15話 金貨を持ってる人がいるなら別に使ってもおかしくないよね

 僕を襲おうとしてる魔物を倒してから、何かに襲われるということはなくなり、平穏な日常を迎えることができた。

 ただ、一つ変わったことといえば、剣術クラスの少女……フランが頻繁に僕に会いにくるようになったくらいだ。


「リーノさん、今日も一緒に訓練しませんか?」


 笑顔を見せながらフランが言ってくると、シーナとマシェが不満そうな顔を見せてくる。


「リーノ君は私と買い物に行くんだよ!」

「……私と魔法――」


 三人が僕の手を引っ張ってくる。

 どうやら彼女達もまだ僕がSランク冒険者だということには気づいていないようなので、そこはホッとしていた。


「ねぇ、リーノ君。リーノ君って冒険者だったんだよね? もしかして、リーノ君ってAランクだった……とか?」


 シーナがふとしたときに聞いてくる。

 思わず僕は固まって、ゆっくりとした動きでシーナの方に振り向く。


「そ、そんなことないよ……」

「そうだよね……。それだけ強いと有名になってるはずだもんね。無理に隠す必要もないし……」


 むしろ普通にこの生活を守りたいからSランクということは黙ってるんだけどね……。

 僕は乾いた笑みを浮かべながらシーナの話を流していた。


「それよりもあれっ、あれどうやるの? 地面割れる奴!」


 隙をついてフランが服を引っ張ってくる。

 目を輝かせながら聞いてくる。

 ただ、あれは普通に剣を振り下ろしただけなんだよね……。思いっきり。

 でも、それを伝えても納得してくれないので、もう、実際に見て何かを掴んでもらうことにした。


「それじゃあ、今日も訓練場に行く?」

「えぇ、行きましょう」


 フランとマシェがすぐに頷く。

 訓練場なら魔法も教えられるからマシェとしても満足なのだろう。

 ただ、その反面、シーナは少しだけ頬を膨らませていた。


「シーナ、ちょっとこっちに来て……」


 訓練場に行く途中にシーナだけ手招きして呼ぶ。

 そして、彼女がすぐ横に来ると僕は小声で話しかける。


「次の休みの日に、一緒に町へ買い物に行かない?」


 それを聞いた瞬間にシーナの動きが固まる。


「えっと……、わ、私の聞き違い……だよね? リーノ君と一緒に買い物って……」

「ダメかな?」

「ううん、私は大歓迎だよ……」


 シーナが顔を赤くして必死に首を横に振っていた。


「リーノ君、早く訓練場に行こう!」


 フランが大きく手を振って呼んでくるので、僕たちは顔を見合わせて、駆け出していった。


 ◇


 シーナと二人で出かける日になった。

 いつも通りの服で待ち合わせをしてる学園の前に行くとすでにシーナが待っていてそわそわとしていた。

 僕の姿を見つけると大きく手を振ってくる。


「リーノ君、こっちだよー!」

「ごめんね、待った?」

「ううん、今来たところだよ」


 どこか恥ずかしそうにはにかむシーナ。


「それで今日は何を買いに行くの?」

「いろんな素材とかちょっと実験用の剣が欲しくてね……」

「リーノ君の実験?」

 シーナが首を傾げていた。


「うん。といっても誰でもできるような簡単なことだけどね」


 前に木剣に魔力を込めたら青白く輝いたやつ。もし、普通の剣に試してみたらどうなるのかなと気になったから買ってみようと思っただけだった。

 ただ、これだとシーナと一緒に買いに行くにはもの寂しいかもしれない。


「シーナはどこか行きたいところとかあるかな?」

「私は魔道具を見に行きたいかな。流石に高いものだから買えないけど」


 魔道具か……。確か道具に魔力を込めて、その効果を使えるようにしたもの……だったよね。

 作るのが難しいみたいで、結構高値で売られてるらしい。

 まぁ、コツさえ掴めばそんなに難しくないんだけどね。

 確かに高能力の魔力を込めるのはなかなか大変だったかも。お店に売られてるくらいだからそういったものが込められてるんだろうな……。


「それじゃあそろそろ行こう」

「うんっ」


 僕たちは町へ向けて出発した。


 ◇


 町へつくとまずは武器屋へと向かった。

 剣の絵が描かれた看板のお店。そこへシーナが案内してくれる。

 店内には高価な装備は壁に掛けられていて、安価なものは樽の中に乱雑に刺してあった。


「いらっしゃい。適当に見ていってくれよ」


 あくまでも実験に使う用だからそんなに高いものは買わなくていいかな。

 樽の中から適当に何本か見繕ってみる。

 うーん、どれも変わらない気がするけど、どれがいいんだろう?

 とりあえず良さそうに見えたものを五本ほど取り出すと、店員に手渡す。


「これください」

「あぁ、そっちのやつは一律で銀貨一枚だよ」


 金貨を取り出すとそのまま店員に渡す。


「金貨一枚ですね。…………金貨!?」


 店員が僕の顔と金貨を交互に見て驚いていた。


「ちょ、ちょっとお待ちください。今お釣りを準備しますので!」


 店員は慌てて奥へと入っていく。

 それを見ていた僕は呟く。


「何かおかしなことをしたかな?」

「まぁ私たちみたいな学生は普通、金貨なんて持ってないからね」


 えっ!? でも、ドラゴン討伐すれば普通にもらえるものだよ?


「も、もしかして、僕って変だったかな?」


 慌てながらシーナに聞いてみると彼女は笑っていた。


「大丈夫だよ。貴族の人とかだと普通に持ってるし……」


 な、なんだ……。持ってる人もいるなら何もおかしくないよね。

 少し安心しながら戻ってきた店員からお釣りを受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る