことで、かなり憤っているようだね。

 すまない。

 責任者として謝罪する。

 どうしても、君の協力が必要なので、少々強引な形だが来てもらった。

 この通り、すまない」


 その海軍将校らしい人が、ベッドに腰かけている生意気な姿勢でいる僕に頭を下げ謝罪していた。

 あの偉いさんの憲兵さんの表情が面白かった。

 おっ、謝るの 海軍さんが やるね 

 こんな感じだった。

 

 そして、その偉いさんの憲兵さんが、僕の顔を見ている。

 その憲兵さんは眼でこれぐらいで勘弁してやってくれと ・・・・

 表情がなんとなくオカシイ ・・・・ わざとしていると思う。

 部下の若い憲兵さんはなんとなく笑いを堪えている気がする

 たぶん、必死で無表情を作っている、そんな気がする。


「わかりました。

 頭を上げてください」

 僕の言葉にホッとした感じになっていた。

「すまないな。

 中尉、彼は朝食は済んでいるのかな」

 あの偉いさんの憲兵さんが首を横に振る。

「説明があったと思うが、面接の為に君を迎えに来た。

 朝食はまだのようだね。面接に入る前に朝飯を取ろう。

 警護の君たちも、朝食はまだだな。

 みんなで一緒に」


 その言葉に釣られて、腰を上げたよ。

 腹が減った、わざわざ朝飯を食おうって事は美味いモノを食えるって事だよね。

 帝都で初めての朝飯、期待してしまうよな。


 あの昇降機エレベータで下に降りて、自動で動く扉の玄関魔法のエントランスへ。

 機会があれば、この自動で動く扉の玄関の仕組みを聞いてみよう。

 こんなモノ、僕の田舎はもちろん大学にもない。

 どんな機械仕掛けになっているの、ものすごく興味がある。

 近づく人体を何かで検知して、そして、ドアを開けているのだろうけど、

 検知方法とドアの駆動処理なんかどのようになっているのだろうか。

 玄関エントランスのすぐ横に、昨日の高級車が用意されていた。

 若い憲兵さんが小走りで乗り込み、玄関エントランスへと車を移動していく。

 あの海軍将校さんが乗り込み、続いて乗れと指図される。

 乗り込むと、あの偉いさんの憲兵さんが乗ってくる。

 昨日みたいに、後席の真ん中に座る形で高級車は走り出していく。

「少佐殿、どちらへ廻しましょうか」

「そうだね、中尉。

 旧市街市場オールドスークへ行こうか。

 旧市街市場オールドスーク満月亭ガストハウスフォルモーントで朝飯にしよう」

「判りました。満月亭ガストハウスフォルモーントですか。

 いいですね、安くてうまい店ですね。

 伍長、道はわかるか」

「はい、だいじょうぶです」

 満月亭ガストハウスフォルモーント ・・・・ 聞いたことがある。

 たしか、かなりの老舗だったはず。

 有名な店で24時間営業をウリにしていたかな、ちょっと記憶が曖昧だけどね。


 朝の帝都を走り出していく。

 その車から見る外の景色は、大都会だった。

 朝日がキラキラと街並みを照らしていく。

 キレイだった。

 ホントなら窓に顔をくっつけて見たいのだが、生憎後席の真ん中に座っている。

 見にくいけど、車の外の景色は田舎育ちの僕にとってすんげーと思うモノばかりだった。


 今、車が走っている道路、贅沢な道幅だった。

 6車線の道路、歩道も2車線ぐらいの広い歩道。

 建て並ぶ諸々の建物、10階から12階だろうか。

 その調和のとれた建物の配置にも圧倒されてしまう。

 外灯のすらりと伸びたその姿、街路樹もゆったりとして植えられている。

 ゴミなんかまったく落ちていない。

 僕の田舎なんかと比べようもない清潔感。

 すごい処だね。

 帝都のどの辺を移動しているか、ぜんぜん判らないけど、

 僕の眼に入る帝都の姿は圧倒的な姿だった。

 僕がお上りさんよろしく、外の景色に目を奪われているのをあの偉いさんの憲兵さんが

 トントンと肩叩く、「あれが宮城ゾンネパラストだ」の言葉と共にさし示してくれる。

 指差す方角には宮殿ドームとそれを護るように4本の尖塔シュッツワフトアムが見える。

 写真でしか見たことのない宮城、窓越しだけどそれが僕の眼に映っている。


 やっぱりここは帝都なんだ。


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