21話 今、魔物を追い払うから待っててね

 キッケルの町へたどり着くと僕たちは真っ先に冒険者ギルドへと向かった。


「はぁ……、いらっしゃいませ……」


 カウンターで頬杖をついて、大きなため息を吐くお姉さん。

 もの憂いているその表情。何か恋い焦がれているように見える。


「ただいま。少し帰ってきました」


 お姉さんに挨拶をすると、僕の顔を見て、目を大きく見開いたあと、慌ててその場に立ち上がっていた。


「リーノくん!? う、うそ……? ほ、本当にリーノくん!?」


 信じられないようなものを見た顔で覗き込むように僕を見てくる。


「はは……、長期休みになりましたので少し帰ってきました」


 はにかんで見せるとお姉さんは嬉しそうに大声を上げる。


「みんなー、リーノ君が帰ってきたわよー!」


 すると周りに座っていた冒険者たちが驚き、慌てて立ち上がった。


「おう、よく戻ってきたな」

「なんだ、学園はどうしたんだ?」

「それよりそっちの可愛い子たちはどうしたんだ」


 冒険者の皆々が思い思いに僕の頭をもみくちゃにしていく。

 そんな僕の様子を見てシーナたちが苦笑していた。


「リーノ君……すごく人気だね」

「……そうだね。なぜか昔からこんな感じだったんだよね」


 そして、ようやく解放された僕は二人の元に戻ってくる。

 するとお姉さんが近づいてくる。

 その手にはいくつかの料理が握られながら……。


「リーノ君はこの町で唯一の子供だったからね。ここまでなら途中で分かったと思うけど、なぜかこの町の周りには強い魔物が生息してるから……」


 強い魔物……。たしかに黒龍王が近くにいたりとかしてたよね。

 そう考えると意外と危険な町だったのかも……。


「でも、くる途中は弱い魔物しか会いませんでしたから」

「……ドラゴン」


 マシェがボソッと呟くとお姉さんが全て理解したようでため息を吐いてくる。


「うん、リーノ君の感覚はずれてるから……。でも住んでたところがね……」


 遠い目を見せるお姉さん。


「あっ、そうだ。これから家の方へ行くつもりなんですけど、まだ残ってますよね?」

「流石にあんなところまで行ける人がいないからわからないですよ」


 たしかに森の中にあるもんね。わざわざ行く人もいないのかな。


「わかりました。実際に行って確かめてきますね」

「でも、リーノ君だけじゃなくて、二人も行くの?」


 お姉さんはシーナたちに視線を向ける。


「ど、どういうことですか?」


 シーナが恐々と確認を取る。

 ただ、お姉さんは少し考え事をしたあとに「リーノ君が一緒なら大丈夫か……」と結論づけていた。


 ◇


 冒険者ギルドを出た僕たちは森の方へ向かって歩いていた。


「ねぇ、リーノ君。さっきのお姉さんが言っていた私たちも行くの? って言うのはどういうことなの?」

「うーん、僕の家の周りは森だから魔物が生息してるんだよね……。だから危ないよと言いたかったのかも……。でも、僕の家には魔除けの結界が張ってあるみたいだから安全だよ」


 安心させるようにそのことを伝える。

 ただ、あの結界は誰が張ったのかわからないんだけどね……。


「とりあえず少し音がすごいけど、気にしないでね」


 それだけ伝えると近づいてくる魔物たちに向かって魔法を放っていく。


 ドゴォォォォン!

 ドゴォォォォン!


 森の周りに爆発音が響く。

 ただ、その音を聞いても魔物たちは近づいてくる。


「……あ、あれはAランクモンスターのサンダーホース?」


 頭に生えた一本のツノから電気が流れている青い毛並みの馬が近づいてくる。

 でも、次の瞬間にその馬も爆発に巻き込まれて倒れていた。


「今魔物を追い払ってるから少し待ってね」


 相変わらずここにいる魔物は数が多いなぁ……。

 あまり強くないから魔法一発で倒せるけど……。


「追い払うって……」


 そんな僕の様子にシーナたちは呆れすら通り越して、乾いた笑みを浮かべていた。


 ◇


 しばらく歩くとようやく僕の家が見えてくる。

 何も変わらずにそこに存在する家にどこかホッとする。

 そして、後ろを見るとシーナたちの姿が消えていた。


「あれっ、シーナ? マシェ?」


 キョロキョロ周りを見渡すけれど、二人の姿は見つからなかった。

 どういうことかと周りの魔力を調べてみる。

 すると二人の反応をキッケルの町付近で発見する。


 もしかして、この家には僕しか入れないの?

 たしかに結界は張ってあるけど、それは魔除けのものだと思ってたけど、来客すら除いてしまうんだ……。

 とにかく二人も驚いてるだろうから早く町に戻らないと!


 ただ、僕の家を見たがっていたので何冊か置いてある本を手に取ると大急ぎで僕は町へと戻っていった。


 ◇


「あっ、リーノ君……。よかった、気がついたらリーノ君の姿がなかったからびっくりしたよ」


 シーナがホッと言葉を漏らすとマシェもそれに呼応し、頷いていた。


「ごめんね、言ってた結界に来客も除く効果があったみたいで……。でも、うちにあった本はいくつか持ってきたよ」


 タイトルも見ないで適当にとってきたので、どんな本かはわからないが、あの家にある本なら見たことはあるものだろう。


「……『最上位魔法の極意』『魔力向上方法』『無意識に体を鍛える方法』」


 マシェが本のタイトルを読み上げていく。

 そして、呆れたように言ってくる。


「これ、全部国庫に保管されててもおかしくないほど貴重な本なの。こんなものがリーノ君の家にあることがおかしいの」


 ただ、中身は気になるようでパラパラとめくったあと、無我夢中に本の中身を読んでいた。

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