19話 学園一の実力者相手なら全力をだそうかな?

 それから僕は毎日いろんな学年の人と戦っていった。

 ただ、初めに勝ってしまったことで変な注目が集まってしまって妙に居づらかった。


「しょ……、勝者、リーノ・ルクライド……」


 驚きの表情を浮かべながら勝利宣言をする教官。

 僕は防御魔法を使っていただけなのだが、相手が魔力を使い切って降参する……という戦闘をずっと繰り返し続けていた。


「リーノ……、さすがに相手を殺すなとは言ったが、攻撃するなとは言ってないぞ……」


 戻ってきた僕をライズは呆れた表情で迎えてくる。

 それでも、僕が勝ち上がっていったことでどこか嬉しそうではあった。


「次は決勝だね。相手は誰なんだろう?」

「私が相手だ!」


 リーノ達の前にやってきたのは赤い長髪を後ろでくくった長身の女性だった。


「こうやって見ると意外と小さいな。でも、お互い決勝では良い試合をしよう」


 手を差しだしてくる女性。それを握り返すと女性は嬉しそうな顔をして去って行った。


「……あの人、学園一の実力者ですでにBランク冒険者より強いって言われてるカリナ先輩――」


 どうやらマシェが知っているようだった。

 学園一の実力者か……。

 それなら思いっきり戦っても大丈夫そうだよね。


「リーノ君、何笑ってるの?」


 シーナが不思議そうに聞いてくる。


「うん、ひさびさに思いっきり戦えそうな気がして……」


 説明してる途中で口をつぐむ。

 あれっ、これってもしかして……僕が危険な人物になってない?

 戦うことが好きな戦闘狂のような説明に思わず頭を悩ませる。

 ただ、シーナは僕が悩んでいることなんて気にした様子はなく、言ってくる。


「そうだよね、やっぱり戦いは楽しまないとね」


 笑顔を見せながら言ってきたので、僕は少し困惑してしまった。

 思いっきり戦う方が普通の人っぽいのかな?


「とにかく頑張ってね。応援してるから」

「うん、全力で頑張るよ!」


 グッと両手を握ってみせる。

 するとシーナはにっこりと微笑んでくれた。


 ◇


 翌日、ついに対抗戦の決勝。

 僕の向かいにはカリナ先輩が剣を構えていた。

 その堂々とした姿は思わず見惚れてしまいそうなほどだった。


「まさか君が上がってくるとは思わなかったよ。でも、入学したばかりの君が相手でも手加減はしない。全力でいかせてもらうよ」

「えぇ、僕の方も全力・・でいかせてもらいますね」


 お互い微笑んだ後、少し離れた位置で向かい合う。


「では、試合開始!」


 教官の声と共にカリナ先輩は駆けだしてくる。

 ただ、その速度はかなり速かった。

 そして、振り下ろしてきた剣を腰に差していた短剣で受け止める。


 アデルの剣ですら軽々切ってしまった短剣だけど、カリナ先輩の剣は切ることができなかった。


「なるほど、詠唱破棄の身体と物質強化ですね」


 カリナ先輩が使っている魔法を言い当てると彼女はさすがに驚いた様子だった。


「すごいな。一瞬でわかるものなのか」

「えぇ、僕も同じことが出来ますので」


 それだけ言うと僕も一瞬でカリナ先輩の後ろへと移動する。

 ただ、それは読まれていたようで振るった短剣をあっさり受け止められてしまう。


 うーん、やっぱり接近戦で戦うと強いなぁ……。

 でも、これなら思いっきり戦うことが出来るかも。


 にっこりと微笑むとカリナ先輩は少しだけ眉をひそめた。


「ほう、まだ笑う余裕があるのか」

「えぇ、ここからが本番ですよ」


 短剣をしまい込むと指をパチッと鳴らす。

 その瞬間にカリナ先輩の元に雷が落ちる。

 ただ、高速で動けるカリナ先輩は、それをあっさりと躱してしまう。


 でも、少し苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべていた。


「まさか、君は身体強化だけじゃなくて全ての魔法を詠唱破棄できるのか――?」


「えっと、僕は詠唱ってしたことがないんですよね……」


 やっぱり詠唱して魔法を使う方が普通なんだ……。

 最近シーナも詠唱破棄できるようになっていたから気にしていなかったけど、できるだけ詠唱をするようにしよう。


「そう……か。それならば次で決めてやろう。これが正真正銘、私の全力だ。受け止めきれるか?」


 カリナ先輩が自身に魔力を込めていく。

 グッと両足に力を入れて、構えている。

 今攻撃したらあっさり勝てそうだけど、それはダメだよね。

 カリナ先輩も受け止められるかと言っていたから防いだ方が良いよね。


 僕はカリナ先輩の準備がおわるのを待っていた。

 それを見たカリナ先輩はにっこりと微笑む。


「君ならそうしてくれると思ったよ。これで安心して全力で挑める!」


 言葉を告げたカリナ先輩。その瞬間にその姿が消える。

 でも、僕の前でその動きが止まっていた。


「な、なんだと!?」


 驚きの表情を浮かべるカリナ先輩。

 急いで距離を開けていた。


 全魔力を足に集中させての超高速の突き……。

 さすがにいきなり来られたら大変だったかも。

 えっと、こんな感じだったかな。


 僕も同じように足に魔力を集中させる。

 そして、そのまままっすぐ突っ込んでみる。


 魔力を込める時間はカリナ先輩がしたよりもはるかに短く、ほぼ一瞬と言えるくらいだった。

 それでも移動速度はカリナ先輩のそれよりはるかに早かった。


 一瞬で彼女に詰め寄るが、うまくコントロールが効かずに、微妙に逸れて訓練場の壁に激突してしまう。


「いたたたっ……。なかなか扱うのは難しいね」


 その場で起き上がるとカリナ先輩に向けて言う。

 すると彼女は乾いた笑みを浮かべていた。

「なるほど……。私の遙か高みを……。この試合、私の負けだ」


 カリナ先輩が素直に負けを認めると訓練場内が一瞬固まった。

 そして、次の瞬間に爆発したように大歓声が響き渡った。

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