20話 平和だなぁ……(ドラゴン肉を食べながら)
対抗戦の決勝から数日が過ぎた。
学園対抗戦のメンバーが確定したとライズが伝えてきた。
そして、彼に案内されるがままついて行くとそこにはカリナ先輩と見たことのない男性がいた。
「よろしく、リーノ君。俺はアランフォート・ルーナーだ。気軽にアランと呼んでくれ」
男性の方が頭を下げてくるので、つられるように僕も頭を下げる。
「よろしくお願いします。僕はリーノ・ルクライドと言います」
「あぁ、知ってるよ。まさかカリナを圧倒する人物がいるなんてな」
アランが僕の肩をパンパンと叩いてくる。
あ、あの……、カリナ先輩がすごく怖い顔をしてるんですけど……。
「とにかく、学園対抗戦では頑張っていこう!」
「はいっ」
メンバーで軽く自己紹介をした後、次に会うのは学園対抗戦が近くなったときということで解散になった。
◇
教室に戻ってくるとシーナ達が近付いてきた。
「リーノ君、代表おめでとう」
「……おめでとう」
二人からお祝いを言われて少しむず痒くなってくる。
ちょっとやり過ぎたかなと反省していたのだけれど、全く問題なさそうだった。
「それより、リーノ君!」
シーナがすぐ近くまで寄ってくる。
「えっと、何かな?」
「長期休暇の時にリーノ君の家に連れて行ってくれるって言ったよね? 明日から二週間、休みなんだよ!」
「連れて行ってくれるよね?」
シーナとマシェがどうやらそのことを楽しみにしていたようで期待のこもった目つきを向けてきた。
「そうだね。それなら一緒に行こうか」
その言葉を聞いてシーナ達は笑みをこぼしていた。
◇
翌日、僕達は馬車に揺られてキッケルの町を目指していた。
「なんだかのんびりした旅だね」
いつもならピューッと空を飛んでいってしまうために馬車での旅は逆に新鮮でわくわくしていた。
でも、シーナは顔色を青くしていた。
「リーノ君は馬車にも強いんだね……。マシェも……。私は弱くて――」
馬車の外に顔を出して苦しそうにするシーナ。
「――私は乗り物酔いはしたことないから」
どうやら乗り物で酔ってしまう人がいるらしい。
病気か何かなら回復魔法で治らないかな?
「シーナ、ちょっとごめんね」
「……うんっ」
シーナが頷いたのを確認した後、僕は背中をさすりながら直接回復魔法をかけていく。
するとシーナの顔色が一瞬で治る。
「あ、あれっ……?」
シーナが驚きの表情を浮かべる。
その顔色はすっかりよくなっていた。
「なんかすっかりよくなったよ?」
「うん、病気みたいだったから回復魔法を使ったよ」
「……普通の回復魔法じゃ酔いは治らないの」
マシェがポツリと呟く。
「ありがとう、リーノ君! おかげで旅が怖くなくなるよー!」
シーナがギュッと抱きしめてくる。
「治ったのならよかったよ。これで安心して旅が出来るね」
僕達はそのあともゆっくり馬車に揺られながら進んでいった。
ちょうど暖かい気候で、吹く風がとても心地よかった。
そんな中、ゆっくりと進む馬車。
遠くから聞こえるワイバーンの咆哮。
うん、平和だなぁ……。
ウトウトと眠りにつきそうになる。
ただ、そんなとき、シーナが必死になって僕を揺さぶってくる。
「リーノ君、ワイバーンが襲ってくるよ!?」
「ワイバーンでしょ? 大丈夫だよ……」
再び微睡みの中に落ちようとすると再びシーナに揺さぶられる。
「ワイバーンに襲われたらこの馬車なんて簡単に壊れてしまうよ!!」
馬車を壊されるのはまずいよね……。
とりあえず僕は指を鳴らす。
するとその瞬間にワイバーンが爆発して地面に落ちていった。
これでもう問題ないだろうな……。
大きな欠伸をすると再び僕は微睡みの中に落ちていく。
◇◇◇◇◇
(シーナ)
もう、リーノ君は!
ワイバーンが襲ってきてるのになんでのんきに寝てられるの!
確かにリーノ君ほどの強さがあれば簡単にワイバーンを倒せるかもしれないけど、寝てる間に襲われたらどうすることも出来ないでしょ!
こうなったら私がリーノ君を守らないと!
グッと両手を握りしめるとシーナは襲い来るワイバーンに備えていた。
すると突然爆発音が響き、何かが地面に落ちたような鈍い音が聞こえてきた。
よく見るとリーノ君が指を鳴らしていたみたいだった。
やっぱりリーノ君はリーノ君だね。すごく強いのにそれを表に出そうとしないで、たまに失敗すると舌を軽く出してはにかむ。
その仕草が可愛くて……。でも、なんだかあっという間にどこか行ってしまいそうで不安で……。
今日、リーノ君の家に行くのも少しでも彼のことを知りたいと思ったからだもんね。
すやすやと眠るリーノを見ながらシーナは小さく微笑んでいた。
◇◇◇◇◇
数日間、馬車で揺られてようやくキッケルの町が見えてくる。
まぁ、特にトラブルらしいトラブルも起こらずに到着できてよかったかな。
ドラゴン肉を食べながらのんきにそんなことを考えていた。
「ど、ドラゴンなんて初めて見た……」
「……すごい魔法だった」
シーナ達はなぜか青白い顔をしていたが、それを気にせずに僕は口を動かしていた。
ただ、ドラゴンはさすがに馬車には乗らなかったので僕の魔法で馬車の上をふわふわ浮いていた。
「うん、平和だなぁ……」
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