18話 上級生相手ならちょっと本気になっても問題ないよね?
結局僕達は長期休暇を利用して、家の方に来て貰うことになった。
それまでは普通の学園生活を……と思っていたのだが、ある日、突然ライズが神妙な顔つきで言ってくる。
「今度、学園対抗の試合があるんだが……それに出るものを選抜するための対抗戦がある。出たいものはいるか?」
するとみんな一斉に僕の顔を見る。
「まぁ、そうなるよな……。ではリーノで決まりだな」
えっ、僕何も言ってないんだけど……。
でも、みんな納得したように頷いていた。
「その……対抗戦ってどんなことをするのですか?」
「一対一で戦って貰うだけだ。まぁそうだな……。相手は殺すなよ」
不安そうな視線を送ってくるライズ。
僕にだって手加減くらい出来るのに……。
「そんな危険なことをリーノ君にさせるのですか?」
シーナが手を上げて聞いてくれる。
「いや、本来は学園長が治療してくれるから命に別状はないんだ……。ただな――」
ライズが僕の顔を見て、大きなため息をつく。
「相手を殺すなよ、くれぐれも……」
「殺人狂みたいなことを言わないでくださいよ。僕はそんなことしないですから」
「はぁ……」
再びライズが大きくため息を吐いた。
「まぁ、相手は他のクラス、学年になる。対戦相手は毎回ランダムで、一度当たったらその日はもう当たらない。それを複数回繰り返して学園代表を決めるんだ。まぁリーノだろうな……」
上の学年の人も出るのか……。
それなら入学したばかりの僕より強い人はいくらでもいるだろうな。
同じ学年の人にはダメだけど、上級生相手ならちょっと本気になっても問題ないよね?
おかしくない範囲で……。
「それでその対抗戦っていつあるのですか?」
「今日の午後からだ」
「えっ!?」
思わず僕は聞き返してしまう。
決めてそんなにすぐに試合するものなんだろうか?
「入学生はいつもそうなんだ。まぁ、入学生が勝つことはほとんどないから記念試合プラスこの学園にいるとどのくらいの実力が付くかと言うのを見せることが目的なんだろうが……」
ライズが僕の顔を見てくる。
なるほど……、この試合は負けるのが普通なんだね。
うん、それならさっと負けてしまおうかな。
◇
昼になり、僕達はライズに連れられて訓練場へとやってきた。
向かいには見たことのない生徒達。おそらく上級生なのだろう。
そして、周りには別の生徒達が観戦していた。
「今度は最上生と入学したばかりの生徒か……」
「可哀想だね。これで止めてしまわないといいけど」
「……もしかして、新入生が勝つかもね」
「あははっ、そんなわけないでしょ」
散々な言われようだったけど実際そういうものなのだろう。
「では、対戦者は前へ」
真ん中に立っていた別の教官が声をあげた。
「くれぐれも相手を殺すなよ」
ライズは前に出ようとしていた僕を再び注意をしてくる。
「大丈夫ですよ。頑張って負けてきますから!」
それが普通なら僕は頑張って負けようと前に出る。
「お、おいっ、負ける必要は――」
ライズが慌てて止めようとするが、気にせずに前へと進んでいく。
向かいには僕より背の高い女性が笑顔を見せていた。
「やっぱり入学生は可愛いわね。でも、手加減はしないからね、胸を借りるつもりでかかってきなさい」
「はいっ、よろしくお願いします」
僕がお辞儀をすると女性はクスクスと微笑む。
「では、試合開始!」
教官の声と共に女性は詠唱を始める。
「水神よ、我が魔力を糧にかの者に襲いかかれ。
僕目掛けて水の弾が飛んでくる。さすがにあれを直接当たると痛いよね。
いくら負けると言っても……。
僕は指を鳴らすとその水の弾を弾く。
「へぇ……。ずいぶんと詠唱が早いんだね。聞き取れなかったよ。でもこれならどう? 水龍よ、我が魔力を糧に顕現せよ。
一部詠唱を省略して、かなりの速度で上級魔法を使ってみせる女性。
それに周りの観客から歓声が上がる。
「さすが最上生だ。でも新入生相手にやりすぎじゃない?」
「でも、さっきも動揺もせずに防いでいたし、なにかするんじゃないのか? あの新入生」
そんな声を聞きながら僕はどのタイミングで負ければ良いのかを考えていた。
負けるのは良いんだけど、自分から魔法にあたりに行って痛い思いをするのはいやだな……。
そうだ、この状況なら絶対負けしかないという状況をつくって降参すれば良いんだ!
例えば……、背後を取られていつ魔法を使われてもおかしくない状況を作るとか……。
よし、それならまずはこの危ない龍を……。
パチッ。
指を鳴らすと水の龍は破裂する。
それを見た女性は驚いた表情を浮かべていた。
あとはこれで背後を取って貰えば……。
逃げられないようにするために足に魔力を込めて、高速で女性に近付く。
ただ、勢いを付けすぎたようで手前で止まりきれずにそのまま女性にぶつかってしまう。
「えっ!?」
突然前にきた僕に驚いた女性。
なんとかガードの姿勢を取ったが、そのままの勢いで後ろの壁まで飛ばされてしまった。
ドゴォォォォォン!!
激しい音を鳴らして壁が凹む。
そして、女性は意識を失っていた。
「勝者、入学生のリーノ・ルクライド!!」
高々と宣言をする教官。予想外のことが起きて固まる観客。
しかし、それを気にせずにシーナ達が僕に近付いてくる。
「リーノ君、大丈夫だった?」
「うん、僕は大丈夫……だけど」
普通は負けるところで勝っちゃった……。よかったのかな?
でもみんな喜んでくれてるし、いいんだよね?
なんともやりきれない気分になっていた。
あっ、そうだ。あの女性は大丈夫だったのかな?
慌てて壁の側にいる女性に近付く。
まだ意識はないようで、他の上級生が必死に回復魔法を使っていた。
それなら僕も……。
指を鳴らし、同じように回復魔法を使うと、女性が淡い光に包まれる。
「嘘……、これって上級回復魔法?」
上級生の中から驚きの声が上がる。
そして、女性が目を覚ましたのを確認すると僕はシーナ達の場所へと戻っていった。
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